2005年09月01日
18:21
42:遊帝(あそびてぇ)
「ありがとうございました。流石は噂に名高い名ドクターですわ」
ピノキオはペコリと頭を下げた。
「いや、FUCK!お嬢様には普段から多額のFUCK!援助を頂いている。このくらいの事FUCK!ならいつでもどうぞ」
「ああSHIT!。我々SHIT!がこの技術を維持する為には莫大なSHIT!費用がかかる。それをSHIT!スポンサーの為に返すのはむしろ当然SHIT!だ」
グルッピー兄弟は腫れ上がった顔を抑えながらにこやかに言った。麻酔が効くまでさんざん暴れるピットに殴られ、蹴飛ばされたのだ。
「しかし分からんFUCK!な。一体彼FUCK!に何があったんだね?医学FUCK!的にあの負傷の原因はFUCK!興味がある」
「私もSHIT!知りたいね。もちろんSHIT!患者のプライベートにかかわる事SHIT!だ。差し支えSHIT!がなければだが…」
「私も詳しくは知りません。ピット様は私にあまりお話してくれませんから…。ただ、教団の傭兵と交戦したらしいようです」
グルッピー達は互いに目を合わせて「実に面倒な患者だ」と言わんばかりに肩をすくめた。
「申し訳ありません…。私に会いたいだなんて仰られるから何事かと思ってかけつけたのですが、私どもが到着した時には既にピット様はあのご様子で…」
キノピオは麻酔で眠っているピットの寝顔を見ながら言った。あれだけ騒いだとは思えない無邪気な寝顔だ。
「そういえば、あの方は大丈夫なのですか?先ほど運び込まれた…」
ピットの治療が終わった直後、また一人患者が運び込まれてきた。キノピオはよく見なかったが、患者を体を包むシートが真っ赤になっていた事から相当ひどい外傷を負っていた事は間違いない。まるで全身を鋭い刃物で、それも数人がかりで切りつけられたような…。まともに見ていたらキノピオは失神していたに違いない。
「FUCK!ああ、タタンガFUCK!氏か。大丈夫。彼は元は無差別FUCK!級のボクサーだ。あのFUCK!程度で参るようなヤワな人FUCK!じゃないよ」
「一度に大量SHIT!に出血したから気をSHIT!失っていただけだろう。実際ここに運び込まれた時SHIT!には出血はほとんど止まってSHIT!いたしね。若い頃埋め込んだSHIT!インナーのおかげもあるSHIT!だろうがね」
「インナー?」
「ああ、人工的にSHIT!強化された臓器の総称SHIT!だよ。心臓を複数にSHIT!分散して配置することで心臓への負担SHIT!を減らし、心臓SHIT!破裂を防いだりするんだ。他にも、腎臓SHIT!にチップを埋め込んで一時的に大量SHIT!にホルモンSHIT!を分泌して身体能力を上げたり、SHIT!肺の中の二酸化SHIT!炭素から酸素を再吸収して運動効率を上げるSHIT!ものもある」
「彼FUCK!の場合は急激な大量出血FUCK!時に心拍数を調整FUCK!し、血小板を大量FUCK!に増産するFUCK!装置だ。一時的に血液FUCK!の循環が悪くなるから仮死FUCK!状態に近くなり、傍目からは死んでFUCK!いるように見える。雑菌によるFUCK!感染症や代謝FUCK!機能低下による体組織の壊死FUCK!などの危険は伴うが、危険なスポーツFUCK!を行う人間は早期にFUCK!治療を受けられる状態で試合に出るから大したFUCK!問題にはならない」
「もし四肢をSHIT!喪失しても代わりはいくらでもあるからSHIT!ね。今回はその機能SHIT!が功を奏したな。スポーツSHIT!関係者以外にはあまり知られてSHIT!いない装置だがね」
「おそらく彼をFUCK!襲撃した者は心拍FUCK!数の極端な低下を見て、彼FUCK!が死亡したと判断FUCK!したんだろう。医学FUCK!的には彼はFUCK!冬眠に近い状態にあったから無理も無い」
キノピオにはなんだかよく分からない話だったが、取りあえずタタンガという大男の命が助かった事だけは分かった。ピットも助かったし、どうやら人の死に目に立ち会わなくても済んだようだ。
「…ああFUCK!失礼。FUCK!話が少し専門FUCK!的過ぎたかな。FUCK!女性には退屈なFUCK!話だったね。これはFUCK!私達の配慮が足りFUCK!なかった。」
「SHIT!そうだな、治療SHIT!も終わったし、あのSHIT!少年の麻酔SHIT!が切れるまでテレビSHIT!でも見るかね」
少し安心して目を伏せたキノピオを見て、両医師が言った。別に話が退屈だったわけではなく理解できずに戸惑っていたただけだが、二人の気遣いを無にするのも悪い気がした。
『…今日のニュースです。伝説のF-0レーサー、キャプテンファルコンが突如引退を表明し、関係各位に驚きと戸惑いが広がっています』
しかし、ピットは自分で連絡してきたが、あのタタンガという人を連れて来たのは誰だったのだろう。背広を着ていたが、ずいぶんと剣呑な雰囲気だった。まるで、暴力団のような…いけない。人を見かけで判断しては。もしかしたら顔が怖いだけでとても良い人なのかもしれない。
『バーチャル・ブレイン・ハック、いわゆるポケモン事件で最高裁に控訴した直後、行方をくらませているオーキド容疑者の弁護団が、MOTHERコーポレーションに対して損害賠償を…』
ポケモンかぁ。そういえば、同級生達が夢中になっているのを羨ましく見ていたっけ。お父様が許してくれなかった。結果的にはそれで良かったのだが。
『軌道エレベーターを支える第2089塔のうち、7本が倒壊の危険性がある事が新たに分かりました。この工事を発注した…』
ピット様、速くお目覚めにならないかしら。
『前大戦で国政崩壊によって自滅した中華人民共和国、朝鮮民主主義共和国、韓国、通称"アジアの洞窟"の残党について、第B級駆逐種にくり上げる事が中央政府議会で満場一致で決定しました』
そうしたら色々お話したい事があるんだ。学校で何があったとか、お父様が全然私を分かって下さらないとか。
『では続いて…?………えー、た、ただ今入りましたニュースです。ニンテンドーシティ、旧サンフランシスコを訪問していたヤマウチ大統領が何者かによって殺害されました』
キノピオにとって、叔父の訃報だった。
2005年09月02日
01:07
43:JKとF5
レッドスター軍の本拠地は、今や数十台のパトカーに囲まれ、警官達(正規の警察官だ)によって踏み荒らされていた。
「放せ!!俺たちは無実だ!!俺たちはやってない!!人権侵害だ!!警察の横暴だ!!」
