PHASE:21-30

2005年07月21日
00:48
21:遊帝(あそびてぇ)
「親愛なる信者諸君、僕は誰だ?」
「はい!偉大なる枢機卿様です!」
「諸君、神の教えを信じるか?」
「はい!崇高なる枢機卿様!」
「諸君、神のために命を捨てられるか?」
「はい!聡明なる枢機卿様!」
「諸君、神の国へ行きたいか?」
「はい!高潔なる枢機卿様!」
「もう一度聞こう。僕は誰だ?」
「はい!慈愛溢れる枢機卿様です!」
「そうだ。偉大で、崇高で、聡明で、高潔で、慈愛溢れるマルス枢機卿!それが僕だ!そうだな?」
「はい!偉大で、崇高で、聡明で、高潔で、慈愛溢れるマルス枢機卿様!」
「よし、では異教徒どもを積み上げろ!天に届くぐらいにな!!」
「はい!我らが枢機卿様!」
 一斉に民家に火が放たれる。
 マルスはこの瞬間が一番好きだった。数百人という信者が、自分の手足のように動く。自分が命令すれば、おそらく火の中にだって飛び込むだろう。
 月に一回、教会の信者を率いて貧民狩りを行うのがマルスの趣味だった。
 お布施を収めない者がいる区画、教会が行う洗礼の儀式に子供を差し出さない親がいる区画、教会を批判した者がいる区画、それとは無関係になんとなく近くを通りかかった区画を狩った。
 狩りは楽しかった。
 業火に焼かれていく人間達を見ていると、自分が選ばれた聖者の息子であるという事実を実感できた。地獄のような残酷な光景は、自分の偉大さを讃える宴。悪夢のような断末魔は、自分の偉大さを讃える心地よい賛美歌だった。
 子供狩りとは違う、別の楽しみがある。それに、子供狩りで得た子供達はマフィアや企業、売春宿に提供しなければならない。自分の物にできる子供は一握りしか残らない。
 信者には子供だけは決して傷つけるなと厳しく命じている。
 マルスは子供が好きだった。愛していると言ってもいい。
 特に性的に愛した。
 子供は、特に幼女は素晴らしい。まだ男に汚されていない幼女は、神がマルスにくれた贈り物だ。宝だ。
 だが、一度でも男を知った幼女は、もう女だ。聖母以外の女は汚れている。女になった瞬間、幼女は生きる資格を、宝である資格を失う。
 だから殺した。
 まだ年端もゆかぬ子供を犯し、泣き叫ぶ子供を殴って大人しくさせ、時にはクスリで眠らせて楽しんだ。思う存分子供を愛した後、マルスは自ら子供達を"始末"した。首を切り、腹を割き、その遺体を焼いた。一度でも汚れた子供を見るのはたまらなく嫌だった。しかも、偉大なる枢機卿である自分の為に死ぬのは嫌だと泣き叫ぶ。神の子であるこの僕に向かって!!罰が、罰が必要だ。だから"処分"してきた。
「く…くそぉ!教会のクソ犬ども!こんな真似をしやがって…」
 なんだ?汚い男が這い出して来て何か喚いている。
「洗礼を拒否しただと!?ふざけるな!変態クソガキ!お前らの洗礼ってのは幼児をレイプしてるだけじゃ…おぼっ」
 部下の信者が棍棒を振り下ろした。マリクが命令したのだ。
「…マルス枢機卿のなさることは全て正しい。お前のような愚かな異教徒には分かるまい」
 マリクの澄んだ声が響く。彼は教会で、唯一僕を様づけで呼ばなくても許される存在だ。本来は大司教であっても僕を様づけで呼ばなければならない。だけど、マリクだけは別だ。彼とは幼馴染だし、僕の偉大さを最初に気づいてくれたのは彼なんだ。
「だが、案ずる事は無い。お前と、お前の娘は救われる。お前は今受けている聖なる棒にて清められている。お前の体から汚れた血が全て流れ尽くした時、お前は天に召されるだろう。そして、罪深きお前の娘も、マルス枢機卿直々の洗礼を受け、天へ召される。哀しむ事はない」
 マリクは淡々と僕の偉大さを語る。それが僕にとっては大変に心地いい。そうだ。みんなこのくらい僕の偉大さを当たり前に語ってくれるといいのに。
 今日も、新しい子供が献上されるだろう。どんな子だろう。今から楽しみだ。もう白人の子は飽きた。男の子もいい。子供に性別は無い。愛らしい子供は男女等しく愛する価値がある。神がそう決めたのだ。そして、子供を愛して良いのは僕だけなのだ。だって、僕なんだよ?。それも、偉大で、崇高で、聡明で、高潔で、慈愛に溢れ、威風堂々たる、敬虔にして清廉なる枢機卿である僕なのだ。
 あの男、動かなくなったな。でも念の為信者は男を叩き続ける。僕の信者達は熱心なんだ。これであの男も天に召されるだろう。ああ、罪人を許す行いは、いつでも良いものだなぁ。
「失礼致します!偉大で、崇高で、聡明で、高潔で、慈愛溢れるマルス枢機卿様!報告致します!」
 部下の信者が一人、駆け寄って来て跪いた。
「………何だって?」
「え?ですから、偉大で、崇高で、聡明で、高潔で、慈愛溢れるマルス枢機卿様!報告を…」
「………………………が抜けた」
「は?」
「"威風堂々たる"と"敬虔にして清廉なる"が抜けたぁああああ!!!!!!!!!!!!!!」
 マルスは腰の剣を抜き放ち、部下に切りつけた。本来は切れ味が良いはずの剣だが、マルスの細く頼りない腕では刃筋を通す事さえままならない。部下は切りつけられたというより、鈍器で殴られたような怪我を負った。
「…おい、お前!この僕が聖剣で切りつけたのに、なんで死なない!?そうか!貴様は悪魔か!この僕を騙していたな!この僕と聖剣で、切れない人間がいるはずがない!だから!お前は!悪魔なんだ!!!!」
「ひ、ひぃい!た、助け…」
 マルスは信者を剣で切りつけ、いや、叩き続けた。信者は苦しみ抜き、許しを乞う。しかしマルスの耳には届かない。いっそ一思いに。男が懇願する。声が小さくなってきた。マルスの殴打が続く。
 マリクはその光景を冷めた目で見ていた。
 信者が動かなくなったのを見てマリクはようやくマルスに声をかけた。
「…枢機卿。そろそろ悪魔払いは済んだかと。あとは我々にお任せを…」
「マリク…。そ、そうかい?まだ僕の気は済んでないんだけどなぁ。という事は、まだ悪魔がこいつの体にいるって事じゃないのか?」
「しぶとい悪魔めでございますな。しかし、枢機卿は今夜多くの子供達を洗礼して頂かねばなりません。あとは、私どもが悪魔払いを致します。どうぞ、ここは一旦お休みを」
「…そ、そうか。そうだね。子供達が救いを待ってるんだ。そうだ、そうだね…」
 マルスはようやく剣をおさめた。体力の無い体で暴れまわったので息が切れている。それでも大きく息を吸い、声を張り上げた。
「親愛なる信者諸君、僕は誰だ?」
「はい!偉大なる枢機卿様です!」
「諸君、神の教えを信じるか?」
「はい!崇高なる枢機卿様!」
「諸君、神のために命を捨てられるか?」
「はい!聡明なる枢機卿様!」
「諸君、神の国へ行きたいか?」
「はい!高潔なる枢機卿様!」
「もう一度聞こう。僕は誰だ?」
「はい!慈愛溢れる枢機卿様です!」
「そうだ。偉大で、崇高で、聡明で、高潔で、慈愛に溢れ、威風堂々たる、敬虔にして清廉なるマルス枢機卿!それが僕だ!そうだな?」
「はい!偉大で、崇高で、聡明で、高潔で、慈愛に溢れ、威風堂々たる、敬虔にして清廉なるマルス枢機卿様!」
「よし、では異教徒の子供を回収しろ!僕が直々に洗礼を行う!!」
「はい!我らが枢機卿様!」
 マリクだけが、合唱の輪の外にいた。
 冷たい目で信者を、そしてマルスを見ていた。


