PHASE:81-91

2006年02月14日
00:58
81:遊帝(あそびてぇ)
『いいのか?あいつ喋っちまうぜ?』
 サトシからの通信を受け、ネスはワイングラスに残った僅かな赤い液体を飲み干した。
「…だろうね。彼の事だ。助かりたい一心で洗いざらい喋るだろう。それこそある事ない事、なんでも喋る」
 少し唇を舐めてからネスは答えた。「仮に彼が喋らなくても、デビル大尉が彼を喋らせるだろうね」
『だったら…』
「そして、ディディー中佐はそんな大尉のお手柄を許せない」
『…?』
「デビル大尉とディディー中佐の言う事は食い違う。二人がルイージから聞き出す事は全く同じにも関わらず…ね」
『そして、間抜けでノロマなドンキー野郎にはどっちが正しいか分からない…か。あんた、やっぱり怖い奴だな』
 そういうサトシの声は愉快そうだ。

「やめ、やめてくれぇえええ」
 ついに声に出た。
 しかしルイージの情けない泣き声は喧騒にかき消されてしまった。

 妻と娘が待っている。
 あれ、あそこにいる人、どこかで見たような気がするなぁ。誰だったかな。変な色してる。元は緑かな?赤くて青くて元は緑ででもやっぱり赤いような青いようないやいや緑で、まぁいいや。
 とにかく、この強い人を食べてしまわないと。
 すごいなぁ。腕に鞭なんかついてるなんて。
 でも僕も負けないぞぉ。
 見ててくれ、マイダーリン。

 そうだ。いいぞ。その調子だ。
 もっと。もっとだ。
 戦おう。分かり合おう。人間が理解しあうのには、殺しあうのが一番だ。それ以外に確かなコミュニケーションなどありはしない。
 その原始的なやり方、嫌いじゃない。まるでワニだ。トカゲだ。恐竜だ。お前は人間が封印してしまった、危険な領域にアクセスしている。アクセスできる。素晴らしい。理性なんて下らないものの為に、人間が封じ込めた素晴らしい財産に、お前は触れることが出来るんだ。
 その原因がポケモンだのキノコだの、根っから頭がイカレているだの、そんな事はどうでもいい。そんな些細な事はどうでもいいんだ。
 この瞬間、この血飛沫、この痛みこそ真実だ。この戦いだけが現実だ。そうだ。そうだ。いいぞ。
 …もっと。もっとだ!

「い、今のうちに…」
 ルイージは床を這い、二人の視界から極力逃れようとしていた。
 幸いデビルも吉井も自分には気づいていない。今ならこっそり逃げる事も出来るかもしれない。
 しばらく距離を取っていた両者は、再び殺し合いを始めた。今度はもっと近い。吉井は噛み付こうとするし、デビルはそれに構わず吉井の口の中に直接パンチを見舞おうとする。
 もはや理性も何もない。獣の戦い方ですらない。
 これは儀式なのだ。狂気という神に捧げる供物の儀式。互いが生贄であり、血塗れで頭のおかしくなったクソったれな司祭そのものなのだ。
 こんなイカレた空間にいるのはゴメンだ。しばらくルイージは吉井が正気に戻って自分の言葉が届く事を期待していたが、それがありえないと知ると床を張って逃げ出そうとした。
 ちらりと二人を見る。
 …大丈夫だ。奴らこっちなんか気にしちゃいない。好きにするがいいさ。死ぬまでやってろ。勝手にしな。
 廊下になんとか這い出たルイージはそこで一息ついた。なんとかあの狂った空間から抜け出す事が出来た。あんなイカれた奴らと一緒にいると、こっちまでおかしくなっちまう。それこそ死んだほうがマシってやつだ。少なくとも死ぬ時はてめぇでいられる。
「うえっ」
 誰かがルイージを踏んづけた。
 赤い服の男が踏み出した足の真下に、たまたまルイージが寝転がっていたのだ。
 ちくしょう、重てぇ。この野郎一体いくつパーツ生めてやがるんだ。
「どうした、セキ?」
「…?なんだ、職員か?戦闘要員以外は避難…貴様っ!?」
 一度離れた足は再びルイージに踏みおろされた。もう一人の緑の男が踏みつけたのだ。
「ぐゅっ」
 カエルが潰れたような声でルイージが鳴く。
「貴様…誰だ!」
「侵入者か!殺してやる!」
 赤い男がルイージを何度も何度も激しく踏みつける。
 肋骨の折れる音が何度も聞こえる。耳に聞こえるのではない。胸の肉を伝わって、中から聞こえるのだ。
 痛い。痛いよ兄さん。やめてくれ。助けてくれ。ああ、また一本、いや二本折れた。いや、砕けた。なんで俺がこんな目に。くそ、全部あのバカのせいだ。ちくしょう、なんでこいつも緑なんだ。緑っていや、踏まれる奴の色だろ。俺も、吉井もそうだ。いや、そうか。こいつもいつかマリオに踏まれるのか。で、今は俺がこいつに踏まれてる。
「よせリョク!殺すな!」
 赤い奴が緑を止めた。なんだよ。赤い奴は止めねぇぞ。むしろまず緑を殴るんだ。『俺にも殴らせろ』ってな。それで、その後は一緒になって俺を殴るんだ。そら、お前もこの緑の奴を殴れ。マリオが俺を殴るみてぇに。ざまぁみやがれ。クソ緑め。…くそ、なんでだ。なんで殴らねぇ。
「くっ…。忌々しい…。さっきの奴らといい…!くそぅ!」
 緑の奴が肩の傷(撃たれたのか?間抜けな野郎め)をおさえながら俺の鼻を蹴り上げた。
 ああ、さっきスミスの野郎にも蹴られたんだっけ。顔は勘弁してくれ。女共がうるさいんだ。ああ、ちくしょう、これで俺の鼻の骨はバラバラだ。ん?ハナ?ハナか。花だ。デイジー。ほら、綺麗だろ。そうだ。俺の役に立ってくれ。そうだ。抵抗するな。よし。それでいい。大人しくするんだ。いい女だ。よし、あとはお前の首を切り取って吉井の奴に…ああ、鼻が痛い。ちくしょう。マリオめ。あれ、吉井だっけ?どっちでもいい。赤い奴め。緑も反吐が出る。死ね。みんな死んじまえ。死ね。死ね。死ねったら死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねシねシねシねシねシねシねシねシねシねシねシねシねシねシねシねシねシねシねシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネ。