『ただ今入りましたニュースです。ニンテンドーシティー訪問中に誘拐されていたと見られるヤマウチ大統領が遺体で発見された事件で、市警は先ほどレッドスター軍を名乗るテロ集団の幹部、マックス将軍を逮捕しました。繰り返します。ニンテンドーシティー訪問中に…』
十数名の警察官に引きずられるようにして、大柄な男性・マックス将軍はパトカーに放り込まれた。
『みんな、本当にご苦労様…上層部は本件をBランク以上のミッションと見なしたから、明日から2日間の休暇が与えられるわ』
「ウェンディー」
『たいへんな事件になったけど、2日間、ゆっくりしましょう…私はそちらへは行けないけどね』
「待ってくれ、ウェンディー」
『東海岸を日帰り旅行、なんてのもいいかもね』
「ウェンディー、休日なんていらない」
『だめよ、イギー…以降2日間は、自動的にIDが“休暇中”になるわ…だから』
「だから?ヤマウチ氏の仇を取ったつもりで、酒でも飲んでろって?」
『お願い…わかって』
暗い車の中で、イギーはモニターを見つめたまま沈黙した。こちらからではウェンディーの顔、表情は確認出来ないが、向うからは見えているはずだ。イギーは無表情だった。
『もう今回の任務は終了したわ。回線を切らなきゃ』
「上への報告書は、君が上げるんだね」
『…今日は疲れたわ』
「…ごめん」
『おやすみ』
「……おやすみ」
回線が向うから切断されるまで、少し間があった。やがて画面は切り替わり、市警本部との通信が始まった事が示された。
「ただいま戻りました」
後ろからの声に振り返ると、モートンが立っていた。
「イギー巡査部長、我々は大統領閣下の御遺体と対面する事は出来ないのでありますか?」
イギーは最初、答えなかった。
「イギー巡査部長」
「無理だよ、モートン。死体の検分や物証の鑑識は、基本的に、正規の警察官の権限によって行うんだ。レンタコップは緊急の場合を除いて、それらを行えない」
「そうですか。残念であります。自分は一度、大統領の顔に小便をひっかけたかったのであります。千載一遇のチャンスだったのでありますが」
本当に残念そうにつぶやくと、モートンは近くの座席(彼専用の丈夫なもの)に腰掛けた。
他の皆も、すぐに戻って来るはずだ。
『こちら本部。ご苦労だったな、コクッパ隊の諸君。それでは全員が帰還次第、事務的な手続きを…』
イギーの耳には、本部からの通信は聞こえていなかった。
(ウェンディー…君は…)
『聞こえているのかね、イギー巡査部長?全員が帰還次第…』
「まだ前線分隊が帰還していません。お待ちください」
機械的な口調でそう言って、イギーはモニターにウェンディーの残像を見ていた。
(君は…今、君が生きている世界には、本当に僕達はいるのかい?)
イギーは珈琲のカップを静かに傾けた。
ロイは煙を上げる館を見上げていた。
周りはサイレンと、警官達の声で騒々しい。手元のポータブルは、報道・警察無線・隊の回線の3つのチャンネルを開いていて、なおさら騒々しかった。
ロイは煙草に火を付けた。
「実行犯を、どう思う?」
傍らで腕を組んでパトカーにもたれているルドウィッグに、ロイは訊ねた。
「…何が?」
「実行犯だよ。あのチンケな自称・革命家どもの中にいたと感じたか?あいつらが大統領をシティーホテルから、誰にも気付かれずに拉致したのか?出来たのか?それとも大統領が奴らのもとに出向いたのか?何のため?癒着か?だとしたら、何の見返りがあった?」
「イギーが笑うぜ。それを説明するのは、俺達の仕事じゃあない。制服どもにも出番をくれてやれ」
「…腑に落ちねぇ」
「…1本、貰えるか?」
ロイは煙草を1本、ルドウィッグに差し出した。愛用のライターで火を付ける。
「吸うようになったのか?」
「いや、別に」
その矛盾した返答が滑稽で、ロイは一瞬、微笑んだ。
だが…。
「俺達が第1発見者なのは、偶然か?」
「神にでも聞け」
「俺達は何のために招集された?」
「カービィに聞け」
「俺達を動かして、誰が、何の利益を得る?」
「企業で講習でも受けて来い」
ルドウィッグは、短くなった煙草を遠くへ投げ捨てた。ロイは2本目に火を付けた。
その時、頭上で声がした。
「僕らが考えてわかるようなら、僕らを動かさないよ」
レミーが館の塀の上に座っていた。少し困ったように笑っていた。
「何かそういう事があっても、僕らが考えたってわかんない。そういう事がなかったのなら、考えたって何もない。結局、同じじゃない」
レミーは猫のような動作で、ロイの隣に降りたった。
「みんな無事だったんだし、いいじゃない?それよかさ、飲みに行こうよ?ね?」
レミーはいつもの笑顔になったようだったが、どこかに曇ったような所があった。
ロイは思った…レミーも、何かしらの違和感を感じていたのだろう。
「書類がウェンディーとイギー任せなのは悪い。明日にしようぜ」
「おっと、じゃ、オレサマと飲もうぜ」
そう言いながら、突然ラリーが現れて、レミーの肩を抱いた。
「前からだけど、お前って時々“イギーチック”だな。アホのマネすりゃ、アタマが良くなった気になんのかね?オレサマにゃ、わからん」
「僕もわかんなーい」
レミーはおどけてみせてた。それから2、3言の軽口を交わして、レミーとラリーは、待機場所へと1足先に戻って行った。
ロイはもう1度、館を見上げた。
「俺も、腑に落ちん」
不意に、後ろでルドウィッグが言った。
振り返ると、もうすでにルドウィッグは背を向けて歩き始めていた。
2005年09月02日
02:53
44:JKとF5
長い2日間が始まった。
居住区の中でも比較的中流に近い層が住まう地区。そこのアパートの1室に、イギーは帰って来た。
デスクには仲間達と一緒に映っている写真。
壁には今までに獲得した、様々な賞状が飾られていた。
ハイスクールの頃のもの…「サイバーウェア15ポイント以下級・陸上競技・300m走・5位」「小論文コンクール・銅賞」「青少年科学賞・佳作」…多種に渡ることで、それらはただ漠然と“有能さ”を示しつつ、同時に“個性”を影に消していた。カレッジ時代のものも同じ…「市公認C級コンピューター技術士資格」「クレー射撃・州大会・6位」「MOTHER出版・第21回アマチュア小説賞・入選」…無機物的な勲章が設置されている。
誰の…?ああ、僕のだ…
見る度に、何かがおかしいと感じる。そして何がおかしいのかを説明出来ないまま、今があり、きっとこれからもそのままでいるのだろう。
だが、例外もある。
バッジを外し、宝石箱のような小さな箱にしまう。その箱には、もう1つのバッジ…弁護士バッジが収められていた。イギーは箱を閉じ、棚の上に置いた。