2005年07月21日
01:35
22:天にJK地にF5
 ニンテンドー・シティ・国際空港のロビーで、彼を見つけるのは容易だった。
 ヨーロッパを経由して中東から来る便は、そう多くないし、何より“トレードマーク”のピンクのバンダナとサングラスが、相変わらずの目印だ。タバコの箱を片手に、律儀に喫煙スペースを探してキョロキョロしている筋肉質のその男の姿は、どこか可愛げがあった。
「ロイ!!」
 ロイの姿を見つけると、レミーは大げさに手を振って駆け寄った。
 声は聞こえたはずだが、ロイは喫煙スペースを見つけると、真っ直ぐにそちらへ歩いて行った。
「ねえ、ロイ!」
「人違いだ」
 ロイはマールボロを1本咥えると、ライターを探し始めた。
「何が人違いだよ…ロイでしょ?」
「しつこいぞ…売春なら、金持ちを相手にしな」
 ロイは相手の姿を、ちらりと見た。
 レインボーカラーに染めた髪に、幼さと大人の色気が同居した笑顔…見知った女では無い。自分の事を知ってるようだったが、こちらは知らない。どこかで会ってても覚えてない。そういう、どうでもいい輩は、無視する事にしている。
 それに、ロイは女には貞淑さを求めるタイプなのだ。この女…旅行客相手の売春婦か?…なんだ、この服装は?ところどころに穴の開いた黒いレザーで全身を包んでいる。もちろん、その穴はギリギリの所に開いていて、見ていて恥ずかしくなる。ロイは、シャイなのだ。
(全く…中東の女を見習わせたい…)
 かと言って、目を背けるのも、もったいない…。
 女は拗ねた様な顔でこちらを見ていたので、ロイは少し怯んだ。戦場では勇敢な男でも、そこを離れると、女には強く出れないのだ。ロイは童貞だった。
 ピンクのバンダナも、サングラスも、自分を「ダサい」と思っているロイの精一杯の虚勢だった。
「いつまで突っ立ってる?」
 そうは言ったが、もう少しそうしておいて欲しい…今、観賞中なのだ。胸…ダメだ。小さい。よく「カタチが良ければいい」と言う者もいるが、物には限度がある。もう「小さい」というより「無い」と言っていい。ふともも…合格だ。言うこと無し。
(…ん?)
 その時、ロイは見てしまった…彼女の股のあたりのふくらみを…。
 ゆっくりと女の、いや、ソイツの顔を見上げる。
(まさか…)
「ねぇ、どこ見てんの?」
 ソイツは見知った“男”だった。

「かんべんしてくれ、レミー…」
 レミーの運転する車(中古のミニ)で市街地へ向かいながら、ロイはレミーの顔色を伺った。
(しかし、なんで俺が謝ってるんだ?)
 “女”なら、わかる。ソイツが自分に惚れてるなら、尚更だ。もしも「人違いだ」と言っておいて体をジロジロ見ていたなら、それはつまり、顔を忘れた上に他の女をジロジロ見てたつもりであるから…。
(でも、コイツは男だ!!どう見ても女だが、男なんだ!!さっきだって、ちゃんとアレが付いてたじゃないか!!)
 もしある日突然、派手なドンパチをやらかした任務終了後に、ついさっきまで背中を預けていた戦友が思いつめた風に「二人で飲みたい」と言ったら、チームの誰だって同行する。ロイは仲間を愛していたし、そんな表情をされては心配で放って置けない。この仕事では、どんな勇敢な男でも“死の恐怖”に屈する可能性がある。それでリタイアする者も、狂って死んでいく者も見て来た。どんな相談にでも乗るつもりだった…例え自分が役に立たなかったとしても。
 だが「ボク、性同一性障害なんだ」と潤んだ目で言われたら、話は別だ。ロイはすぐに店を飛び出した。
『なんで俺に言うんだよ!?やめてくれ!!』
 次の日、事情を知らない仲間たちは戸惑った。あの陽気なレミーが一日中メソメソしているのだ。
 単細胞の人情家・ラリーが言った。
『お前ら、どうしたんだ?頼むから次の仕事までに、どうにかしてくれ…』
(そう言われてもな…俺にどうしろって言うんだ)
 しばらく気まずかったが、レミーがあまりに酷く傷ついたようだったので、ロイが折れた。ロイは馬鹿みたいにお人好しだった。
『掘るのも掘られるのもゴメンだが…アンタとは仲間としてやっていける。まぁ、家に来て、飯でも作ってくれ』
 翌日、レミーが“カミング・アウト”した事は、仲間たちの間での名珍事の1つだ。
 その後、チームは解散して全員のIDが凍結になった。ロイは企業の雇われ者として中東へ渡り、レミーはフリーになって南米へ行った。
 帰って来てみれば、レミーの首から上は、女になっていた…元々が女顔だったが、化粧で化けたわけではあるまい。しかしお互い、あまり稼げなかったようだと、ロイは思った。稼いでいれば、きっとレミーはとっくに性転換しているはずだからだ。
「じゃカンベンするから、中東の話して」
「面白い話は無ぇよ。せいぜいテロリストとヤリ合って、幹部を挙げたくらいだ。テロなんて、この街でも起きる」
「ふうん。ボクは南米でね…」
 キューバ系マフィアやテロリストと戦った話を嬉々としてするレミーを見ながら、ロイは感慨に耽った。
(俺も惚れたか?…いや、冗談じゃ無ぇ。こいつは、いい奴だ。ただ、それだけだ)
 ただの“同情”ではない。しかし、あくまで“友情”…きっとレミーが性転換をしたとしても、埋められない溝がある。同時に誰がどうやっても、隔てる事の出来ない絆がある。もしかしたらレミーが本当に最初から女だったとしても、それは変わらなかったかも知れない。
(どっちかが死ぬ時ぐらいに、サービスするか)
「ん?何か言った?」
「いや別に」