 ルイージは気絶した。


2006年03月25日
00:36
82:遊帝(あそびてぇ)
 こりゃ、今日は雪だな。レミーの奴が人を待たせるなんて滅多にないのに。
 恋人達が待ち合わせに使う広場で、ロイは既に30分は待たされていた。さっきから頻繁に時計を見ているが一向に進んでいないように感じる。
 そろそろ吐く息が白くなりそうな季節だというのにロイの服装はいつも通り黒のタンクトップ一枚だ。下はジーンズにスニーカー。一応グレーのコートを小脇に抱えているが、それさえ放り出してしまいそうな雰囲気だ。
 筋骨逞しい大男がデートスポットで一人ポツンと立っているのはかなり異様な光景だ。ましてピンクのバンダナと厳しいサングラスとくれば、周囲のアベックからちらちらと盗み見られても仕方がない。
 全く居心地が悪いったらないぜ。
 先程など、不審に思ったカップルに通報されてしまった。警官が警官に職務質問されては笑い話にもならない。
 だいたい、このチャラチャラした広場はなんだってんだ。間抜けなクソガキどもがサカッて相手を探してるだけじゃないか。そんなに乳繰り合いたきゃ、さっさとそこらのホテルにでもシケこみゃあいいのに。
 ロイにはデートというものがどうも理解できなかった。
 結局性行為に至るまでの、気の長い前戯と変わらないのではないか。違いと言えば裸でない事と、ベッドの中でない事だけだ。実際、周囲の茂みやベンチでは既に本番行為の一歩手前まで及んでいる若者達もいる。もう少し時間が経ち、周囲が夜の帳に包まれれば、間違いなく彼らはそのまま本番行為に突入する事だろう。別に人目を気にしているわけではない。単に夜という口実が欲しいだけだ。太陽がこの世から消えてしまえば、彼らが行為に及ぶ事を躊躇う理由はきっと無くなるに違いない。
 まるで犬猫の交尾だ。
 ロイがそう思うのは、彼が童貞だからという事だけではない。元々無闇矢鱈とベタベタした関係が嫌いなのだ。ストリートという苛酷な環境で生きて来た彼にとって、不必要に他人に甘えるというのは理解できないのだ。
 別段その日の食い物に事欠く訳でもなければ、今日のねぐらを巡って浮浪者を相手に下水で取っ組み合う必要もない。ナイフ片手にうろつくパンクに刺されやしないかとビクビクする必要もない。
 そんなご立派な暮らしをしている連中がなぜこうまでして傍らに誰かいる事を望むのか。隣の人間と協力しなければ殺される、そんな反吐が出そうなコンバットゾーンとは縁の無い連中がなぜ?
 日々が危険という内容物で満たされているロイには、街というぬるま湯で暮らす事への空虚さは理解できなかった。
 彼の中では刺激を求めながらも肝心の一歩を踏み出せないタイプの人種は豚と同義だ。つまり、世界の半数以上は豚という事になる。

 ロイが最初に"豚"の存在を意識したのはジュニアハイに上がってまもなくの事だった。
 元から喧嘩っ早く、曲がった事が許せない性質のロイは、入学初日に上級生を相手に大喧嘩を繰り広げた。原因は「上級生に挨拶をしなかった」という因縁だ。どんな組織にでもある、伝統というやつだろう。
 当時から体格的に恵まれていたロイは真っ先に目をつけられた。
 喧嘩で負けた事がなかったロイは上級生五人を相手にしても全く怯まなかったし、実際にひけを取らなかった。なにせ上級生のパンチ十発分よりロイの一発のほうが何倍も威力があった。
 そしてそれが仇となった。
 自分達がとんでもない相手に喧嘩を売ってしまった事に上級生達は早々に気づいていた。しかし尻尾を巻いて逃げ出すわけにはいかない。相手は年下である上、たったの一人なのだ。
 追い詰められた上級生は、懐からナイフを抜いた。使うつもりのなかった、使ってはならない凶器だった。ナイフを抜いた時点で、目の前の相手が自分達よりも勝っている事を証明してしまった。だからこそ後には引けなくなってしまったのだ。ナイフは、振るわれなくてはいけなくなったのだ。上級生としてのちっぽけなプライドを守る、ただそれだけの為に。
 そしてロイも、黙ってその餌食になるわけにはいかなかった。今更泣いて謝ったとしても、そのナイフが二、三度振るわれる事は間違いない。そして、もとより謝るつもりなど毛頭無かった。
 若い頃は誰しも経験のある、意地と意地とのぶつかり合いが、最悪のケースで実現してしまった。
 その結果、ロイははじめての殺人を経験した。揉み合っているうちに起こった事故だった。ナイフを抜いた相手はすぐ病院に運ばれたが、結局助からなかった。

 ロイは少年刑務所送りとなった。
 両親がおらず、施設暮らしだったロイには弁護士を雇う余裕は無かった。鑑別所で留まる事もなく、裁判も受けられずに大人と同じように、一方的に裁かれた。
 裁判費用を節約する為、警官が必要以上に"熱心に"仕事をこなすのは珍しくない。射殺体が被告人になる事は決してない。大昔から仕事熱心な事は美徳とされてきた。刑の執行は早いに限る。
 ロイにとってそれはどうでも良かった。彼の父親も警官だったから、公僕という人種がどういう事をするのかは既に知っていた。
 ただ、初めての殺人に対してショックが無かったといえばウソになる。襲い掛かってきたのは相手のほうだし、相手の死は不運な事故だ。例え検事や裁判官が認めなくても、ロイ自身が誰よりもそれを知っている。
 だが自分が原因で、人が一人死んだ事だけは動かしがたい事実なのだ。自分を刺し殺そうとしてきた相手になど同情の念は湧かない。黙って殺されるより、殺したほうが良かった。自分の選択は間違ってなどいない。
 だが、それと殺人という重い現実は別だった。少なくとも、当時のロイにはそれを分けて考えられる程割り切る事は出来なかった。

 レミーと最初に出会ったのはその刑務所だった。


2006年04月04日
21:09
83:遊帝(あそびてぇ)
 ロイは、レミーが収監されていた詳しい罪状を当時は知らなかった。夫婦を刺し殺した、ようはロイと同じ殺人だという事以外は。それがレミーの実の両親だという事を知ったのは、ずっと後になってからだった。
 年齢が近い二人はすぐに仲良くなった。
 やがて二人は釈放を条件に、レンタコップの勤務契約書にサインした。二人の拘留期間はそれぞれ20年を軽く越えていたからだ。それ以上にロイは「力が欲しい」という気持ちのほうが強かったが。

 ロイとレミーは幸運だった。クッパという上司と、そしてルドウィッグという優れた先輩に出会えたからだ。
 ロイは訓練を受ける事が出来た。それは短い期間だったが、何も教えられずに安物の銃だけ与えられ、現場に放り出される一般のレンタに比べれば恵まれていた。それにレミーとモートンも一緒だった。
 訓練は想像を絶する厳しさだったが、レミーとモートンという友人がいたから耐えられた。それに刑務所での退屈な毎日よりは刺激に満ちていた。

 か細いレミーが訓練を問題なくこなした事は意外だった。特に格闘能力は教官役であるクッパ達が驚く程のものだった。
 そういえば、ロイはクッパには一度も格闘で勝った事が無かった。レミーでさえ20回に1回勝てるかどうかだ。ラリーの勝率も似たようなもので、他の者は誰もクッパに適わなかった。

 銃器においてはルドウィッグが主に教官を務めた。狙撃から近接状態での拳銃の使い方、弾薬と弾頭の使い分け方、相手のどこを狙えばより効果的か、どういう風に動けば相手の弾に当たりにくくなるか。
 ルドウィッグは教官としては無口で愛想も無いが、請われれば嫌な顔一つせず教えてくれた。何か一つ聞くと、それに関する答えとアドバイス、ちょっとした小技などが十は返ってきた。特に銃撃戦については普段からは想像もつかない程饒舌だった。
 もしかしたら、ルドウィッグはロイが思っているよりもずっと世話焼きな人間なのかもしれない。

 ウェンディは現行法と規律の成り立ち、レンタと一般の警官、いわゆる制服組と自分達がどう違うのか、最新のテクノロジーによるセキュリティとその基礎、弱点を突く方法とそれを見つける方法を教えた。
 ウェンディは聡明な女性だった。やる事にそつがなく、なんでも完璧にこなした。
 ロイからすると、ちょっと苦手なタイプだ。女はちょっと抜けてるくらいのほうがいい。少なくともロイの好みはそうだ。