2つのバッジの持つ“存在感”は眠りについた。
ベッドに腰を下ろし、壁に掛かったダーツの的を見た。的の横には、大きな鏡があり、否応無く自身の姿が見えた。
視界の隅で、鏡の中で、“白人の姿をした何者か”が、疲れた顔をしていた。
イギーが白人になったのは、ハイスクールに入る直前だった。
イギーの母はインド系の有色人種であり、ある程度この大陸の影響を受けたヒンドゥー教徒だった。彼女は教育というものを様々な視点から捉えており、そして教育に熱心であった。彼女にとっては勉強も、道徳も、品行も、全てが同等に大切な教育の産物であり、イギーもそれらを学び、それを自然としていた。だが彼女はイギーに、ヒンドゥーの教えを強制しはしなかった。
父親は死んだと聞かされていたが、ハイスクールに上がる直前になって、突然、彼は現れた。
イギーはその日から、父の支配下で生活を始める事を強いられた。
父は白人で、ある企業の重役の1人だった。母は彼の前妻だった。
急にイギーを引き取ったのは、彼の新しい妻と子供達が死亡したからだった。そのへんの詳細は、イギーは聞かされていない。ただ間違い無いのは、父の遺産を相続し得る人間が、イギー1人になったという事だ。
父がイギーにした最初の事は、整形手術を受けさせる事だった。イギーの肌は白くなり、目は青くなった。そしてその日のうちに、正式な手続きを経て、イギーは「イグナティウス・ロヨラ」に改名された。イエズス会の創始者の1人の名だ。もとの名前は、確か、長ったらしい何かだったが、覚えていない。
カレッジに入って数ヶ月して、母が病死した。その事実は、数センテンスのメッセージとして、イギーに伝えられた。イギーの生活は、何も変わらなかった。
ダーツを手にとり、的を見つめた。
(この違和感…)
父に引き取られた時、白人になった時、警察試験の際に最終試験まで残っていながら血液検査で「薬物常用者の可能性・大…不合格」とされた(間違いなくDNA鑑定で肌の色を特定されたのだろう)時…
(今までに何度か感じた、あの違和感と同じだ)
イギーはダーツを放った。
1本目は中央付近に刺さった。
(大統領が殺された)
2本目。1本目のすぐ横に刺さった。
(クッパは、どこへ行った?あの噂…首輪付きで出たというのは、ガセだったのか?)
3本目は、的の端だった。
(ルドウィッグは、どこで情報を仕入れた?僕を担いだだけか?彼もガセに担がれたのか?)
4本目はブルズ・アイ(的の中心)だ。
(カービィは何をしてる?僕らを監視してる?それとも、そんな事をしようと思う程のアタマは無いのか?いや、彼は現に署長の地位に、まんまと就いた)
5本目が、4本目を叩き落した。
(それに…)
6本目を手にする。
(ウェンディー)
6本目は大きく的を外れ、デスクの上の写真立てに当たった。
ダーツは写真の中のイギーの右目あたりを刺していた。頬のこけた白人が、こちらを見て微笑んでいた。
イギーは彼を真っ直ぐに見つめたままで、やがて空が白んだ。
休暇の始まりだった。
2005年09月03日
00:46
45:JKとF5
リンクの1日の修行は3段階に分けられた。
まず最初は、例の土いじりだ。
あのクワという道具で土を掘り返す。
ただ掘るだけでなく、ガノン神父の指示する通りの姿勢というか、フォームでクワを使わなくていけない。
このフォームは数パターンあり、ガノンは一定時間置きにフォームを切り替えるよう言ったり、あるフォームで長時間作業を行うように言ったりする。
次は、全くわからない事をやらされた。
片足で立ったままで、両腕を広げたり閉じたり頭上で手を合わせたり、地に付いてない方の足をグルグル回したりするのが、最初にやらされた「わからない事」だった。
他にもメニューは増えていった。
中でもおかしかったのは、ガノンの投げてくる様々な物体(ゴムボール、紙飛行機、バナナの皮など)を目隠しをした状態で避けるメニューだった。
「ええと、これはつまり、暗闇とかでの戦闘で飛んで来る物を聴覚で察知して…とか、映画でよくある…?」
「そんなところだが、暗闇での戦闘とは限らないし、察知する手段も聴覚とは限らない。五感の裏に隠れた“裏の五感”のようなものを刺激するのだ」
ガノンの答えの意味がわからなかったが、とりあえずやってみない事には…と思ったが、結果はやはり全滅だった。
(もしやガノンの言いたい事は…)
頭を使えという事か、と思い、目隠しに細工をしようとしたら、あっさりとガノンに見つかり、呆れたように「よしなさい」と言われた。
色々と頭を捻った結果、リンクは『パターンを読む』という結論に至り、再チャレンジした。成績はやや上がったが、すぐにリンクの意図に気付いたガノンが、残念そうに「そういう事ではない」と呟いた。
「…確かに、そういう事も大事だ。君の機転は認めよう。だが、そういう訓練ではないんだ…いや、私も悪かった。少し考えさせてくれ」
「?…はぁ…」
ガノンは落ち込んだような様子だった。
1日の修行の最後は、ガノンとの勝負だった。
“デクの棒”と呼ばれる棒切れを使っての一騎討ちだ。デクの木で作られた棒は、言わば「逆・重心バトン作用」によって殺傷力が弱められるらしい。
まず剣を収めている状態を模した姿勢での、相手との一礼から始まる。この時も相手からの不意打ちに備えておかねばならないらしいが、具体的に何をどう備えるのかは「自ずと判る」のだそうな。
戦いの結果は、当然というか意外というか、リンクには何となくわかっていた事だが、リンクの惨敗ばかりだった。
「今オレ、首と太腿と両手首をやられた?」
「腰も、だ」
最初の1日は、そんな感じだった。
「明日からしばらく、これを繰り返す」
「はぁ」
夕食の席で、ガノンが言った。
ところで、この教会での食事は“教会”と呼ばれるよくわからない団体(ここでの生活は「よくわからない」が多いので、リンクはもう気にしない事にした)から支給される食材を、ガノンが調理したものがほとんどだ。これらの支給品は賞味期限が切れて廃棄されるべき食材・食品を、そのまま配っていたり、どこかからの寄付で得られた資金で購入した安価なものだったりする。
「で、その後は?」
「その後、とは?」
「だから…しばらくアレを繰り返して、その後」
「ああ。その後は無い」
「……え?」
「その後は無い。それで終わりだ。しばらく繰り返して、適切な時点で終わる」
「そ、そう」
リンクの思い描いていた“剣の修行”とは、随分と違うようだ。何だかガッカリした感じだった。
「しばらくというのが、どれくらいの期間かは、追々考えよう」