 やがて車は彼らの古巣である市警に辿り着いた。


2005年07月23日
01:42
23:遊帝(あそびてぇ)
 ネスは目の前で震える男に優しく声をかけた。
「…そんなに怖がらなくてもいい。それで?もう一度言ってもらえるかな?」
 黒い背広にサングラスの男、テディの震えは更に激しくなった。顔面は蒼白で、全身に汗をかいている。
「は…はい…。そ、その…例のガキどもには………そ、その…に、逃げ…」
「うん?」
 ネスの声は変わらない。まるで幼児に優しく問いかける聖職者のようだ。そもそもネスが声を荒げる場面を見た者は誰もいない。
「それで、どうしたって?」
「はは、はい、そ、その、つ、つまり…逃げ…られ………まし………………た」
 テディは震える舌をもつれさせながら、自らの任務の失敗を告げた。最後のほうは蚊の鳴くような小さな声になり、自分でも聞き取り辛かった程だ。
 企業の非合法工作員にとって、任務の失敗は"死"そのものだ。自らの命の終焉を、自分自身の口から声に出して表すのは想像していた以上に恐ろしかった。まして、超巨大企業群MOTHERグループの母体であるMOTHERコーポレーションの任務とあっては尚更だ。
 この世界にも、ささやかながら法律はある。無論弱者や人権を守るために存在するわけではない。金持ちに対して、卑しい貧乏人が不埒な考えを起こさないようにする予防措置のためだ。
 当然、工作員の存在は非合法だ。なぜなら、金持ちが枕を高くして眠れない社会は"悪い社会"なのだ。理由は分からないが、そういう事らしい。誰だって、自分が襲われるのは嫌なのだ。存在しては困る。だが、自分の地位を守る為には存在していてもらわないともっと困る。それが非合法工作員だ。
 テディとて任務に失敗した時の事を考えなかったわけではない。何人も死んでいったし、危い橋も何度も渡った。そんなことを何度も体験していくうちに、いつかは自分に番が回ってくるというのはおぼろげながら感じてはいた。
 しかし、いざその時が来ると恐ろしい。
 目の前のネスという男…。
 3年前、突然MOTHERコーポレーションの中核に現れ、瞬く間に専務という地位にまで上り詰めた男。この男が現れてから、何十人もの重役が失脚し、姿を消し、時には死体で発見された。出世の為に上を消すのは企業という社会では当たり前の思想だ。別に特別な事ではない。
 しかし、このネスという男は異常だった。痕跡が全く見えないのだ。
 大抵の場合、新しい重役が誕生する際には何らかの前触れがあり、誕生後も痕跡が残る。多くの人間はそれについて知らないフリをする。知ったところでロクな事にはならないからだ。だから出世しようと考える者は証拠の隠滅などという面倒な事は行なわない。自分が出世すればいくらでも握り潰せるからだ。証拠を消す事より、上司に死亡報告書と昇進申請用紙を書く時間を惜しんだほうが余程効率的だ。
 だがネスが出世する時は、ネスが重役を消したという痕跡がまるで見られないのだ。ネスが出世する前に、全くの偶然で人が消えていくようにしか見えない。
 だから、ネスが自分のような工作員に任務を下した時は意外だった。
 ともかく、自分は企業に忠誠を誓った身だ。今更上司が不気味だからといって詮索する気も、尻込みする気もない。
 工作員は企業に忠誠を誓い、任務遂行の為に命えおも賭ける。その姿勢から、工作員はサムライと呼ばれる事がある。かつて日本という国にあった終身雇用制度の事らしい。サムライの任務にまともなものは一つもない。要人暗殺、誘拐、破壊工作。眩暈がする程危険で、気の滅入るようなものばかりだ。
 テディは順調に任務をこなし続けた。ネスが下す任務は、それまでのものと比べると楽なものばかりだった。少なくとも、会議室のドアを蹴り飛ばして銃弾をバラまいたり、ライバル企業に罪を被せる為に罪もない生産区の少女を集団でレイプする任務よりは楽だった。肉体的にも精神的にも。
 どんな任務も企業の為だ。自分が死ぬとしても、それは企業の為だ。怖くないと言えば嘘になるが、必要以上に恐れてはいない。俺が誓った忠誠の為に。
 …いや、言い訳はやめよう。奇麗事もなしだ。
 立ち止まれば自分が殺されるのだ。企業に、社会に、この世界に。だから必死に任務を続けるのだ。他に生き方なんて知らない。
 その生き方も、今日、終わる。
「………処分は覚悟の上です」
 テディは出来る限り毅然とした態度で言ったつもりだった。せめて死ぬ時くらいは潔くしたい。処刑法はどんなものだろうか。銃殺か。墜落死か。あるいは服毒死か。いや、ひと思いに死なせてくれればいいが…。
 ああ、情けない、結局俺はまだ怖がっている。散々人殺しもしてきたろうが。今さら見苦しいぜ?テディ。
「…処分?なんの?君の?とんでもない!君はよくやってくれたよ、テディ」
 ネスの言葉を耳で聞いて、頭で理解するのに数秒かかった。
「…はぁ?」
 あまりにもマヌケな反応だったが、それ以外に返せなかった。この男は、ネスは一体何を言っているんだ?
「聞こえなかったかな。君はよくやってくれた。こう言ったんだが?」
 ネスは苦笑しながら繰り返した。
「し、しかし!私は、ピットとかいうガキと、その一味を捕らえるよう…」
 一瞬、ネスの眉がピクリと動いたが、テディはそれに気づく事はなかった。
「テディ、教会の無能な傭兵とレンタコップが君の邪魔をしたんだろう?よく分かってるよ。結果的には残念だったが、それでも君はよくやってくれたよ」
 よくやった?よくやっただと?信じられない。企業では結果が全てだ。過程や努力の程度などなんの意味も持たない。
「それに、君のように優秀で多大な功績を挙げてきた人間を軽々しく扱うのは、経営者としての私の資質を問われるからね」
 優秀?功績だって?任務の失敗は無能の証拠ではなかったのか?それに、一度の失敗で全てを失う。それが企業の、この世界の当たり前の法則のはずだ。
「…テディ。君は今まで随分狭量な上司についていたようだね。安心してくれ。私は違うよ」
 この男、もしや共産主義とか言うヤツか?…いや、あれは数十年前に滅んだはずだ。今では途上国で散発的なゲリラ活動を行なう弱小なカルト教団に過ぎない。そもそも共産主義など唱えるヤツは例外なく無能で妄想癖があって頭がイカれている。ネスもおかしな男だが、少なくとも無能ではない。イカれてはいるかもしれないが。
「君の実力をいかんなく発揮できない作戦を命じた私のミスだ。気にする事はない」
 嘘だ。この男にとって、部下のミスなどどうでも良い事なのだ。この男は自分を見てすらいない。ヤツの目は、もっと別の、とんでもなくヤバイ何かを見てやがる。俺はヒットラーに会った事はないが、きっとこんな男だったのではないか?なんてこった。この男はとんでもない狂人かもしれないぞ。一体、何を企んでいやがるんだ?
 テディの第六感が告げていた。この男は危険だ、と。かつてテディが行なってきたどんな危険な任務も、この男と関わる事に比べれば遥かに安全なものだったように思えて来た。命は助かったようだが、果たして喜んで良いものかどうか…。
「いい月だ………。そう思わないか?」
 ネスはもうテディの事など見ていなかった。窓に映る月を見て、ワイングラスを手に取った。
「そう…本当にいい月だ」