 こんな調子で一週間程経過した直後、30sの荷物を背負わされて汚染区域を80km、二日で踏破させられた。しかも水も食料も持たず、汚染された動植物や原住民(要は行き場を失った厨酷人や姦酷人だ)と戦いながらだ。ほとんど眠る事は出来ず、休憩もほとんど無し。水は汚染の軽度なものを濾過して飲んだが、食料は結局手に入らなかった。
 なんでも、この内容は世界トップクラスの特殊部隊の入隊試験の内容だったらしい。
 違いとしては、教官であるクッパやルドウィッグと通信が許されていた事、レミー、モートンと一緒だった事だ。本来は単独で、一切他者とのコンタクトは無い。
 結局、最終的に一人で同じ内容の訓練をやらされる事になるとは思わなかったが。

 そんな訓練が二週間続いて、ロイ達は鍛えられていった。訓練の最中に命の危険を感じた事は少なくとも7回はあった。二日に一回は死を意識したという計算になる。今まで生きて来た中でも最多記録だ。
 僅か二週間という短い期間で一人前の人間を育てるには多少の無茶は必要だったのだろう。現に、ロイ達は多少の任務では音を上げる事は無かった。

 ある時、ロイは路上駐車していた男を取り締まろうと呼び止めた事があった。
 男は振り返るより先に運転席に積んであったライフルをつかみ取り、ロイを蜂の巣にしようとした。
 やばい、と体がすくんでビビるより先に、ロイの拳銃はそいつの頭を撃ち抜いていた。まったく無意識のうちに体が勝手に動いたのだ。あと一瞬遅かったら、高速で射出される5.56mm弾がロイを肉片にしていただろう。

 一番訓練のありがたみを知ったのは、十年前の第二次ホワイトアウト未遂事件だ。
 結局二年前に第二次ホワイトアウトは起こってしまったが、ロイ達コクッパ小隊がいなければそれは第三次と呼ばれていた事だろう。
 キノコ王国が最初に襲撃された第一次ホワイトアウトの原因は、今では判然としない。関係者の大半は死んでしまっているし、当時の政府はそんな騒動自体を否定した。
 ただ、かつてワシントンと呼ばれた地、世界の中心であった地で大虐殺が行われた、それだけが事実だ。
 そして、その日はアメリカという大国が事実上瓦解した日でもある。
 同日、人類は長年の夢であった国家の統一、すなわち中央統制機構の樹立を成した。
 中央は高らかに世界に向けて宣言した。
 平和が訪れた、我々人類はついに団結し、分かり合う事が出来たのだと。
 それがただのフィクションである事を、世界の誰もが知っていた。

 未然に防がれた第二次ホワイトアウトの原因は、王国に収容されている囚人達と、施設にあるキノコが原因だった。
 囚人達は特定の何者かの意志に操られたように一斉に凶暴化した。
 キノコによって正常な神経を失っていた囚人達は手ごわかった。なんといっても相手は痛みという感覚が欠如しているのだ。生命活動を停止するまで、物理的に、徹底的に肉体を破壊する以外に止める方法はない。そして、それが実行されるまで、まともな訓練を受けていなかった間抜けな看守達はネズミ算式に殺されていった。
 そこで出動を要請されたのが、ロイ達コクッパ小隊だった。


2006年05月05日
23:26
84:JKとF5
『NHK(ニンテンドー放送協会)がニュースをお伝えします』

『前日からハイラル地区周辺に発生していた厨国人警報が、先程解除されました。付近住民の避難は完了しており、隣接地区での被害は、最小限にとどめられた模様です。
 注意報がレベル3の警報に発展した後、レベル4にならずに収束したのは、2年ぶりです。教団による治安維持活動の成果として、安全保障専門家の間では教団を高く評価する声が聞かれます』

『続いてのニュースです。
 人種差別撤廃を訴える主婦等によって組織された「模範的市民の会」が先日、市の教育委員会に提出した訴えを、市は受理する意思があると正式な発表を行いました。
 「模範的市民の会」によりますと、「ニガーボールという名称は差別的表現を含んでいる」との事で、市はこれまで公式な回答は避けてきましたが、今回のシンポジウムで「フリーダムボール」という新名称の使用が対案として発表され、会もこれに合意しました。
 これを期に、正式な辞書に「フリーダムボール」という新単語が加わる事になりそうです。
 また、来月にもマザーコーポレーションから「フリーダムシューズ」等の新製品が市場に現れるようです』

『レッドスター軍壊滅の続報です。
 市警察によって壊滅されたとされるテロ集団・レッドスター軍ですが、有色人種を多く含む残存勢力の存在が警戒されています。市警察では正式な会見を行っていませんが、市民の皆さんは黒人・中東系・インディアン等、不振な有色人種に充分、注意して下さい』

『次のニュースです。
 故ヤマウチ氏の葬儀が、つつがなく行われました………』

………


2006年05月10日
21:35
85:遊帝(あそびてぇ)
『ふざけんな!汗水どころか血ぃまで流して戦ったのは誰だ!?』

 真っ先に怒鳴り声を上げたのは、やはりラリーだった。『この!俺達!コクッパ小隊じゃねぇか!!』
 饒舌なラリーにしては珍しく舌がちゃんと回っていない。それだけ頭に血がのぼっているのだろう。

『冷静になるんだ。僕達はハメられた』

 それを冷静になだめてかかったのは、やはりイギーだった。

 第二次ホワイトアウトを未然に防いだコクッパ小隊に待っていたのは、特別報酬でも称賛の声でもなく、チームの解散という罰則だった。
 暴動が収束した旧ホワイトハウス跡地から当時の大統領の遺体が見つかったのだ。至近距離から拳銃で心臓を貫通、即死だった。
 非公式に王国を訪問していた大統領の暗殺。
 容疑はコクッパ小隊にかけられた。犯行に使用された拳銃弾が、小隊の使用している特注品と同じだったからだ。
 誰も心当たりの無い事だった。
 戦闘しているすぐそばに大統領がいたとは思いもしなかったし、誰かを暗殺するような余裕も無かった。
 この屈辱的な濡れ衣に対して、小隊は一斉に反発し、猛抗議した。名誉の為に戦ったつもりなどない(もしかするとイギーはそうだったかも知れない)が、不当な評価には納得できない。
 クッパは収監され、隊の者達も待機という名のもとに軟禁されていた。ただ、クッパと違って7人一緒にというのは僅かに救いがある。こうして互いに話す相手がいるだけでも。

『みんな落ち着いて…。状況証拠だけでは起訴できないはずよ』

 ウェンディが誰とも目を合わせずに言った。その顔色は端から見ても分かる程真っ青だった。

『カービー…あのホモデブ野郎!』
 ルドウィッグが珍しく感情をむき出しにして言った。『クッパだけじゃない、俺達全員を始末しやがる気だ…。ここまでしてくるとは思わなかったぜ…!』

 ただじっと待っているだけなのは辛かった。みんなジッと静かに待つのは苦手なのだ。
 クッパなら、こんな危機も乗り切ってくれるはず…。
 そう信じていたからこそ、皆おとなしくしていた。そうでなければとうに暴れだしていたことだろう。
 今になって思えば、あの時暴れていればよかったともロイは思う。クッパ一人を欠いていても、レンタ最強とも呼ばれたコクッパ小隊だ。本部の腰抜けを震え上がらせる事くらいは十分できたはず。

『…カービーは、奴は生きているだけで害悪だ!生かしてはおけない!』

 突如イギーが、普段の冷静さをかなぐり棄て、今すぐ強行手段を取ろうと主張した。おそらく、辛そうなウェンディを見て耐えられなくなったのだろう。
 もし実行に移せば、自分達に待つのは銃殺刑だろう。しかしこのまま待っていてもどうせロクな事にはならない。
 レンタはいつ死んでもおかしくない仕事だ。ならば、ここで派手に散るのも悪くはない。ロイもそう考えた。
 それを止めたのは意外な事にラリーだった。