翌朝、その「しばらく」が「数日」である事が決定され、リンクを驚かせた。
2005年09月03日
15:20
46:JKとF5
「では行ってくる」
「うー」
ゼルダに見送られ、ガノンとリンクは例の修行に出かけた。
彼らがその修行とやらをやってる間、ゼルダや子供たちは「アグニムさん」という人物が面倒を見ている。
アグニムは口の周りに白い布を巻いている。なんでも頬に大きな怪我を負ったことがあり、今でも痛々しく醜い傷跡が残っているので、子供たちが怖がるからだという。簡単な手術で治るのだろうが、そんな金は当然、無いのだろう。彼は背が高く、大柄なガノンといい勝負だが、アグニムの方は線が細い。目も細く、しかし鋭い。なかなか表情が読めない。
リンクは最初、アグニムは頬の傷がもとで言葉が話せないのかと思ったが、どうやらただ無口なだけのようだった。子供達とは必要最低限の単語で会話をする。
そんな風だから、彼の子供達の間での人気が高いと知った時は、意外だった。
(まぁ、見た目で言えば、ガノンだって充分コワイしな)
あれから数回目の修行…リンクは上達していた。自分でも信じられず、もしやガノンが手を抜いているのかと思ったが、どうやらそうでは無いらしい。クワのフォームにも慣れたし、ゴムボールもある程度は避けれるようになった。メニューも毎日増えたが、次々に出てくる不可思議な体操には、だいたいその日のうちに慣れた。
その日の初めは、クワではなかった。リンクは何かが詰まった麻袋を手渡された。
「これは?」
「種だ」
「…種?」
「種だ」
その日の始まりは、種蒔きだった。リンクは随分な時間をかけて、自身の掘り返した土に、種を植えていった。
「来なさい」
そう言って微笑むガノンに着いて行くと、ある所で突然、廃墟の町並みが途切れ、何か鮮やかな赤・黄色・紫が広がった。
「あ…」
花畑だった。
最初に教会を訪れた時と同じで、その辺りだけ空気が違っていた。今にして思えば、それは何となく“ゼルダ的な空気”だった。
「私とゼルダで作った」
(やっぱり…)
「子供達も気に入ってくれている…もっとも、君がやったようなフォームでは耕していないがね」
「…」
もともとは畑を作ろうと思ったのだという。だが子供達や地元の数少ない大人達がそれらを公平に分け合っても、よそからの侵入者が奪いに来て危険ではないかという意見と、試しに実際に作ってみたら、汚染によって金属みたいな味がする泥臭いトマトが出来た事から、花畑に生まれ変わったという。
「せっかくだから、訓練ついでに作ってもらったんだが。ちょっと驚かそうと思ってね、君には黙ってたんだ。どうだ?」
「…うん、いいね。土から生えてる花なんて、初めて見たよ」
リンクはいつか家のテーブルに飾ってあった花を思い出し、しばらく花畑を眺めていた。
「さっきの話からわかると思うが…食べれないぞ」
「…」
休憩の後は、後半戦。
だが、中国系が朝早くにやるようなヘンな体操を一通り「なかなかの出来」でクリアして、目隠しを付けた途端、ガノンが言った。
「目隠しを外しなさい」
いつもと違う調子だったので、リンクは一瞬、彼の言う事がわからなかった。
「…は?」
「目隠しを外しなさい」
「何で?だって、これから」
「早くしなさい」
急いで目隠しを外すと、ガノンはリンクの方ではない、どこか横の方を見ていた。その顔は、あの“猪のような力強い”ものになっていた。
リンクはゆっくりと、彼の見ている方を向いた。
そこにはサイバーウェアに身を包んだ男が、2人いた。
2005年09月05日
23:47
47:JKとF5
のんびりとした足取りのように見える。その2人の男は、ガノンから10mほども離れた辺りで立ち止った。1人は、ドラゴンともサイともつかないデザインのヘルメットを被ったデブだ。あのヘルメットはサイバーウェアかもしれない。もう1人は皮膚に(おそらく全身)金属製のウロコをコーティングした、細身の男だ。ウロコのせいで肌の色は判らないが、東洋人のような顔つきをしている。防弾ジャケットを羽織って、両手には2本のショックバトンが握られている。
ただのチンピラにしては、それなりに金のかかった装備だ。
リンクは思わず1歩退いた。
ウロコの方が、口を開いた。
「どうも。私ゃリザルフォスって言います。こっちのデブはドドンゴ」
「…何の用かな?」
威圧するような調子で、ガノンが言った。
「何の用かと聞かれましてもねぇ、アナタ、自分でよくご存知なんじゃござんせんか?」
答えたのはリザルフォスだった。ニヤニヤと嫌味な笑いを浮かべている。
「それとも、何ですか、私らがガキに混ざって、読み書きを習いに来たように見えるんでしょうかね?え?」
「そういう解釈も出来る。数日前、最初に来た時は、3人だったな?そのもう1人は、読み書きが出来るのかね?」
リザルフォスは動揺した。どうやら「3人」のところで衝撃を受けたらしい。
リンクも動揺していた。
(は?3人?どう見ても2人だろ…いや、その前に何なんだコイツら?)
ガノンは続けた。
「この数日、私達に手を出さずにウロウロしていたようだが、今になってそういった振る舞いをする訳を聞かせてもらえるかね?訳も無く子供の前でショックバトンをチラつかせるのは、やめてもらいたいんだが」
その時リンクは、ガノンが背中で組んだ手を、何やら動かしているのに気がついた。
ハンドサインだった。
だがリンクは、それが「何らかのハンドサインだ」とは判っても、そんなサインを勉強した事も、ガノンと口裏を合わせた事も無かったので、どうしていいか判らなかった。
教会の方を指差しているようだが…
「ああ、面倒臭ぇですね」
リザルフォスが笑顔を消して、そう言った。
「面倒臭ぇ事、ベラベラ言ってんじゃねぇですよ、アナタ。ガタガタ言ってねぇで、こっちは名乗ってんですから、テメェも名乗ったらどうなんでしょうかね、このクソが。そこのガキ、ブッ殺しますよ?」
そう言った途端、ドドンゴの方が動いた。突然、両手の甲から鋭い爪が飛び出し、見かけによらないスピードで、リンクに飛び掛った。
リンクは一瞬、何が起こったか、わからなかった。
「走れ!!」
ドドンゴの前に立ちはだかったガノンが、手にした何かで爪を叩き落とすように防いだ。
爪の1本が折れ、リンクのすぐ横を飛んでいった。
いつの間にかガノンが手にしていたのは、50cm程の剣だった。
「走れ!!」
ガノンがもう1度叫んだ。リンクは我に返り、走り出した。
(何だ?何?あの浮浪者の仲間?そうなのか?ああ、もう何でもいい!走るぞ!どこへ?ガノンが言ってた…ハンドサイン…そうだ、教会!)