2005年07月25日
22:35
24:遊帝(あそびてぇ)
 吉井は自宅のドアを開ける時、いつも心が躍る。
 今日は愛する妻と娘はどう自分を迎えてくれるかな?
 ワクワクしながら、ゆっくり、静かにドアを開ける。
 暗い。電気をつけてないなんて。
「ただいまぁ。帰ったよ〜」
 誰もいない。
「うふふ。なんだい、食べて帰ってきたの、そんなに怒ってるのかい?ごめん、ごめんよ」
 …返事は返ってこない。吉井は電気もつけずに部屋を歩き回る。
 薄暗い部屋の中はかなり散らかっており、あらゆる場所に物が転がっている。ところどころ、白い棒のようなものが突き出しているのも見える。
 しかし吉井はそれにつまづく事なく、スイスイと歩いて冷蔵庫の前で立ち止まった。
「…さぁて、た・だ・い・ま!」
 勢いよくドアを開けた。「やぁ、やっぱり二人ともここにいたね?さぁ、かくれんぼは僕の勝ちだよ?」
 吉井は冷蔵庫の中の中に話しかけた。
 冷蔵庫の明かりの中、バレーボール程の大きさの塊と、それよりもう一回り小さな塊。
「さぁ、出ておいで」
 吉井はその二つの塊、人間の生首を掴み、外へひきずり出した。無造作にひきずりながら、テーブルに向かう。
「今日の夕食はねぇ、おいしかったよぉ。…ああ、そんなに怒らないで。悪かったってば。反省してます。ね?」
 吉井は幸せそうな顔で生首の片方、成人女性のものだったと思われるものに話しかける。まるで、吉井にだけは生首の声が聞こえているかのように。
「ああ、ハニー、許してね。だって、僕達はもう三人一緒に食事は出来ないんだ。どうしてって?あのね、三人で出かけるとね、こわ〜いお回りさんがパパの事を追い回すんだ。パパがおまわりさんに捕まっちゃうの、嫌だよね?ね?………そうかい、もちろんさ!パパも愛してるよ、マイハニー」
 吉井はもう一つの、少女と思われる生首に話しかけ、嬉しそうにキスをした。その小さな生首の眼球はすでになく、ぽっかりと暗い穴が開いている。
「………さぁ、食事をしようね。パパはちゃあんとお土産も買って来てるんだよ」
 吉井は生首を二つテーブルの上に置くと、自分は椅子に腰掛けた。たった一つの椅子に。
 閉まりきっていない冷蔵庫から漏れる光が、部屋と吉井をうすぼんやりと照らす。喰い散らかされた人間の残骸が転がる部屋を、うすぼんやりと。
「さぁ、お土産だ。今日はなんと三つもあるんだよ?女の人と、おじさんと、それと若いお姉さんだ。ちゃんと心臓は残してあるからね」
 そう言いながら、吉井は握り拳大の塊をテーブルの上に置くと、一人でその塊を口に運んだ。
「パパはまた出かけなくちゃいけないんだ。ルイージ君をあんまり待たせちゃ…あれ?なんだ、二人とももういいのかい?もう、ママもダイエットは程々にしないといけないよ?そうでなくても魅力的なんだから。これ以上ステキになっちゃったら、パパはもうお仕事にいけなくなっちゃうよ〜」
 幸せそうに笑う吉井。死体から取り出した心臓を三つとも貪り喰う吉井。その顔は幸せを絵に描いたような表情だった。
 幸せそうな吉井を、空ろな目をした妻と娘が見ていた。
 そして、もっと多くの、物言わぬ骸がそれを見ていた。