『バカ、落ち着けってぇの。あのクソホモ野郎は俺らに暴れて欲しくてしょうがねぇんだよ。…あん時もそうだったからな。ここでまた、あいつを喜ばせてどうするよ?それに冷静になれっつったのはおめぇだろが』

 ロイはラリーとイギーのもといた部隊が全滅した理由は知らない。知らないが、二人の雰囲気からしてカービーが一枚噛んでいるのはなんとなく察しがついていた。
 カービーは事あるごとに自分達に嫌がらせをしてきた。特にクッパに対しては敵意をむき出しにしていた。
 おそらく、今回の事もカービーが何か企み、自分達はまんまとそれにハマッたのだろう。
 自分達が帰還した直後、あのマリオが王国送りになったのがその証拠だ。おそらく大統領を殺したのはマリオだろう。

 そして1時間後、クッパが大統領暗殺を自供した事を知った。

『隊長!なんとか言ってくれよ!』

 クッパは何も答えなかった。
 専用の護送車に乗せられるクッパに、小隊の誰もが声をかけた。濡れ衣なんだろう、何か考えがあるんだろう、頼むから本当の事を言ってくれ…。
 クッパは、何も言う事はなかった。

 こうして、小隊の解散は唐突に、実にあっけなく訪れた。

 …レミーの奴、まだ来ないな。
 ロイはあの時のクッパの姿を思い浮かべていた。
 今日は妙に昔の事を思い出す。
 あの時レミーは泣きそうな顔してたっけ。
 モートンは…表情は分からなかったが、いつもの受けないジョークも出なかったからショックだったんだろう。あいつがあんなに黙り込むなんて、Jrが死んで以来だな。
 クッパの顔が、より鮮明に浮かび上がる。何も語ろうとしないクッパの顔が。
 ああ、そうだ、あの時もそんな顔してたな。
 それで俺達には何も言わずに、一人で遠くに行っちまったんだ。
 隊長。あんた、あれからどうしてたんだ?
 俺は色々あったぜ。中東に行ってたんだ。あそこはパスが無い奴にとって一番楽だからさ。あんたに教えてもらった事、かなり役に立ったぜ。訓練中はなんべんも死ぬ、殺されると思ったけどな。はは。
 …なあ。
 なんか言ってくれよ。
 あの時も、そうして黙ってるだけだったよな。
 こんなに近くにいるのに。
 …近く?
「久しぶりだな。ロイ」
 目の前に浮かぶクッパの顔が、口を開いた。

 十年ぶりの再会もまた、唐突に訪れた。


2006年05月10日
21:47
86:遊帝(あそびてぇ)
 タタンガはコートの端を押さえながら一人街の中で佇んでいた。
 自分が目を覚ました時、既にデイジーはいなかった。
 なんでも、自分をヤミ医者まで運んだのは背広の大男らしい。そいつが法外な治療費も払ってくれたおかげで、タタンガは破産せずに済んだ。
 しかし何物なのだろう。
 自分には背広組のようなエリート族との知り合いはいない(いたらもっとマシな職につき、もっとマシな生活をしている)。となると、見ず知らずの自分をわざわざ運び込み、そして治療費まで払ってくれた事になる。
 そんな非現実的な事が、果たしてありうるのだろうか?
 …ありえない。
 子供に聞かせるお伽話じゃあるまいし、いや、お伽話にしても御粗末だ。
 少なくともタタンガの知る限りそんな奇特な人間はいない。生まれてから40年以上経つが、見たことも聞いたこともない。
 しかもその男は自分を軽々と肩に担いで来たという。身長197cm、体重98kgのこの俺を。…いや、今は116kgだったかな?ちょっと太ったんだ。ズボンのベルトが2穴増えた。いや、俺だってまだまだイケるはずだ。…間を取って107kgくらいにしておこう。
 ともかく、並の男では持ち上げるのも大変な体格だ。それを軽々と…。
 背広組となると、考えられるのは"オサムライサマ(非合法工作員)"か。それならヤミ医者の治療費くらい簡単に払えるのもうなづける。なにしろ連中の収入ときたら、俺達庶民と比べてゼロが三つは違うらしい。それに、企業御用達の強化骨格なら車でも片手で持ち上げる事ができるだろう。
 しかし、そのオサムライサマが自分を助ける理由が見あたらない。一番肝心の部分が分からないままでは、いくら推測を巡らせてもなにひとつ見えて来ない。
 そしてもう一つ気になる事がある。デイジーがどうなったかだ。
 あの夜、雨の中を裸足で走るデイジーの姿を見かけた者は何人もいる。しかし、その後は一帯がスクラップ雪崩で埋まってしまったのだ。
 タタンガは現場を見に行ったが、既に部品目当てのジャンク屋がお宝を漁り尽くし、崩れた部分はほとんど跡形もなく片付けられていた。ジャンク屋達に聞いて回ったものの、人間の死体はなかったという。
 当然自宅にも帰ってなかった。例の重症の少年もいなかったので、おそらく教団に連れ去られたのだろう。可愛そうな話だが、それは仕方が無い。タタンガ自身、あの三姉妹を向こうに回し、こうして生きているのが不思議なくらいだ。
「デイジー…。一体どこへ行っちまったんだ…」
 タタンガはスクラップ山周辺の住人達から、あの日の晩にルイージが山の近辺をウロウロしていたという事を聞きだし、その足でルイージの経営する金物店に怒鳴り込んだ。しかしそこには人の姿はなく、もぬけの空だった。なぜか人糞と小便らしき液体が店中に大量に撒き散らされていたが、人間の姿はなかった。
 全ての線を経たれ、タタンガは途方に暮れるしかなかった。
 くそ、ルイージめ。あの緑ぃの。原色のヘドロ野郎。デイジーをどうしやがったんだ。
 ルイージがデイジーに何かをしたに違いない。タタンガにはその確信があった。
 タタンガは別段デイジーに特別肩入れしているわけではない。店の娘の誰であっても同様に心配しただろう。本人にはあまり自覚はないが、そういった面が店の者や周囲の信頼を集める。
「おい、あんた!タタンガっての、あんただろ!?」
 そのタタンガに、後ろから声をかける者がいた。
「?」
 振り返って見ると、そこには大型のバイクにまたがった少年の姿があった。腰にボウガンやナイフなどの物騒なものをぶら下げてはいるが、その顔立ちにはどこか幼さが残る。
「…パック(追い剥ぎ集団)に知り合いはおらんぞ」
 タタンガは少年に向けて無愛想に言った。イキがっているだけの小僧を相手にしている暇はないし、そんな気分でもない。
「俺ぁ追い剥ぎじゃねぇよ!クラン・メンバーだ!」
 少年からは予想通りの反応が返ってきた。
 クランとは家族を表すアイルランド語で、もっぱら原住民の部族などをあらわす単位として使われる。
 ストリートを住処とする少年達は、生き伸びる為に集団での追い剥ぎ行為も平気で行う。彼らはネイティブアメリカンを標榜して、自らをクランと名乗る。かつて政府に弾圧された、少数だが誇り高い部族というわけだ。
 タタンガにもそういうイキがった時期はあったし、政府に向かってクソを投げつけたくなる彼らの気持ちはよく分かる。
「で、そのクランのメンバーが何の用だ?」
 タタンガにしてみればデイジーを探したかったのだが、もう辿れる線は何もない。他人と話す気分ではなかったのだが、途方に暮れて座り込んでいるよりは誰かと話していたほうが気が晴れるかと思ったのだ。
「あんた、このへんの店並び仕切ってんだろ?」
「…仕切ってるってわけじゃない。周りに人が集まって来ただけだ。ワシがそうしたかったわけでも、そう頼んだわけでもない」
「おんなじ事だよ。とにかく、あんたの助けがいるんだ!」
「ヨソ当たりな、坊主。ワシは今忙しいんだ」
「忙しいって?ボケラーっと腑抜けたツラで座り込んでるのがかよ?」
「フン、言ってくれるじゃないか。じゃあ話だけは聞いてやる。ワシに何をさせようってんだ?」
「今、俺の知り合いがインチキ教団どもに絡まれてる。このままほったらかすと区画ごと異教徒狩りに発展しかねねぇ。そいつを防ぐのにあんたが必要なんだ!」
「………なんだと?教団?今教団って言ったか?あのクソ忌々しい、腐れ教団どもの事か!?」
「他に教団なんかあるかよ。あいつらをブチのめして追い返すんだ!それで、二度と手ぇ出させねぇように…」
「ちょっと待て、教団を相手に喧嘩売ろうってのか?あいつらがどれだけ危険でイカレてるのか知った上で言ってんのか?」
「ったりめぇだろ!国が認めただのなんだの知った事かよ!」
「…面白い事言うじゃないか、ボウズ」
 タタンガは少年に向けてニヤリと笑った。
「ボウズじゃねぇ!俺にゃピットっていう名前がある!」
「へっ、そいつぁ悪かったな、ボウズ」
 タタンガはゆっくりと立ち上がった。昔の血が騒ぎ出す。悪い癖だ。これさえなければもう少し商売も上手く行くんだが。
 デイジーを連れ去ったであろう教団の連中をブチのめす。上手く行けば彼女の居場所も聞き出せるかもしれない。
 教団を敵に回せば商売に大きく差し支えるだろうが、それはこの際どうでもいい。
「本気で教団に喧嘩売ろうだなんてバカが…」
 誰かをブン殴りたくて仕方ない気分だったのだ。「このタタンガ様以外にもいやがるとはな!」