ドドンゴは太った体に似合わない、軽やかなフットワークで、ガノンから間合いをとった。リザルフォスは注意深く、2本のショックバトンを構えている。
「…一応、お名前を聞かせていただきますぜ。ガノン=ドロフさんに、間違いありやせんね?」
ガノンは答えなかった。
「肯定と取らせてもらいます…その首、私らがいただきやすぜ!!」
「あらら、やっちゃったよ、アイツら」
望遠鏡を丸々両目に埋め込んだようなサイバーグラスの男・キースは3km離れた場所で、ガノンの勇姿を観戦していた。
「仕方無ぇなぁ。ややこしくなる前に、アイツらの登録抹消をお勧めします、フォールマスター」
『もう抹消したさ』
ポータブルの向こうで、フォールマスターが答えた。
『30秒後には死亡登録も完了する』
「そうスか…あ、でも死亡登録は早いんじゃないスかね。ガノンはたぶん、アイツらを殺しませんよ」
『では、お前が殺せ』
「はいはい」
『ガノンの様子をちゃんと写せよ…私も観戦する』
「ポップコーンでも、食いますか?」
『もう食っている』
「そうスか」
キースはポップコーンを取り出し、頬張った。
2005年09月06日
20:23
48:遊帝(あそびてぇ)
カシムがマリクへの電話を取り次いだのは正午を少し回ってからだった。相手はジェイガン老。数年前まで教団の重鎮だったが、現在は汚染された僻地に左遷された、ただの老人だ。
ジェイガンからの電話の内容はカシムに分かりきっている。マリクへの苦言だ。何度もジェイガンからの電話をマリクに引き継いだ。しかし、ジェイガンの電話は決まって昼過ぎだ。昼食の祈りの時間を邪魔しないという配慮からか、苦言を呈する時であってもそれは変わらない。あの老人らしい。律義なところは変わらないようだ。
カシムはマリクの横に恭しく控え、DVP(Direct,Visionary,Phone)の装置を手渡す。
マリクがスイッチを押すと、壁一面が巨大なスクリーンとなって、ジェイガンの厳しい顔を大写しにした。その迫力は、カシムのようなコソ泥が見ると思わず息を呑んでしまう迫力に満ちている。元々教団内でも手癖の悪かったカシムにとって、ジェイガンのように規律に厳しい人物は大の苦手だ。だからジェイガンが左遷された事を知った時は飛び上がって喜んだ。大げさではなく小躍りしたものだ。
『"聖火の盛る刻に祝福を"。元気そうだな、マリク』
「"最も罪の焼かれん刻こそ幸いなれ"。ええ、おかげさまで」
教団ではお決まりの昼時の挨拶と交わす二人。
『マルス様はどうなさっている?』
「お健やかですよ。ご家老が心配される事はないと思いますが」
ご家老というのは教団において「そろそろ無理せずに引退したほうがいい人」という意味の皮肉だ。しかしジェイガンは言われなれているせいか、マリクの皮肉に応じるつもりはないようだ。
『フン、お前のいう健やかというのは…』
「姦国はいかがです?ご家老」
吐き捨てるようなジェイガンの台詞をマリクが遮った。
『…最悪だよ。空気は澱み、地面は穢れきっている。何より酷いのは国民…いや、もうここは国ではなかったな。住民達の性根がどうしようもなく腐り果てていることだ。他人に罪をなすりつけながら自分に都合の悪い事が起これば喚き散らしてゴマかそうとする。自分達の愚かな政策による自滅という過ちを、未だに日本という国のせいにしている。ちっぽけな自尊心を保つために、既に水没してしまった国が全て悪いと口を揃えて主張する。まるで常識であるかのように。死者に鞭打つとはまさにこの事だ』
「アジアの洞窟…洞窟のような闇に捨ててしまいたい程のアジアの汚点。この呼び名は間違いではなかった、と」
『大戦以前の前世紀、ある学者がこんな事を言ったそうだ。「半島に人類は存在しない。そこにいるのは人によく似た、知能を持たない下劣で下等な生物だけだ」と。…皮肉でも嫌味でもなく、全くの事実だったよ』
「確か、厨国と事実上併合になった今では愛国無罪というバカげた思想も一緒になったのでしたね」
『国を愛してさえいれば何をしても、それこそ殺人であろうとテロであろうと許される…。既に、共産主義そのものも消え去り、中華人民共和国という国など地図の上から消えて久しいというのにな。病人、怪我人、子供、障害者などの弱者を踏み付け、強者には媚びへつらう。そのためなら平気で親類縁者も売り飛ばす。そしてそれをまるで当然の所業のように誇らしげに語り、罪の意識など欠片もない。彼らを見ていると、自分が同じ人類という種である事実を否定したくなる。中央が駆逐種に指定するのも無理はない。放射能汚染が彼らをこのような罪深い生き物にした…学会では鼻で笑われた根拠のないこの説を、私は今切に信じたい気分だよ』
「そのような地なればこそ、ご家老を派遣させて頂いて正解でしたな。そのような愚か極まりない民衆に、いや、もはや人類と呼称するにも躊躇いを覚えるような者達に神の教えを説き、救済するという大役は私のような若輩者ではとても…」
『見え透いた世辞は良い、マリク!今日こそはマルス様とお話しがしたいのだ。マルス様を出さぬか!』
「………まことに、間が悪ぅございましたな、ご家老。既にマルス様は大統領閣下の葬儀にご参列なさっておられます。数時間は戻られぬかと」
『煙に巻こうとしてもそうはいかんぞ!マルス様がご参列なさっておられん事は既に確認済みじゃ!ワシの部下が既に弔文の書面を直々に届けに現地におるのだからな!何度もお前にあしらわれ、ワシもお前のやり口が読めて来たわい!』
「言葉が少なかったようで。マルス様は参列される為にたった今教団を経たれました。せめてあと、数分お早くお電話頂ければ間に合いましたやもしれませんが」
『お前がマルス様をお一人で行かせたなどと、ワシが信じると思うのか!』
「ご家老のご信頼を賜れないのは実に残念です。これも私の不徳のいたすところ…。わが身の未熟を深く恥じ入り、お恥ずかしい限りにございます」
『お前の形ばかりの言葉など聞きとうないわ!とにかくだ、マリク!お前がマルス様とわしを会わせぬようにしている事は分かっている!数時間は戻られないというのなら、その数時間の間回線をこのままにさせてもらうぞ!マルス様とお会いし、直々にお話をするまでワシは何日でも待つ!』