2005年08月01日
03:04
25:遊帝(あそびてぇ)
 ルイージはかなり長い間待たされることになった。吉井が待ち合わせに20分も遅刻したからだ。
 吉井はいつもの通り、ニコニコ顏で現われた。なにが楽しいのかさっぱり分らない、しかしまぎれもなく本心から嬉しそうなあの顏で。
 くそ、何が楽しいってんだ。
「…やだなぁルイージ君ってば、まだ怒ってるのかな?もう許して下さいよぉ。妻と娘が離してくれなかったんですってば」
「いや、別に怒っちゃいないよ」
 こっちも、いつものヘラヘラ笑いでゴマかす。ああ、クソ。
 ルイージはどちらかというと吉井の事を気にいってるほうだった。人嫌いのルイージは、ほとんど世界中の全ての人間が、いや、人類そのものが嫌いだった。
『人類なんか地球を汚す汚いゴミだと思います。いっそ全滅して、ゴキブリにでも居住空間を譲ってあげるべきだと思います』
 そう作文で発表して気絶するほど教師に殴られたのは、確か小学校の頃だったか。今でもあの主張は変ってない。少なくとも、あの教師はルイージにとってゴキブリ以下の存在だ。だからマリオに殺させた。たまたま女だったものだから、死体になった女を犯した。ゴキブリはルイージに歯向かったりはしない。
 ルイージの世界はシンプルだ。世界には、自分が殴っても反抗しない者と、自分を殴って頭を下げさせる者の二種類しか存在しない。前者は生きていても良い人間で、後者は聖母のケツの穴から産まれたハエも避けて通る空飛ぶクソだ。
「…ところで、本当に、マリオさん…いない…ですよね?」
 吉井は不安気に周囲を見まわした。マリオを恐れているのだ。
 吉井は一度マリオを喰い殺そうとして返り討ちに合った事がある。ルイージにしてみれば、あんな薄汚い物体を口に入れようという神経が理解できない。まして、咀嚼して噛み砕き、飲み込んだ上に自分の血肉にしようなどと。
 ともかく、吉井はマリオに殴り殺されかけた。それを救ったのはルイージだった。なぜ吉井を助けたのかは、ルイージにも分らない。鉄パイプで殴打される吉井の姿が、マリオの不当な暴力に苦しむ自分の姿と重なったのかもしれない。あるいは、吉井が自分に恩義を感じる事を計算したのかもしれない。
 結局、吉井はルイージのとりなしによってカメ狩りから逃れる事ができた。ルイージが知る限り、マリオに歯向かって生きている唯一の人間だ。
 あれ以来吉井は自分より歳下のルイージに恩義を感じ、ルイージの頼みなら大抵のことはきくようになった。
 しかし、マリオの暴力が余程こたえたのか、吉井はマリオを徹底して恐れている。そういう吉井の怯える姿を見るのは気分が良かった。苛立ちも少しづつだがおさまってゆく。
「心配するなって。マリオはいないよ。アイツは俺の言う事だけは聞くんだ」
 ルイージを見る吉井の目が尊敬のそれに変わる。気分が良い。永遠の弟分などと陰口を囁かれるルイージにとって、尊敬の眼差しを受けるというのは実に良い気分だ。
「さすが、ルイージ君だなぁ。ああ、よかった。マリオさんがいたら、ボクどうしようかと思っちゃった」
 安心したせいか、吉井にあのニコニコ顏がもどった。くそ、またイライラしてきやがった。
 ルイージは幸せそうな笑いが嫌いだった。自分はこのクソまみれの世界で生きるためにしかたなく笑っているのだ。嘘でも笑っていなければ、この世界は俺を喰い殺す。あのクソ忌々しいマリオの野郎のように、クソとションベンをタレ流しながら。
 だが吉井の野郎は本気で幸せそうに笑う。
 吉井はイカレタ食人趣味のサイコ野郎だ。マリオ同様何人も殺している。まぁそれはどうでもいい。ルイージにとって人間が死ぬという事は生ゴミが増える以上の意味はない。
 しかしマリオや吉井のように、人を殺したからといって幸せな気分にはなれない。人を殺せば死体が残る。匂いもする。その上大抵金目のモノは持ってないときている。なのに死体の始末は面倒だ。自分はマリオのように国からワケの分らない保護指定など受けていない。放逐者とはいっても刑法だけはしっかり適用される。人権も保障しないクセに罰則だけはしっかり寄越しやがる。
「それで、お前を呼んだ理由なんだけどな…。クリ坊が持ってきた情報によると"ビッグタイトル"達が集結しつつあるらしい」
 吉井の笑顔が凍りついた。ああ、そうだ。そんな顔がいい。幸せなんて無いんだよ。この街には。
「ビ、ビッグタイトルって…この街の成立に大きく関わったあの英雄達の事ですか?中央ですら一目置くっていう…」
 吉井は顔に笑顔を戻しながら言う。それは今までのような笑顔ではない。恐怖を押し殺す為の偽りの笑いだ。そうだ。嘘つきめ。みんな嘘つきなんだ。俺だけじゃない。
「や、やだなぁ、冗談ばっかり!ビッグタイトルと言えば大半は王国送りか行方不明でしょ?今も生きてる人なんて、もうマリオさんくらいしか…」
「マリオじゃない、オリジナル・マリオだよ。俺らの知ってるあのイカれた亀狩りマニアは、もう"赤い服のイタリア人"と呼ばれた英雄じゃないんだよ。オリジナル・マリオは死んだ。俺らが知ってるのは、偉大だったオリジナル・マリオの残骸さ」
「………」
「現に、既に"亀"は動き出してるらしい…。ニュース見てるか?二級裁判官のイトイとか言うおっさんが市庁舎から消えた。奴の仕業だ。考えてもみろ。あれだけ厳重な市庁舎から、要人が一人、誰にも気づかれずに消えたんだぞ?」
「あ、あああ、あの、僕、やっぱり、帰ります。まだ、し、仕事が…」
 吉井が後ろを向いて走り出そうとした。しかし、ルイージはそれを予測していたのか、吉井の背中を思い切り蹴り飛ばした。
「びょっ、びっ」
 カエルが潰れるような声を出して、吉井がアスファルトの上に突っ伏した。
「…なぁ、吉井。よぉく考えてみろよ?お前の会社だってこのシティの成立には関わってんだぜ?先の大戦でここがサンフランシスコとか呼ばれてた頃から、お前らMOTHERはイロイロやってたんだろ?ビッグタイトルがもし捕まって中央で証言でもしてみろ。例のワシントンの放棄宣言の事まで遡られたらお前らだってタダじゃすまねぇぜ?」
 ルイージの声はだんだんと楽しげな響きを帯びて来た。怯える吉井の顔を見るのは楽しい。いや、怯える顔を見るのが、自分が圧倒的で有利な立場に立っている事を確認するのが楽しいのだ。
「ぼぼぼ、僕の会社は…なにも…」
 そうだ。そうだ!もっと、もっと怯えろ。俺を見上げろ。
「関係無いってかぁ?そうだよなぁ。全部ビッグタイトルの仕業だもんなぁ。まさか、MOTHERが裏で手引きしてたなんて、あるわけないよなぁ?」
 俺が優勢なんだ。分かるよな?
「う、うう…」
 でも俺は優しい上に奥ゆかしい男だ。それを言わないでいるところが、俺という男の美徳なんだ。分かるよな?
「吉井…悪い事は言わねぇ。協力しろって。な?俺達友達だろ?」
 俺がカモる側。お前はカモられる側。これって友達だよな?
「じゃねぇと…もうお前に女房と娘を届けてやれなくなっちまうんだよなぁ」
 顔色が変わりやがった。愉快だ。変態野郎め。だが友達だ。トモダチ。な?
「そそ、そんなぁ!もう、妻と娘はニオイもキツクなって来てるんです!そろそろ、新しいのに取り替えないと…」
 ああ、イイ顔だ。やべ、勃ってきやがった。
「………だったら、協力してくれよ、な?お前と、お前の会社の為にもなるんだぜ?」
 うっ。出そうだ。殺すなんて勿体ない。こうして怯える顔がサイコーなんだ。金?ああ、そうか。金もいるんだったな。
「ル、ルイージ君…き、君、は一体何をしようと言うんです!?」
 ああ、あああああ、おぉ、うっ、ああ、がっ、ああああ。ぁぁ。
「大統領に…交代してもらうんだよ…。分かるか?ベイビー」
 マリオにゃ分かんねぇだろうな。俺の、この、高尚な趣味が。
 ルイージは吉井の顔に向けて、大量に射精した。