2006年05月10日
22:14
87:遊帝(あそびてぇ)
「うー!う、う!」
「うー、じゃない!いいからここで待ってろ!第一、お前もう走れないだろ?」
「あー………」
 リンクはついて来ようとするゼルダを強引に説き伏せる。リンクの強い口調にゼルダは渋々ながら納得したようだ。
 この廃墟はゼルダや子供達が秘密基地としてよく出入りしているものだから、教団の人間に見つかる心配は無いだろう。昔はチャイルドポルノのビデオ販売をしていた店舗だったらしいが、詳しい事は分からない。
「心配すんな。すぐ戻って来るよ。これだってあるし」
 リンクは咄嗟に教会に置いてあった剣を持って来ていた。数本のコードで壁に接続されていたが、そのまま強引に引き剥がしたのだ。勝手に持ち出した事になるが非常事態だ。ガノンも大目に見てくれるだろう。
 リンクは子供達の悲鳴を聞いてすぐに広場に戻った。そして青い服の男が教団の者と思しき男達を蹴り飛ばした瞬間に出くわしたのだ。誰がどう見ても厄介事だ。リンクは考えるより早くゼルダの手を引いて駆け出した。
 詳しい事情はよく知らないが、何故だかゼルダをああいった面倒事に巻き込みたくなかったのだ。なぜゼルダに対してそういう思いを抱くのかは自分でもよく分からなかったが、とにかくリンクにとって最優先事項だった。
「じゃあな。イイ子にしてるんだぞ。…言うだけ無駄かもしんないけど」
 リンクはゼルダの頭に手を置いて髪を撫でた。柔らかい髪の感触が指に心地よい。
 頭を撫でられ、憮然とした表情のゼルダ。
「?なんだよ。子供扱いされるのイヤなのか?」
「ぶぅー」
 リンクはからかうように笑った。なぜだか、その時のリンクにはゼルダの気持ちが分かったような気がした。実際ゼルダはリンクのその言葉を聞き、今度は拗ねるような表情になったから当たっていたのだろう。

「く、くそ!抜けろってのに!こんな大事な時に使えないでいつ使うんだよ!?」
 リンクは広場に駆け戻るまでに一度剣を抜いて刀身の状態を確かめようと思った。が、いくら引っ張っても剣は鞘にガッチリと入ったままでビクともしないのだ。
 なんらかの電子ロックが施されているのかと思って鞘や柄の部分を調べてみたが、キーコードを打ち込むようなキーボードやダイアルの類は見当たらない。音声入力を促すマイクのようなものはあるが、何を言えば良いのかサッパリ分からない。この手の製品が音声入力しか受け付けないという可能性は低い。破損した時のために備えて直接信号を送り込む方法が用意されているはずだからだ。
 鍔の部分にも「STATUS」と刻印された液晶表示画面がある以上、なにかしらの操作が必要なのは間違いないだろう。
 確かこの剣を壁のコードからむしり取った時、それまで点滅していたLEDが一瞬だけ消えたのを思い出した。しかしその後すぐにまた点滅しはじめたので気にしていなかったが。もしや充電か何かが不十分だったのだろうか?あるいは制御用のプログラムが入っていない、またはインストール中だったとか?
「もしかして、教会に付属のキーボードがあるのか?」
 リンクは軍が最近採用したメリクルソードの仕様を思い出した。確か専用のバッテリーにホルダーベルト、情報伝達用のバイザーとアームコンソールが標準装備でそれらとコードで有線直結だったよな…。
 あの手の最新式装備は基本的に単体では動作しない。莫大な電量を必要とし、またそれらを制御し、統制するための機構や安全装置などが別装置になっているからだ。それらを武器単体に全て搭載したスタンドアロンモデルや、無線式ワイヤレス方式もあるらしいが、どちらも性能が安定していなかったり制御速度が遅かったり、実際の稼働時間が極端に短かったりといった理由でとても実用に耐えるものではないという。
「もしかして俺、すごい間抜けな事してるんじゃ…」
 また教会まで戻らないといけないとすると、実に間抜けな事だ。一瞬、棍棒のように鞘ごと振り回して使おうかとも思ったがすぐに考えなおした。この手のデジタルウェポンは中にどんなものが搭載されているか分かったものではない。コンデンサなどが爆発したり漏電する恐れもある。中から何かの溶液が漏れ出し、それが恐ろしく有害なものかもしれない。
 リンクが使用を諦めて腰のベルトに吊るそうと剣をひっくり返した時、柄の先端がビンの蓋のように回転する事に気づいた。そのまま柄を回してみると、意外と簡単に柄の先端がぽろりと落ちるように外れた。
 柄の内部には、何かを嵌め込むような窪みがある。正三角形の中にもう一つ正三角形が描かれたような形だ。三角形のものを三つ嵌め込む事が出来るようになっている。
「これ…?」
 リンクは訝しげにそれを見たが、すぐその窪みに当てはまるものを思い出した。
「もしかして、ゼルダが渡した…これが…?」
 金色のチップは三つの窪みのうちの一つにちょうど合いそうなサイズだ。ただの薄い金属板にしか見えないが、よく見ると小さな文字で"COURAGE"と刻印されている。メーカー名だろうか。それにしては聞いたこともない名前だ。
 これが起動のキーである確かな保証はない。が、リンクは試しにチップを入れてみようと試みた。
 …指が入らない。
 くそ、考えてみりゃ剣の柄に空いたわずかな空間なんだ。当然といえば当然か。
 どうやら、専用のピンセットかなにかを利用しないといけないらしい。それがあるとしたら教会だろう。やはり一度教会に引き返すべきか?…間抜けだ。
 いや、仮に専用のピンセットなりが見つかったとして、ゼルダが渡したこのチップが起動キーでもなんでもんかったら?…もっと間抜けだ。
「あらぁん」
「ぼくぅ」
「ちょぉっとハンサムじゃなぁい?」
「うわ!」
 思いもよらぬ方向からいきなり声をかけられ、リンクは飛びあがらんばかりに驚いた。その声が真上から聞こえてきたからだ。「飛んで…いや、浮いてる!?」
 ペガサス三姉妹が、リンクを見下ろしていた。
「えーっとぉ」
「あたしたちぃ」
「浮いてないわよぉん」
 舌足らずの幼児のような、どこか媚びるような声がリンクに妙な違和感を与えた。
(なんなんだ、こいつら?男なのか?でもどう見ても…)
 どう聞いても、それは野太い男の声だった。


