「なぁ、お前はカメだ。そうだよな?カメ」
背の低い太った男、マリオはそう言いながら足元で震えている浮浪者を踏みつけた。
「た、助けてください…許してください…」
浮浪者は弱々しいながら、必死の思いを口にした。腕や脚は既に変な方向に曲がっている。鉄パイプで何度も殴打されたあとだ。
「…なぁ、カメ。俺は生まれてきてからずっと疑問に思っている事があるんだ」
マリオは浮浪者の顔を見ながらそう答えた。しかし、そのミルク色の濁った目は浮浪者を見ていながら、明らかに別のなにかを見ていた。
「カメの鳴き声だ。…カメってやつぁ、いったいなんて泣くんだ?教えてくれよ」
マリオは浮浪者に顔を近づけた。臭い息が顔にかかり、浮浪者は体を強張らせた。
「ひ…ひぃぃ…………」
ひきつるような、恐怖とも嘆きともつかない声が浮浪者の口から漏れる。
「ヒ、ヒイイ?」
それをオウム返しに口にするマリオ。
「…あ、あぅ…ああ………ひぃ……」
腕が痛い。脚が痛い。アバラも何本か折れている。
「アー、アゥ…アー………ヒー?」
またオウム返し。
「うぅ……う………」
なんで俺がこんな目に?助けて。誰か。誰でもいいから助けて下さい。
「ウー、ウー」
うんうんとうなづきながら、オウム返しが続く。
「た…たすけて…殺さないで…」
息が臭い。腹も減ってる。この街は嫌いだ。もうたくさんだ。
「タ、タスケテ、コロサナーイデー…か。お前、物知りだな。………で」
感心したように何度もうなづくマリオ。再び浮浪者の顔を覗き込む。腐ったチーズのようにどろりと濁った目に、浮浪者の顔が映る。恐怖に怯える顔が。
「………俺はカメが大っ嫌いだ」
ぐじゃっ。
腐った果実を踏み潰したような音。
マリオは赤黒く染まった鉄パイプを、不思議なものでも見るような目で見た。
「…赤い」
ボソリと独り言。足元に転がる人型の物体はもう動かない。
「………すげー!カメって火ぃ吹くんだ…」
浮浪者の、かつて頭部があったはずの部分を見ながら、マリオは悦に入ったように呟いた。真っ赤に塗れたコンクリートの上に、肉片のようなものが飛び散っている。
唐突に、マリオの股間から湯気が沸き立ち始めた。
「あー………カメを叩くといっつもこれだ。へへへ、あーキモチイー」
のそりと、脚をあげて歩きだす。全身の贅肉がぶるんと揺れる。
「今日は8匹かー。…あ、1UPじゃねーか。ひゃっひゃっひゃ」
何やら意味の分からないことを呟きながら、マリオは夜の街に消えた。
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