2005年08月02日
04:49
26:遊帝(あそびてぇ)
 でかい。とにかく桁外れに大きい。それが病院を見たサムスの最初の感想だった。
 マケドニア中央病院は、聖なる炎教団が運営する総合病院だ。国教に指定されている教団が運営する以上、国からは莫大な助成金が出るはずだ。しかし、この病院の巨大さはサムスの想像を遥かに超えていた。
 サムスもジャーナリストという職業柄、色々なものを見てきたつもりだ。
 しかし、この病院は今まで見てきたどの病院とも違う。中央の病院もかなり大きいと聞くが、ここと同じくらい大きいのだろうか。最も、厳重な入国管理が施されている中央に自分が行く事など、生きている間にはあり得ないだろうが。
「…ここにあの男がいるはず…。伝説の一人"鉄槌"が…」
 ビッグタイトルと呼ばれる男達の中で、現在でも生存が確認されているのは、赤い服のイタリア人だけだ。ビッグタイトルを率いてアメリカ合衆国からニンテンドーシティを奪い取った、独立の英雄。指導力に富む生まれついての指導者。彼が一声かけるだけで、数万の兵士が喜んで命を投げ出したと言われる。噂ではプライマル・ヒューマンだという説もある程だ。
 しかしマリオは事故によって脳を損傷、現在は中央の病棟で意識不明の重態。早い話が植物人間だ。
 子供の頃からサムスはビッグタイトル達に激しく惹かれていた。
 男の子のような名前をつけられたせいか、昔から普通の女の子が興味を持つものには全く興味を示さなかった。むしろロボットや格闘ゲーム、銃器などが子供の頃のサムスの世界の全てだった。そんなサムスにとって、中央に支配された閉塞した現実世界を改革したビッグタイトルはまさに英雄そのものだった。しかも、アニメやゲームの中ではない、紛れも無く実在し、しかも自分と同じ世界で生きているのだ。今でも、尊敬する人はと聞かれればビッグタイトルと答えるだろう。
 ビッグタイトルの伝記を書こうとしたのは、サムスにとってはごく自然な成り行きだった。
 しかし、取材は前途多難だった。中央にとってビッグタイトルの名は汚点そのものだ。絶対的支配力を保持する中央の一角に風穴が空いたのだ。指名手配こそしていないものの、ビッグタイトルの情報は激しく規制されている。誰もが貝のように固く口を閉ざし、取材に応じようとしない。そうでなくても、現実問題としてビッグタイトル達の消息を知る者は少ないのだ。
 取材は絶望的かと思われた。そんな時、マリオの弟を名乗る胡散臭い男からメールが届いた。この病院に、伝説の一人がいる、と。
 憧れているだけで、会う事は叶わないと思われた英雄が、ここにいるかもしれない。会う事が出来るかもしれない。
 メールを信用したわけではないが、どうせ他にアテが無いのだ。試してみるのも悪くはないだろう。
 サムスは病院の中に足を踏み入れた。
 それが彼女の運命を大きく変えるとも知らずに。


2005年08月07日
07:06
27:JKとF5
 その居住区の一角は『レッドスター軍』の私有地だった。
 レッドスター軍は貧民の出身者と、それを支援する特別な人間達によって構成されるテロリスト集団である。数世紀前には、大陸北部から完全に駆逐されたとされていた“共産主義”という思想に基づいて結束されている。だが、その“共産主義”というものが如何なるものであるか、彼らも、彼らを駆逐する者達も、知らなかった。

 ライトアップされた東欧風の館と、その周辺の1ブロックを食い潰した庭は、この街で“正当な”商売を営んで得られた報酬によるものだ。そこを巡回する私設警備員も、その武器も。
その日、見回りの一団を率いるジョンが最初に発見したのは、覚醒剤のやりとりをしている2人の男だった。
 どうやらチンピラらしいが、薬と金のやりとりでもめているらしい。だとすれば、間抜けな味方である可能性がある。
(組織の下っ端か?しかし、ここで商売をするなと言われているはずだが…)
 間抜けな警備兵、間抜けな上司、間抜けな売人…ジョンは組織の自分以外の人間を、密かに「間抜け」と呼んでいた。それに深い意味も、きっかけも無かったが、それはジョンにとって合理的な結論だった。優秀な人材は、もう組織を出たか、信念の元で散っていったか、とにかくそうに決まっていた。ジョンはなぜか本能的に、自分を勘定に入れていなかった。
 ジョンは部下達に銃を構えさせ、彼らに近づいた。
「何をしている。ここは私有地だ」
 ジョンの声に、大柄な方のチンピラが振り返った。
「ああ、すまねぇ。ここじゃ、ボスに迷惑がかかるな。でもよ、こいつがゴネやがって」
 そう言いながら、細面の方のチンピラをアゴで指す。
「おいおい、ケチつけてんのは、そっちだぜ。足元見てんのか?なぁ、アンタもそう思うだろ?」
 ジョンは溜息をついた。
「…この間抜けが。何でこのブロックでやってやがる。警告ナシに射殺しても、俺はよかったんだぞ?いいか下っ端、ここはな」
 その時、闇に紛れた何者かが、ジョンの背後で彼の手下を眠らせた。
「何だ!?」
 部下の1人が、その何者かに銃を向けたが、そいつが気を失った男を盾にしたため、一瞬の膠着状態が生まれた。
「おっと」
 次の瞬間、残りの3人が倒れた。細面のチンピラが宙を舞い、静かで重い蹴りを放ったのだ。その動きは、ジョンには見えなかった。
「な…!?」
 大柄なチンピラが、いつの間にか、すぐ近くにいた。彼はジョンの銃を掴み、そのまま握りつぶした。
「ネンネしな、間抜け野郎」
 そしてそのまま拳でジョンのアゴを殴りつけた。
 ジョンは意識を失った。

「どこから金が来てるか、現場には教えてくれないんだね。教えてくれたら、今度フリーになった時の参考になるのに」
 気を失った男を引きずって、レミーが冗談めかして言った。
『知らないのかい?その筋では有名な噂なんだけど、実は…』
「イギー、後にしてくれ。滞りなく行きたい」
 物陰で消音機付きのオートマチックを(非常に不本意そうに)構えていたルドウィッグは呟いた。腰のベルトには、リボルバーが2丁、今かと出番を待っている。
「いいスリーパーだった、レミー。しかし、お前ら…奴らが警告なしに撃ってきたら、どうしたんだ?」
「大丈夫。オレサマは弾丸より早い。いいからアンタも着替えろよ、恥ずかしがらずに」
 ニヤニヤと笑いながら、倒した見張りの服に着替えるラリーを、ルドウィッグは冷たい目で見ていた。
 ロイは握りつぶした拳銃をゴミ箱に放り込むと、館を見上げた。
(小さすぎるぜ)
 見回りが消えた事に誰も気づいていない館は、どことなくカービィ署長を思わせる風貌だった。
(こんな小さい仕事のために、俺達を…?)
 この時ロイの胸に、暗い何かが浮かんでいた。悪い予感がしていた。