2006年05月30日
03:43
88:JKとF5
「ガバメントか。フランスのグラビアモデルみたいな銃だ」
「…品がない、って事かい……?」
「そうは言わん。だが、フランスのグラビアモデルみたいな銃だ」
「……ガバメントはアメリカの銃だよ」
「フランスの銃だとも、品がないとも言ってねえ。ただ、フランスのグラビアモデルみたいな銃って事だ」
「ははは…」
 経験上、こういう時は怪我人の意識がはっきりしている方が良い…気絶するのは、ベッドで治療を受けて眠れる算段が付いてからだ。自分で考え、自分で歩ける負傷者ほど良い負傷者はいない。それまでは、しっかりしてる者が声を掛けてやるべきだ。それで意識を保てるなら、低燃費でいける。
 だがルドウィッグの言葉に答えるイギーは、どうやら夢の中だ。状況が判った上でこんな会話を交わしている様子ではない。気を失っている。
「じゃあ、どんな銃なら品があるんだい?」
 ぼんやりとした声で、今度はイギーから切り出した。というより、寝言の続きを言った。良い兆候だ…と、ルドウィッグは自身に言い聞かせた。医学的に助からない量の出血ならば、舌など動かないはずだ。
「だから、ガバメントに品がないとは言ってねえ。だが……そうだな、オートマチックなら、マカロフだ」
「なぜ?」
「田舎出の秀才女。付き合うのは御免だが、品は身に付けてるもんだ」
「へえ…」
「だが、それだけだ」
 力なくイギーが笑った。
 シャワーゾーンを抜けた辺りで、素早くリロードする。6発で2秒弱。ルドウィッグは機械のような正確さでそれを終えると、霧のかかった通路の向こう側を警戒した。数人の人影が飛び出してきたようなので、その足元…いや、足に向かって2度、引き金を引いた。
 ドコォ、ドコォ…!大口径リボルバーの爆音が響き、一般兵と思われる男が2人、水溜りに転がった。彼らの防護カーボン網入り強化皮膚も、相当のダメージを通したはずだ。足がもげるところを、骨のヒビ程度には軽減しただろう。情けをかける意味もゼロではなかったが、足止めには文字通りの足止めが一番だ……それが大きな負傷ならば、仲間を残したままの追撃は、何らかの理由で差し障る。萎縮しただけかも知れないし、友情に関する何かかも知れないし、ただ人員不足が生じただけかも知れない。ともかく、何かと相手方にマズイ事が、そして「今、追撃をやめれば、取り返しが付く」事態が発生する。
 ここの腰抜けども…旧合衆国の軍人と違って、執念も愛国心もない、権力にタダ飯を与えられている兵士には、充分な効力を発揮したらしい。一群の敵影は、戸惑いをシルエットに浮かべて足を止めた。
 ただ…あの3人……あの魔物めいた男と、赤と緑…奴らは違う。市の駐屯所には相応しくないあの3人が、どう動くか…
 ルドウィッグは何度目かの角を曲がった。
「……シグ・ザウエルは?」
 イギーが呟いた。
「ドイツ人の銃だ。言葉が通じねえ」
「素敵じゃないか」
「三文ドラマだな」
「…じゃあ…ベレッタは?」
「お前そっくりだ。役に立つが、ぬるい。ゴネ出すと意外に手がかかる」
「最高だね」
「笑うとこじゃねえ」
 そう言うとルドウィッグは、すぐ近くにあった男子トイレの方へ、イギーを押し込んだ。廊下から死角になる。
 そして今辿ってきた側の道に発砲した。
 角からチラリと見えた人影が、すっと引っ込んだ。
 装填残弾数が4になったリボルバーを左手に移し、ベルトのリボルバーを右手に収める…と同時に、数人の兵士が角から飛び出した。
 8人。
 軽装機械化歩兵…モートンのような重装機械化歩兵ではない。サブマシンガンが見えたが、奴らが走りながら30メートル以上先を狙えるとは思えないし、軽装皮下装甲が相手ならマグナム弾はいいボディーブロー≠ノなる……チャンピオン級のいいパンチならアバラが折れるし、KOだって獲れる。

 問題は、奴らの目だ。
 何だ?
 あの目は、何だ?
 ヤク中…いや…ヤク中なら、もっと幸福そうな目をしているか、さもなくば安物の陶器のような器物めいた光沢をしている。
 恐怖だ。
 あれは恐怖に支配されている。
 戦意、闘志、忠誠心、誇り……戦士に必要なそれらのいづれをも欠いた者を充分に戦わせるため、かつてソビエト連邦や厨酷で使われたという戦法を、ルドウィッグは思い出した。
 8人の戦闘奴隷…
「うおおおぉぉぉぉぉーーーー!!」
 8つのサブマシンガンから放たれる嵐の中、ルドウィッグは両手の拳銃を敵に向けた。

 ほんの3秒かそこらの間、辺りは銃声に支配され、すぐに静かになった。

 9人目は、8人目のすぐ後ろにいた。
(8人目が倒れ伏すまで気付かなかったのは、まあ、この野郎の腕って事にしてやるか…)
 死体と戦闘不能者が床に伏せる中、ルドウィッグはセキ大尉に拳銃を向けていた。向こうも同じだ。違いは、ルドウィッグは膝立ちで、セキは立っている。ルドウィッグはリボルバーで、セキはオートマチック…支給品のベレッタだった。
「リボルバーか?残り、何発だった?」
 セキが言った。
 どちらかが動けば相打ちになる……暗黙の了解のようなものが働いて、2人はそのまま膠着状態になった。
「おしゃべりか、大尉殿?つまり降伏勧告だな?」
「どうかな…私は何か話そうとしている者を撃つのが趣味かもしれんぞ」
 一見無表情に見えるが、セキの顔には余裕と苛立ちが同居していた。殺したがっているが、どうやら生け捕りにした方が都合良いのだろう。ルドウィッグから聞ける事があると踏んだらしい。
 セキがまた口を開いた。
「貴様、相棒はどうした?死んだか?」
「逃げたさ。奴は頭がいい。お前の相棒はどうした?死んだか?」
「強い戦士は死なない。奴は不死身だ」
 それが冗談なのか、ルドウィッグにはわからなかった。

 ルドウィッグは一瞬の隙が欲しかった。一瞬。それさえあれば、奴の指が5ミリ動く間に、こちらは2センチ動かせる…
 だが、セキにもそれはわかっていた。生け捕りにして侵入の目的を吐かせたかったが、そのために銃口を足や肩に向け直せば、こちらがやられる。
 この勝負、セキは勝利を確信していた。今すぐこいつが癇癪を起こせば、相打ちになる。負傷すれば、もう1分程で来る兵達に、この侵入者はいつか敗れる。このまま睨みあっていれば、やはり1分後に兵が取り囲む。チェックメイトだ。
 あとはただ、しっかりベレッタの銃口をこの男に向けていれば良い。