冗談じゃない、とカシムは思った。頑固を絵に描いたようなジェイガンの事だ。本当に何日でも待つに違いない。マリクの秘書として好き放題しているカシムにとって、ジェイガンの(それもスクリーンに数十倍に拡大された)顔に四六時中見張られ続けるかと思うと生きた心地がしなかった。
「ご家老のマルス様を思われる固い決意、しかとマルス様にお伝え致します。…しかし、困りましたね。私としても、ご家老の熱い思いにはお応えしたい。しかし一個人の為に回線を維持するのは大司教という立場上できかねます。ましてこのDVPというプロトコルは、大変回線を圧迫致します」
もう俺の精神は十分に圧迫されてるけどな。カシムは早くジェイガンの巨大な顔から逃れたくて仕方なかった。
「…それに、大変申し上げにくい事ではありますが、マルス様ご自身がご家老にお会いしたくない、と、こう仰られております」
『なっ…?!バ、バカを申すな!マルス様が幼少の頃よりお世話をし、オシメを替えて差し上げた事もあるこのワシを、マルス様が疎んじるなど…!』
口ではそう言いながらも、ジェイガンの声はわずかに震えていた。
「そう、それ。まさにそれですよ。お気づきになられませんか?マルス様ももう15歳。旧暦ならば立派な一人の成人男子です。事実、マルス様は枢機卿としてお役目を立派に果たしておられます。その立派な一人の男性に向かって、未だにオシメの話題を口にされるなど………私なら、恥辱で顔が火と燃えよという心もち。さぞ、マルス様もお辛かったでしょう…」
『ぐ…ぬぅ…!』
「教団の誰もが存じておりますよ。マルス様が、ご家老と顔を合わせたくないと公言している事実を。そうですね?カシム」
え?いきなり話を振られても困る。カシムはマリクとジェイガンの両方に見据えられて縮こまった。確かにマリクの言う通り、マルスはジェイガンを避け、会いたがらない。しかしそれはマリクがマルスにある事無い事吹き込んでいるからだ。
カシムにとっては教団の金を横領し放題の現状を維持する為には、マルスが今のままのボンクラでいてくれたほうが遥かに都合がいい。皆そうしてマリクの元で動いているのだ。他の幹部達もそうだ。信者達はバカだから本気で神などという存在を信じているのだろうが、自分達は違う。信者は幹部の私物であり、私腹を肥やす為の格好の餌なのだ。
『そう…なのか?カシムよ。答えろ!マルス様が…ワシを…』
巨大なジェイガンの顔が孫に嫌われた祖父のような表情に変わった。ジェイガンがマルスをいかに大事に思っているかは幹部なら皆知っている。少しばかり同情したが、かと言って今のおいしい状態を手放すのは御免だ。かといってハッキリジェイガンに「マルス様はあんたを嫌っている」とは色々な意味で言い辛い。しかしマリクが自分に話を振ったという事は、口裏を合わせろという意味に他ならない。
「え、えー、あ、あの、その、あー、な、なんというか、その、ですね、あー、ア、アッシの口からはちょいと…」
いたたまれなくなって口にした言葉は意味のあるものにはならなかったが、それでもジェイガンには十分だったようだ。
『…マ、マルス様が…ワシを…2歳の頃よりお世話差し上げた…ワシを………』
「お分かりになったでしょう。カシムのような立場の者から事実を伝えろというのはあまりに酷。しかし私の申しておる事が嘘偽りなら、カシムもそう答えるはず」
『ワシは…ワシは…』
「ご家老。この際ですからハッキリと申し上げましょう。マルス様はいつまでも手のかかる赤子ではございません。実のお孫様を亡くされ、マルス様をお孫様のように親身になって心配なさるその想いは私も存分に存じております。しかし、それがマルス様の枷となってはむしろ逆効果。マルス様の事を想われるなら、ご家老ご自身も孫離れなさってはいかがでしょうか」
『………』
とうとうジェイガンは黙り込んでしまった。カシムは少しだけ罪悪感を感じたが、これで自分の為のバラ色の生活が戻って来たかと思うとそんなものは吹き飛んだ。実に結構な事じゃないか。ジェイガンは老い先短いジジイだが、自分はまだまだ将来のある若者だ。老人が若者の為に道を明けるのは当然の事だろう。そう考え、カシムは気にしない事にした。そして、もう気にならなくなった。
マリクは回線を切った。ジェイガンの巨大な顔面が消え、無機質な白い壁に戻る。
「ふぅ…。いやー、冷や冷やしやしたよ。あの爺さんの面ぁ、いつ見てもおっかねぇでやすからねぇ」
「カシム…。迷ってはいけません。マルス様は今大変な仕事をなさっておられる。我々が煩わしい事はお引き受けせねばならない。分かりますか?」
「へ、へぇ」
「それで…例の少年はどうしましたか?」
「へぇ、あのトゲゾウとか言うガキの事でやすね。なんでもあの変態三姉妹のマヌケども、失敗しやっがったみてぇでして。ルイージの旦那がせっかく通報したってぇのに手ぶらで帰ってきやがりました」
「そうですか」
「今、あの三人はカービーの豚野郎が始末部屋で…」
「カシム。カービー署長は大変敬虔な教徒であり、私達の同胞です。そういう呼び方はよしなさい」
「へ、へぃ!し、失礼しやした!と、ともかく、あの三人は今処断を受けていやす。三人とも元は男でやすから、カービーでもおっ勃つんでやしょうなぁ。ホモ野郎の趣味ってのは分からねぇもんで…あ、し、失礼しやした!同胞でやすね。同胞」
「病院の件はどうなりましたか?」
「え?へ、へい、ワリオの野郎もしくじりやがったみてぇで。それに、シーダの奴も逃げ出しちまいやがったようでやす。…あの女、結構良い締りだったんでやすが、惜しい事しやしたねぇ…。特に、ヤクを切らすとヒィヒィ喚いて泣きやがる。あの声がたまらねぇんでさ。ひひひ」
「カシム。なんとしても鉄槌を捕らえるのです。傭兵を使っても良い。あの女記者もです。異教徒は改心させねばなりません」
「へい。今度はキチンとした野郎を送り込みやす」
「結構。そうそう、シーダはおそらく鉄槌と行動を共にしている事でしょう。彼女は男をたぶらかす罪深き女性です。保護に成功したら、貴方に任せます。しっかりと神の教えを説き、彼女を救済してあげなさい」
「え?………へい!分かりやした!いよぉし!やるぜぇー!」
つまり、俺がシーダを独り占めして良いって事だよな?あのケツも、でけぇ乳も、何もかも!これからはオグマやナバールに頼み込んで犯らなくても、好きなだけ犯れるんだ!俺だけが!あの女を!なんて素敵なご褒美だ!