 そこから1ブロック離れた地点に、ミラーグラスのバンが止まっていた。
『手筈通りだ、ウェンディー。MAPを送ってくれ』
 通信機の向こうで、ルドウィッグが言った。
『ウェンディー…うん、いい響きだ。ウェンディー。やっぱムサ苦しいクッパの野郎より、アンタが指揮官だと思った方が、甲斐があるぜ』
 これはラリーだ。
『MAPを送ったわ…けど、みんな相変わらずね…』
 荷台の真ん中に置かれたコンピューターが答えた。コンピューターには入力に必要な機器が、ほとんど繋がれていない。向こう側から、ほぼ一方的に情報を送る為のものだ。
「ああ、相変わらずさ、ウェンディー」
 イギーは呟いた。
(君と違って、みんなは相変わらずさ、ウェンディー)
 イギーはコンピューターを見つめた。
ウェンディーが連邦に行ったと聞いた時は、誰もが驚いた。そして納得し、祝福した。イギーは喜びと、少しの嫉妬を感じた。
ウェンディーは優秀なタクティクス・アドバイザーだった。チームの凍結後は、その腕を買われて、新しいIDで連邦のレンタコップとなったと言う。その地位、その報酬は、相当なものだろう。そして、言わば“出世”をしたのは、ウェンディーただ一人だった。
 そして今は『例外的な出向』と称して、クッパの代わりにチームの指揮をとっている。
(みんな相変わらずさ、ウェンディー。僕だって。でも、君は随分、遠くへ行ってしまったんだね)
 イギーはコンピューターを見つめ、コーヒーを舐めた。
『こちら砲撃主』
 急に無線が、もう一つのチャンネルから話しかけた。
「今はスナイパーだよ、モートン…君の砲撃モードは予算を食うからね…」
『失礼しました、巡査部長殿。こちらスナイパー。たいへん暇であります。ぶっ放して、よろしいですか?』
『だめよ、モートン。前線の要請があるまでは、見張りに徹しなさい』
『了解しました。ところで自分の下半身はほとんど生身であります、ウェンディー警部。任務終了後、一発やらしていただいても?』
『無理よ、モートン。そこにあるのは、ただのコンピューターよ』
 ウェンディーが笑いながら言った。前線の4人の笑い声も、無線に混じった。
 イギーだけは笑わなかった。彼はウェンディーの笑い声に、何か違和感を感じた。
 イギーもまた、何か嫌な予感がしていた。


2005年08月08日
03:53
28:JKとF5
「金儲けとセックスは大人にしかできない?は!嘘だね」
 ジャックイン状態の少女の膣から男性器を抜くと、少年は帽子を被り直しコーラの缶に手を伸ばした。
「もう少し遊んでみるか」
 少年が少女の脳に繋がったデスクトップに触れると、彼女は絶頂を感じたように体を痙攣させた。
 少女はコスメティック手術によって、動物の耳と尻尾を与えられていた。神経はリンクされており、その尾も耳も、内外からの刺激に反応して振るえた。少女は衣服の代わりに、リボンを与えられていた。少年のお気に入りの、ひどく長い、黄色と黒に彩られたリボンだ。それを裸体の上に巻きつけられていた。それは少女の目を覆い、首に巻きつき、胸の形を歪め、若々しい性器を露出させたまま大腿、そして足首へへ至っていた。
 その隙間から浮き出た、柔らかな肌と肉と、いくつかの戦闘用サイバーウェアが、奇妙な美しさを滲ませていた。
 その姿を見下ろしながら、少年は満足気に笑った。
 他の誰よりも早くノルマを終えた少年は、趣味に時間を割く事にした。
 コネクターをこめかみに向ける。金属が頭に突き刺さる感触が、心地良い。数秒の後、肉体が電流になる感覚が、頭蓋骨のすぐ内側、眼球の裏、鼻の奥、首から下の全てがなくなり、そして、少年はその電流を支配する。
 少年は、デスクトップを通じて、少女の脳にジャックインした。
 少年はグリッドと数字の世界へダイブした。
『…異常はないな。さすが俺の作品だぜ!ちょっとイジって、使える単語を増やすか?…いや、いらないな』
 少年は、先程の少女…少女の分身が空間の片隅に立っているのを見ると、そちらへ進んだ。
 この世界で少女の分身は、奇妙な動物だった。彼女に施されたサイバー手術と、その肉体を縛り、艶やかに飾るリボンが肉体に溶け込んで、新しい生物に生まれ変わった姿を表現していた。それは鮮烈な黄色に黒い縞を持った、リスのような姿だった。
『いい子にしていたな。よし。それじゃあ少し、俺を楽しませるんだ』
 少年は、そのアイコンの腹部に、顔をうずめた。

 日本企業や日系人科学者による発明品は、この街でも数多く用いられている。
『ポケットモンスター』…通称“ポケモン”も(日系人達の使う略称は、この街の人間にとっては理解しがたいものだが)その一つだ。最初に作られたポケモンは、コンピューター内に擬似的な人格を作り出し、ペットにするためのツールだった。それは日系人達の間で爆発的な人気を挙げ、そこから町中に広がった。
 その頃はまだ、ポケモンは興味深い遊具であった。
 ある日、日系人科学者・オーキドが逮捕された。
 彼の研究所からは、監禁された十数人の少年少女と、三十人を超える子供の遺体が発見された。どれも皆、肉体の一部を動物や架空の生き物に見立てたコスメティック手術を受けていた。やがて、生存していた子供達を調べるうち、ある事実が判明した。子供達はコンピューターのジャックコネクティングを通じて、ポケモンを脳と脳内ウェアにプログラムされていた。彼らの元の人格はほとんど失われ、ポケモンとしてオーキドに奉仕していたのだ。
「私はレオナルドダビンチの転生体だ。これは科学であり芸術だ」として、オーキドは記者に語った。
「人間の脳もまた、少々複雑なコンピューターに過ぎない事が証明された。以降1世紀は覆される事は無いだろう」
彼はカメラに微笑んだ。
「だが人類諸君、悲観する事は無い。これは新しい芸術の始まりであり、神の理性に基づいた真理の1つなのだ」
 その後、彼がどうなったのか知る者はいない。