「誰かにそっくりな銃だな」
 突然、誰もいないと思われた箇所から声がした。
 イギーだった。
「役に立つが、ぬるい」
 彼はフラフラしながら、ほとんど片目だけでセキを見ていた。もう片方の目は、どこかを向いている。
 その手には、フランスのグラビアアイドルが睨みを利かせていた。
「……貴様…」
 セキがそちらを見ずに呟いた。
「…気を付けな。ゴネだすと、手に負えないらしいからね」
 イギーはルドウィッグにウインクらしき事をすると、コルトガバメントを両手で握りなおした。
「イギー、もういい。寝ろ」
 ルドウィッグは不機嫌そうに、彼もまた振り返らずに吐き捨てた。
「良い子は寝る時間、かい?鉛がコーヒー代わりになるって発見したばかりなんだ。勘弁してくれるかな」
「じゃあ寝酒代わりに、もう1発食うか?いいから寝てろ」
「おいおい。フランス人モデルと一緒の夜だよ?早寝早起きなんて、銀河の彼方さ」
「寝てろ」
「……」
 ルドウィッグの声が、明らかな苛立ちを含み始めた。
 銃口のトライアングルが凍りついたまま、しばらく沈黙が続いた。
「1分、経ったな」
 不意にセキが言った。不敵に微笑みながら、さあ撃つなら撃てと言う調子で……もしかすると、彼の望む決着には援軍の部下達なぞいない方が良いのかもしれない。
 だが、足音が響くと同時に、景色は爆発で消し飛んだ。

「…救援かい?」
「……」
 煙と振動、そして見えない所で響く無数の銃声の中、イギーが恨めしそうな目を向けた。ルドウィッグは彼と目を合わせず、何も答えなかった。
「…呼んだのかい?君は…彼らに救援を送ったのかい?」
「フランス女の夢でも見てろ」
 ルドウィッグはイギーを背負い、塞がれた視界の中を歩き出した。

「…ちなみに……」
 しばらく不機嫌そうに黙っていたイギーが、口を開いた。
「そのリボルバーは、どんな彼女なんだい?」
 ルドウィッグが答えるまで随分と間を持たせたのは、演出を狙ったわけではなく、外への脱出経路を見定めてから答えたからだろう。
「……旧合衆国のファーストレディー…」
 灯りが見えた。
「…『自由の女神』だ」


2006年05月30日
11:56
89:遊帝(あそびてぇ)
「…で、どういう事なのかね?大・尉・ど・の?」
 ディディーは「大尉どの」の部分を殊更ゆっくりと強調して言った。この男の前では出来うる限り冷静さを保っておきたかったのだが、その試みはあまり上手くいっていない。
「…戦時階級ですよ。中・佐・ど・の」
 デビルはディディーの口真似をするように「中佐どの」を強調した。もっとも、こちらは仕掛けた悪戯が成功した子供のように楽しげだが。「リョクの奴が負傷しました。追撃隊の指揮はセキが一人で執ってます」
「そういう事が聞きたいのではない。なぜ、そのセキ中尉を大尉に任じたのかね?私や中将になんの断りもなく」
 ディディーは爆発しそうな感情を必死に抑える。ちくしょう。この戦闘マニア。流血ジャンク。部下をてめぇと同じ階級にまで出世させるなんて何考えてやがるんだ。俺はこの中佐というちっぽけな階級を手に入れるためにどれだけ苦労したか知ってるのか。それをポンポン渡しやがって。いつか殺してやる。
「賊は今Bランクブロックを逃げてます。あそこぁ軍よりも市の統制区域だ。戦時介入を行う為には最低でも大尉か、中尉クラスの士官が二人以上必要なもんで。そうしねぇと市長さまにドヤされちまうでしょ?」
「だったら、なぜ大尉である君が直接指揮を執らなかったのか?」
「俺ぁ賊の一人と格闘してたんでそれどころじゃあなかったんですよ。いやぁ、手強い奴だったぁ」
 デビルは赤と青の血まみれの顔でニヤニヤと思い出し笑いをした。心底楽しそうに。
「だが、結局その賊も逃がしてしまった…。というわけかね」
「ええ。すんませんね。"上"での暮らしが長かったもんで、随分なまっちまったようで」
「………中将への報告は私が行う。君はそのスミスとかいう男を聴聞室へ運搬したまえ」
「これでも一応怪我人なんですけどねぇ。…へへっ、分かった、分かりましたよ。そんな怖ぇ顔しなさんな。やります。やらせて頂きますとも。中・佐・ど・の」
「………ふん」

 イギーを担いで走るのも、そろそろ限界に来ていた。しかし立ち止まれば二人とも殺される。なんて分の悪い。
「5番目のエン…なんとか」
「…塩基配列」
 話題はいつの間にか、資料室で調べた情報に移っていた。イギーが救援について恨みがましく何か言うと思ったが、彼もその話題には触れたくなかったらしい。
 イギーの声は普段よりは弱々しかったが、ルドウィッグが心配していた程ではない。
「アミノ酸だよ。大昔はこのアミノ酸は4種類しかなかったらしいけど…今は戦闘用をはじめとして、数百種類のプラス遺伝子が開発されてる…」
 イギーは青白い顔のまま小声でブツブツと呟く。投与した鎮痛剤が精神を混乱させているのだろうか。
 イギーの傷は、ルドウィッグが思っていた程ひどくはなかった。最初に出血量を見た時、ルドウィッグは助からないと思った。が、実際にはイギーが内臓に用意していた緊急用の血液ホルダーに被弾しただけだった。派手に血を撒き散らし、文字通り血の海を作ってはいたがたいした出血量ではない。
 弾も腹部を貫通しており、血液中に投与されていた緊急用の治療遺伝子が既に傷を塞ぎつつある。先ほどイギーが口にしたプラス遺伝子、人間の生命活動を補助する作用のあるアミノ酸だ。
 どちらも軍用のサイバーウェアと遺伝子だ。当然市販はされていない。現役時代にはそんな装備を入れていなかったはずだから、弁護士になってから入れたものだろう。全く用心深い事だ。
「キノコ…。正式名称、19850913号によって新しい可能性、人類の、五番目の遺伝子が…ああ、運転手さん。悪いんだけど、もうちょっと丁寧に運転してもらえると助かるんだけどね…」
「チップはずんでくれよ」
 珍しくイギーが冗談を言ったので、ルドウィッグも冗談で返した。
 ルドウィッグが走るたびに、振動が激痛となってイギーの体を駆け巡る。いっそ気絶すれば楽なのだろうが、投与した鎮痛剤はあまりに強力過ぎた。下手に意識を失うとそのまま帰ってこれなくなる可能性がある。
 逃げる為にトイレの排水口に飛び込む時、消毒と止血作用のある抗生物質を投与しなければならなかったのだ。残念なことに持ち合わせは強力なタイプしか無かった。
 ルドウィッグはイギーに話しかけることで、彼が意識を失わないようにせねばならなかった。それは何度も襲い掛かる激痛を味あわせ続ける事でもあった。
 イギーもそれに気づいているのだろう。なんとか意識を保とうと喋り続けている。
「19850913号は…未だに未知の部分が多いキノコだ。菌類によく似てるけど異論もある。あまりに従来の常識から掛け離れた要素が多い。外宇宙から飛来してきたなんてトンデモ説もあるくらいだ。同じように、別天体からの飛来説がある昆虫類には全く影響を与えない事や、宇宙空間でも問題なく生命活動を維持する事から比較的有力視されている」
 イギーが肩の上でブツブツと呟く。ルドウィッグは半分も聞いてなかったが、適度に口を挟まないと段々声が小さくなってくる。
「まるで大学のセンセイだな。で?」
「アデニン、チミン、グアニン、シトシンの四つのアミノ酸に続く五番目の化学遺伝子を人口的に生み出した。それは人の体に大きな作用を及ぼし、この毒と狂気だらけの世界で生きていける種族に人間は進化した…」
「…」
 喋らせなければそのままくたばっちまう。だが喋らせればいつか体力を消耗し、やはりくたばっちまう。
 分の悪い賭けだ。だが今は賭けにのるしかない。
 血を流しながら続ける胸糞の悪いマラソンは、始まってしまったのだ。