これだからこの教団はやめられねぇ。
「"聖火にて祝福を"!マリク様!」
「"灰に幸あれ"。カシム」
教団お決まりの別れの挨拶を交わし、カシムは小躍りしながら部屋を出て行った。
マリクはそちらを見もせず、書類に目を戻した。
2005年09月06日
20:46
49:遊帝(あそびてぇ)
行政は税金を払わない者を市民として扱わず、人権さえも剥奪した。外区というかたちでレンタ・コップ(という名の殺人者)が入り込めない安全地帯を設けてはいる。だが、事実上の無法地帯である外区には物取りや頭のおかしい殺人鬼が住み着く。それも大量に。
企業は客でさえあれば誰にでも食料や医薬品を売ってはくれる。それこそ相手が宇宙人や、人類の根絶やしを企む恐怖のモンスターであっても彼らは喜んで商売をするだろう。しかしその商品は例外なく高値だ。
放逐者になるという方法もなくはない。放逐者は俗語で、本来は逸脱者と呼ぶ。"中央"の保護を必要とせず、人間として認められる権利を捨てた者達に与えられる身分だ。許可制であり、何事にも禁止ばかりする"中央"が、自殺以外に無制限に許可を出してくれる制度でもある。生きられる人口数が制限されているこの世界では、自殺と放逐は政府が推奨する数少ない行為だ。政府の見解では「生き方は自由であり、自殺、逸脱をするのも当人の尊い自由意思に他ならず、我々はこれを尊重する」との事。
放逐者になれば警官もこちらを追う事は出来なくなる。放逐者は保護の対象にはならないが、同時に人間ではなく街の中に置いてある物品として扱われる。つまり放逐者を下手に殺害すれば殺人罪ではなく器物損壊になるのだ。
この世界では人の命よりも物品のほうが(ごく一部の例外を除いて)遥かに尊い。人間である事を捨てたほうがかえって安全になるのだ。だが、結局放逐者が行く先は外区以外にない。外区で生きる為にはあらゆる意味で力が必要になる。自分の身を自分で守り、劣悪な環境を生き延びる強い生命力が。
では弱い人は?財力を持たない、あるいは不当に奪われ、騙し取られた人は?怪我や病気で働く事が出来ず、それでも家族を抱えて生きなければならない人は?力の弱い子供達は?自分の身を守る事もできない老人は?
黙って虫けらのように死ねというのだろうか。
ドーガには絶対に許容できない選択肢だ。
大昔、まだこの星が豊かだったという神話の時代、弱者を騙って国からの助成金(そう、驚くべき事にかつては国が弱者を救っていたらしい!)で生活している者がいたという。国に寄生して生き延びる。まさに神話だ。ドーガはそんな非現実的な黄金時代があったなどと信じてはいない。大げさな事で有名な歴史小説作家フサジロウ・ヤマウチの創作だろう。
だから、ドーガはもう一つの選択肢を取った。教会に入信する事だ。
マリクが事実上の実権を握ってから、総人口規定政策に一つの風穴が空いた。国際的な宗教である聖なる炎教会の信者は例外的に規定から外され、生きる事を許される。これはマルスの父親が提唱していた法律だ。
マリクが何の為にこの政策を中央に承認させたかは分からないが、ドーガはそういう意味でもマリクを面と向かって否定する気にはなれなかった。少なくとも、この制度のおかげで生きる事を許された人々がいる。マリクのやり方には納得できないが、マリクは多くの人の命を切り捨てているが、それと同じくらいの人の命を救ってもいる。
今もそうだが、元々ドーガは信仰心など持ち合わせていなかった。古い友人であるマリク、カイン、アベルが熱心に信仰している姿をある程度距離を置いて見ていた。
そんなドーガが入信を決意したのは、自分の戸籍を空けるためだった。
6人の兄弟がいるドーガの家計は昔から裕福ではなかったが、父が死んでから急激に貧しくなった。次男であるドーガは高校への進学を諦め、働きに出なければならなかった。それでも両親が中学まで出してくれた事には感謝している。下の弟達は小学校にも通えなかったのだ。既に長男は働きに出ており、自分も家を出て家族の為に収入を得なければならなかった。
恵まれた体格を生かし、ドーガは必死に働いた。その働きで給料を3人分貰えたが、ドーガの食費は一回につき5人分は必要だった。金はほとんど家に全額入れ、自分は1日1食で我慢する事にした。その体格からプロレスラーにスカウトされた事もあったが、人を殴ったり傷つける事はどうしてもイヤだから断った。ドーガはその体格に似合わず臆病なのた。
そんな時、7人目の弟が生まれた。ドーガの家に許可された戸籍数は8。通常は1〜2人あればいいほうだが、死んだ父が役人をしていたおかげでかなり多くの余裕があったのだ。しかし母を含めて一人オーバーしてしまった。長男は長期出張の為家にはおらず、乳飲み子の末っ子をどうするかは次男であるドーガに委ねられた。母親は弟を企業の被験体に提出しても良いと、気丈にも涙を見せずに語った。だが、順番が間違えばドーガがそうなっていたのかと思うと、弟の命を見捨てるなど絶対に納得できない。
選択の余地は無かった。ドーガは放逐者申請をした。
弟の命と引き換えに人権と職を放棄したドーガにはその後のあては全くなかった。
それは無様な悪あがきかもしれないし、見苦しい時間稼ぎかもしれない。事実、末の弟は感染症にかかり、ドーガが放逐者の道を選択してから数ヶ月で死んでしまった。ドーガのやった事は、結論から言えば全くの無駄に終わった。
それでも自分は精一杯あがく事ができた。不幸な結果ではあったが、もし感染症が無ければ弟は生きる事が許されるはずだった。自分は兄として、精一杯の事を弟にしてやる事は出来た。だから後悔するのはやめた。
ドーガを拾ってくれたのはマリク達だった。当時教団が薦めていた、信者による人権所得を聞いてそれに乗ってみる事にした。そして、教団が正式な国際宗教として認められるよう全力を尽くした。隣にはマリクをはじめ親友達がいた。決して豊かではなかったが、元々貧しい暮らしに慣れていたドーガにはたいした問題ではなかった。いつしか、ドーガ自身もこの教団が多くの人々を救える…そんな理想を信じられるようになっていた。