2006年05月30日
22:21
90:遊帝(あそびてぇ)
 ロイはしばらく何も言えなかった。
 目の前のクッパが幻かどうか、自信が無かったのだ。さっき声が聞こえたような気もするが、幻聴という可能性もある。
「…悪い癖だ。まだ直ってないようだな」
 思考が凍り付いてしまったロイに向かってクッパが言う。「予想もしていなかった事が起こると、そうして固まる。俺がナイフを持っていたら、もう死んでたぞ?」
 ロイはそれでも何も言えなかった。クッパの言う通り固まってしまっていたのだ。だって、クッパのこの声、この言い方、何もかもが記憶に残るクッパと寸分違わないのだ。幻覚かもしれない。それほどまでに、クッパはあの時のままだった。
「要するに、真面目すぎるんだ。少しはラリーを見習え。イギーにも言える事だがな…」
 クッパは懐かしそうに、少し笑った。
「そういえば、レミーとはあれからどうなんだ?上手くやってると思ってたが…」
「隊長…」
 ロイが目の前のクッパを本物だと確信したのはレミーの事がきっかけだった。「隊長、なんでだ。なんで言い訳しなかったんだ。みんな、あんたの無実を信じてたのに…なんで…」
「…」
「なんでなんだよ!答えろよ!レミーの奴なんか、あの後泣いちまって…!なぁ!なんで、たいちょ…」
 ロイは最後まで言い終える事が出来なかった。突然、クッパの手がロイの肩口を掴み取ったからだ。
「!?」
 相手を地面に叩きつけ、首の骨を折るか後頭部を強打して気絶させる事が狙いだ。最悪でも相手を地面に打ち倒す事で物理的にも心理的にも有利な位置に立つ事が出来る。特殊部隊が斥候を無音で制圧する時によく用いる手だ。
 以前のロイなら、クッパに掴まれたまま地面に引き倒されていた事だろう。小隊から離れて10年。鍛え上げられた感覚がロイの体を勝手に動かした。
 ロイはクッパの手で地面に叩きつけられるより早く、体を丸めて自ら地面を転がった。そのまま勢いを殺す事なく立ち上がる。
 ロイがようやく、クッパが自分に襲いかかったのだという事に気づいたのは立ち上がってからだった。それほどクッパの行動は唐突で、ロイの咄嗟の受身も素早かった。
「いっ…」
 一体何を、ロイがそう言おうとした時、二撃目が襲って来た。
 今度は足を狙った、重く鋭いローキックだ。
 ロイは今度も咄嗟に重心を移動して足を浮かせる事で、クッパの重い蹴りの直撃を避ける事が出来た。
「…っ!」
 しかし直撃でなくともクッパの蹴りのダメージは少なくなかった。激痛に顔を歪めたロイの手を、クッパの手が素早く掴む。
 投げられる!
 ようやくクッパの行動に、思考がついてくるようになった。
 クッパが掴んだ手が自分を引き寄せると瞬間的に判断したロイは、引かれる力にまかせてクッパに向かって一歩進む。そのまま体当たり気味に、クッパに自分の肩をぶつける。
 クッパもその体当たりに逆らう事なく、ロイを掴んだ手を離して後ろに飛び退る。
 一瞬、距離を取った二人の目が合った。
 ロイの知ってるクッパの目だ。今までと同じ、冷徹で強い意志を秘めた瞳だ。急におかしくなったわけではない。
 ではなぜ?
 なぜクッパがいきなり自分に襲い掛かる?
「…成長したな」
 しみじみとクッパが言う。「前のお前なら最初でダウン。今頃は夢の中だった」
「なんで…どうしてなんだ!?」
「余計な事に気を取られるな。今目の前に敵がいる、それ以外の事を考えていると死ぬぞ」

 空が白い。
「ねぇ!大丈夫なの!?ロイったら!」
 雪だ。
「起きて、しっかりしてよ!」
 やっぱり降ってきやがったか。
 ロイはぼんやりと空を見上げながらそう思った。
「お願いだから返事して!」
 ぱちん。ぱちん。ぱちん。
 頬に何度も衝撃が走った。レミーにぶたれたのだ。
「…レミー?なにしてんだ…?」
 ロイの視界にようやくレミーの顔が映った。ああ、どうりでさっきからうるさい声がすると思った。レミーの後ろに知らない女がいてこっちを見ている。誰だ?
「それはこっちのセリフ!なんでこんなところで寝転がってるの!?」
「なんだよ、また泣いてんのか。お前ってよく泣くよな…」
「だって、ロイが全然反応しないから…もしかして…死んじゃったんじゃないかって…」
「…死んだりしねぇよ。殺す気なら、最初の一発でやられてた…」
「え?」
「………やっぱり、まだ勝てねぇか…」
 ロイは力なく笑った。
「ロイ、何言って…」
「イギーとルドウィッグが危ねぇ」
「ねぇロイ、本当にだいじょ…」
「クッパが言ったんだ。それだけじゃねぇ。ラリーのバカもヤバイらしい。全く…」
 せっかくの休暇だってぇのに。なんでうちの連中はこう騒ぎが好きなんだ。たった二日だぞ?ちったぁおとなしくしてられねぇのか。…なんて、街中でクッパと掴み合った俺が言えた事じゃねぇか。
「クッパって、隊長の事?会ったの?」
「クッパですって!?」
 レミーの後ろの女が声をあげた。「ねぇ、今クッパって言った?」

 二人きり、つまりデートじゃなかったのかよ。別にがっかりしたとかじゃあねぇけど…。
「クッパもここに来ていた…。惜しかったわね。私も会ってみたかったんだけど」
 ロイはぼんやりと女を見ていた。この女は新聞記者で、レミーが呼んだらしい。なんでも自分達小隊のメンバーに聞きたい事があるとか無いとか。雰囲気はレミーに似ている。快活でハキハキと喋り、顔もイイ線いってる。何より、レミーと違って胸が…。
「どこ見てんの」
 レミーがロイの視線の先を目ざとく見抜いた。「もう、怪我人なのにそういうとこは元気なんだから…。それよりロイ、イギー達が危ないって…」
 レミーの言葉を聞いて、ロイはゆっくりと体を起こした。ようやく全身の痺れがおさまってきた。
「すぐに行かねぇと。イギーとルドウィッグは軍の施設、ラリーはハイラル地区で教団とやり合ってる。どっちもロクでもねぇ相手だ。あいつらだけじゃ危ねぇ」
「軍に教団って、なんでそんな危ないとこに?」
「知らねぇよ。イギーがなんか言い出してルドウィッグが巻き添え、ラリーはなんか気に食わない事でもあったんだろ。とにかく、ほったらかしにはできないからな」
「それはそうだけど、僕らだけで何か出来るかな」
「…」
 それを言われるとロイも黙るしかなかった。
「ねぇ、私にちょっと考えがあるんだけど」
 記者の女が口を開いた。「私、頼もしい味方と知り合いなの。なんたって、あなた達の隊長さんに匹敵するくらいの人なんだから」
 クッパに匹敵するだって?マリオじゃあるまいし、そんな化け物がそうそういるとは思えないが。
 ロイの思いをヨソに、女は携帯電話を取り出してダイアルした。
「あ、もしもし?私よ。サムス。ちょっとお願いがあるんだけど。あなた、テレビの人気スターを知ってる?」


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