そして、ついに中央が教団を正式に認め、初代メンバーであるドーガ達は功労者を表すテンプルナイツ、宮廷騎士団の称号で呼ばれるようになった。ドーガは司祭としての位をもらい、生活に困らないだけの収入を得る事が出来た。空腹からもおさらばでき、家族を養い、貯蓄もできるようになった。貧乏人が誰もが憧れる、貯蓄という行いが出来るようになるなんて信じられなかった。銀行に口座というものを作りにいった時、かなり緊張して全身が震えたのを覚えている。ドーガは幸せだった。
…もう全て過去の話だ。
今はその教団から冷遇されている。司祭の役職と給料の額は変わらないが、それ以外は何もかもが変わってしまった。テンプルナイツの初代メンバーで司教にまで出世していないのはドーガ一人だけだ。言わば落ちこぼれのドーガを周囲は「ノロマの亀」「役立たずのデカブツ」と後ろ指を指すようになった。陰口が耳に入らない日はなく、ドーガは人のいるところを出来るだけ避けるようになった。大きな体を窮屈そうに縮め、出来るだけ目立たないように小さくなって歩くようになった。自分はどうしてこう生き方が下手なのだろう、ドーガは時々自己嫌悪に陥る事がある。
こんな気分の時、ドーガの足は自然に孤児の大勢いるハイラル地区に向かう。沈んだ気持ちの時は、子供達と接するのが一番だ。
見えてきた。薄汚れた汚い街。だが、ドーガが担当を任されている大切な街。多くの者は正式な戸籍は無いが、教会の改宗実施区画として仮の戸籍が地区単位で認められている。近所の教会を本拠地にして、そこを訪れる者には無料で仮戸籍証明を発行している。元々この教会はジーさんとか(ジーザスだったかな?)言う古い神様を奉っていたらしい。教会の責任者である神父は改宗に応じてはいないが、教会と協力する事で人々の生存が許されるのなら…と条件つきで協力関係を保っている。教会側は改宗の為の場所と告知を行う代わりに物資と仮戸籍証明を支給するのだ。ドーガも本音を言うと改宗など形だけのもので良いと思っている。
ゼルダが通りを元気に走っているのが見えた。彼女が街中を意味不明な事を言いながら走り回るのはいつもの事だが、今日は他にも多くの子供達がいた。
子供達に囲まれ、一人の大男が大仰な身振りを交えながら何事かまくしたてている。その立ち振る舞いは遠目で見てもかなりコミカルで、子供達の笑い声は離れていてもよく聞こえた。ゼルダがその男の声にあわせるように周囲を走る。子供達はその男を指差したりしながら、思い思いに話し、笑っている。
最初は大道芸人でも来ているのかと思ったが、それにしては姿がおかしい。服も、髪も、そして目までが青いのだ。
見覚えがあるような気がした。だが遠い記憶なのか、思い出す事が出来ない。
すると、男のほうが先にドーガのほうに気づいた。
「よぅ!ドーガじゃねーか!」
青い色の大男。長男、ラレンティウスの姿がそこにあった。
2005年09月07日
21:29
50:JKとF5
ドドンゴの繰り出した爪を避け、その突き出した腕の間接を取りながら、顔面に剣の平を叩き込んだ。
鈍い音とともにヘルメットに亀裂が入り、ドドンゴは意識を失った。
そこからは静かな戦いだった。
ガノンの剣が安物の重心ブレードと見て取ったリザルフォスは、ショックバトンの電撃で重心ブレード内部の液体を焼く事を狙い、ガノンはそれをことごとく回避した。だがガノンが切り込もうとする剣に対しても、それを防ごうとするショックバトンからの電撃が襲い、ガノンはまた、それをも寸止めで避ける。
互いの獲物が触れ合わない静かな戦いは、空気の張り詰めた「舞」であった。両者は「舞」を共にしているのか、互いに競っているのか。
しかしガノンの一太刀がリザルフォスの両手首を一度に捉えた事で、突如として終結した。
2本のショックバトンが地に落ち、リザルフォスのサイバー化された手首は火花を上げ、その機能を停止した。
「…おみそれしやした」
そう呟くとリザルフォスは、苦々しい笑みを浮かべ、ガノンを見た。
「好きにしてくださいな」
「…」
ガノンはゆっくりと剣を下げた。
「…なぜ私を狙う?」
「……理由なんて、いりやせんね。アンタが本物のガノンドロフなら。アンタがここにいると聞かされて、本物かどうか確かめてみたくなったんでさ」
「…誰かに利用されたとは思わなかったのか?」
「関係ねぇですな。アンタのいう3人ってのは、私らともう1人…そいつが持ってきた情報でしてね。胡散臭い野郎でしたが、アンタが本物なら、関係ねぇんですわ」
「……もういい。行きなさい」
ガノンは剣を収め、リザルフォスに背を向けると、教会へ歩き出した。
リザルフォスはその背中に一礼すると、よろよろと起き上がったドドンゴに肩を貸し、その場を去った。
ガノンが教会に戻ると、リンクは台所の包丁を手に、鍋をかぶって身構えた。
「え、あ、ファーザー、あいつらは…?」
「…」
「ファーザー?」
「…リンク、今日中に君の訓練を終わらせる」
ガノンはそう言って奥へ引っ込んだ。リンクが訝しがってると、ガノンはすぐに身支度をして出てきた。
「すぐに戻る。準備をしていなさい」
約1時間後、ガノンは『スパルタンX』と名乗る、7人の東洋系の男達を連れて戻ってきた。
「今日中に、彼ら全員から訓練を受ける…それで終わりだ」
廃墟の中を歩いていると、突然ドドンゴが倒れた。
「おや、どうしたんだい、ドドンゴ…」
ぐったりとして動かない…見ると、ヘルメットの亀裂の隙間に、何かが光った。
(…弾丸?)
弾丸だ。だが、どういう事だ?ガノンは銃を使っていなかった…。
「よう」
驚くほど近くから声を掛けられた。とっさに振り向くと、そこには望遠鏡が埋まった顔が笑っていた。
「キース!?」
「ああ」
キースの手にしたサイレンサー付きの拳銃が「パスン」と小さな音を立て、リザルフォスは崩れ落ちた。
リザルフォスは唸っていたが、キースが頭の辺りに更に数発を撃ち込むと、痙攣して、すぐに動かなくなった。
ドドンゴにも同じようにした。
「ん。はい、おしまい。ご苦労さん」
そう言い終るまでに、キースの姿は消えていた。
| 広告 | [PR]ヒートテック 花 転職支援 わけあり商品 | 無料 チャットレディ ブログ blog | |