 少年はバーチャル空間でオーキドと知り合っていた。オーキドを友人だと認識した事は無かったが、彼の技術と発明には、興味を抱いていた。
 彼は少年にとって“利用できる大人”の、比較的上位に位置する人物だった。
 少年はコンピューターに関する、あらゆる理論と技術を、オーキドから盗んだ。
 少年がそれらを技術的・学問的に理解している事に、やがてオーキドは気付き、驚愕し、そして自ら少年に己の技術の全てを伝え、ある日いなくなった。
 他にも何人かの技術者が、この裏のポケモン技術を解明し、或いは伝えられていたようだ…このポケモン技術は『ポケモン・ブリーディング』と名付けられ、そのためのブレインハックソフト全般は『モンスターボール』と呼ばれるようになった。それらは瞬く間にアンダーグラウンドに広まった。
 少年は彼らを嘲笑った。
「お前らは、ザコだよ。ハッキリ言ってね」
 その頃、少年は学校に行かなくなった。すぐに家にも帰らなくなった。
 少年には自信があった。才能もあったし、それを開花させ、発展させる努力も惜しまなかった。
 すぐに少年はアンダーグラウンドのバーチャルウェブで、その実力を示した。
 まずはライバルだったシゲルという男を、ブレインハックで葬った。実際に死んだのかは、その頃の少年の愛機では実感できなかったが、少なくともシゲルのテリトリーの全てを、彼は手中に収めた。
 地盤が整うと、少年はポケモンのゲットと育成に着手した。
ウェブ上の敵を次々と打ち破り、その脳に信号を送り、ポケモンへと変えていった。
 だが敵を打ち倒す事は出来ても、その後のポケモンブリードは満足のいく結果を生まなかった。ある者は、すぐに死んだようだし、またある者は、少年が意図したのとは違うキャラクターとなって、どこかへ消えて行った。
「くそ…!俺は天才じゃなかったのか?」
 少年は悔しかった。
 そんな時、ポケモンに詳しい人物とウェブで知り合った。ハンドルは「ピカチュウ」と言った。やがて2人は、互いのハッキングテクとポケモンブリードテクを交換し合い、高めあった。少年は大人が嫌いであり、あのセックスとドラッグで知性を失っていくだけの動物を軽蔑すらしていた。だが、どうやらピカチュウは子供だった。もしかしたら少年より年下かも知れなかった。証拠など無かったし、そんな物を収集する気にもならなかった…ただ、勘と経験則で充分に確証を得られた。
 たが2人が親密になるにつれ、しばしば意見の対立と不和が生まれるようになった。それらは主に「バーチャルウェブ倫理」と言うべきジャンルでの衝突であった。
『だめだよ…お金のハッキングは、お金持ちから少しずつ取るだけにしないと…』
「貧乏人から盗るのはカワイソウだって?は!ただの馬鹿から盗って、何が悪いんだ?」
 ピカチュウはまた、ブレインハックにも道徳性を求めた。自衛の為の他に、それを用いるべきでない事を述べた。
「つまらない童話だね。俺は大人が嫌いだったけど、ガキもウザイって、よくわかったよ」
 それから2人は、しばらく合わなかった。
 しばらくして、少年は地下の依頼で、あるハッカーを消した。マザーコーポレーションが、少年の才能を聞きつけ、実験的に依頼した仕事だった。
「ここで上手くやれば、金も地位も手に入る…あの馬鹿な大人どもを、アゴで使う事だって出来るさ」
 仕事は上手くいった。敵が思いの他、弱い抵抗を見せたので、一気に付け込んでやったのだ。ポケモン化された敵は、沈黙した。だが少年は、攻撃の手を休めなかった。
「俺の力を企業にアピールするチャンスだぜ。徹底的にやってやる」
 少年はモンスターボールを流し続けた。これだけ流せば、きっと相手はプログラム通りのキャラクターになっている。そうでなければ、廃人だ。
 充分な蹂躙の後、少年は易々と任務達成を報告した。

 少年は金と長期的契約を手に入れた。
「ストリートでの仲間や手下がいれば、好きなだけ連れて来てよい」…それはマザーからのオファーの一節だった。
 少年の頭に浮かんだのは、ただ1人だった。
「仲間か。ちょっと待ってくれ」
 少年はピカチュウを探した…もう仲直りしてもいい頃だ。自分達は、経済とセックスでしか他人と繋がりを持てない奴らとは違う…自分達は2人とも天才であり、特別な者であり、互いに認め合った者同士だ…そんな思いが、少年の中ではっきりと形になった。

 少年がピカチュウと名乗る少女(本名は未だに知らない)を発見した時、彼女はもう以前の彼女ではなかった。
 そこにいたのは、少年に徹底的に打ち負かされたポケモンだった。
 少女は、やはり少年より年下だった。少年より貧しく、少年と違って親がいなかった。デスクトップの傍らには、少女のアイコンのモデルとなった絵本が置かれていた。
 少年を見ると、少女はヘラヘラと卑猥な、魅力的な笑いを浮かべて呟いた。
「ぴ…ぴかちゅう…」
 少年のプログラムした通り、彼女は自分の名前しか話せず、常に性的快楽を感じたままで、小脳と神経は常人の限界を超えて加速されていた。
「俺だよ…サトシだよ…」
 少年が名乗ると、少女は少年に飛びついた。そして少年を押し倒し、犯した。処女幕を破りながら、少女は強制的に加速された神経で快楽を貪った。
 少年は、少女の首を絞めた。
 今はただ、初めての快楽と、その時の少女の恍惚とした顔しか覚えていない。

「所詮、お前と俺は違ったね…俺は支配する。お前は支配される。お前は結局、他の奴らと同じさ。俺にひれ伏す負け犬さ」
 ジャックアウトすると、サトシはピカチュウの頬を踏みつけて弄んだ。
「そうさ、俺はお前らと違う…お前ら全員を跪かせるさ…例え相手が」
 サトシは足の指でピカチュウの口腔を犯しながら、そこへコーラを垂れ流した。ピカチュウが喘いで悶えた。
「ネス社長でもな」


2005年08月09日
03:39
29:遊帝(あそびてぇ)
「へっへっへ、姉ちゃん、静かにしな。どうせ誰も来やしねぇ。なんたって、ここは精神病棟だからなあ。な?オグマ」
「そうともナバール。俺達教団直営の守衛様がいるんだ。誰も近よりゃしねぇって」
「あ…あんた達…!」
 サムスは病院に入るなり大ピンチに陥っていた。
 精神病棟に足を踏み入れるなり"いかにも"な感じな男達に目をつけられたのだ。悪いことに、この男達は確かに守衛のカードを胸につけているし、教団の洗礼を受けた印もクッキリと額にある。
 なんてドジ。教団の連中がまともでない事なんて子供で知っているっていうのに!
 男達がシーダとかいう麻薬中毒患者の女を裸にして遊んでいるところを見てしまい、助けようとしたのが運の尽きだ。サムスはてっきり精神病の患者に乱暴をしようとする不埒な浮浪者が入り込んだものだとばかり思い、大声で守衛を呼んだのだ。まさか、この汚い男達が守衛だとは思いもしなかった。しかもシーダとかいう女は毎回のように体を売って看守から麻薬を入手しているらしい。サムスは全くのマヌケだという事だ。
 サムスは手を伸ばす。押し倒された時に落としたハンドバッグに護身用の拳銃が入っているのだ。頭のイカレたシャブ漬け野郎も、額に風穴を開けてやれば…。
「おっと」
 オグマと呼ばれたほうのゴロツキがサムスの手を掴んだ。「妙な真似すんなよ?俺達は外区で放射能浴びてフツーの人間じゃねーんだぜ。毎日6回は犯らねーとムスコがイタイ、イタイって泣くんだよ」
「おいおい、イタイじゃなくってイレタイの間違いだろ?」
 ナバールとかいうゴロツキの下品な冗談で二人は馬鹿笑いをした。
「………あー………」
 すぐ隣の病室では女の患者が焦点の合わない目で虚空を見上げ、ヨダレを垂らしながら壁にもたれている。先ほどまで大声でクスリを要求していたが、ゴロツキ二人に薬物を大量に投与され、すっかり落ち着いたようだ。
「ん?シーダ様が気になるのか?確かに、ちょっとヤリ過ぎたかもな。クスリもセックスもな。ありゃもう使いもんにならねぇかも。なんたって、大司教様直々に賜ったチョーキョーリョクなモルヒネだからな。痛みも何もブッ飛んじまう」
「心配すんな、ネーちゃん。おめぇもすぐああなるって。あのシーダ様も、最初はタダの見舞い客だったんだがな。俺らが患者用の特別指導室に閉じ込めて神の教えをたっぷりと教えてやったら自分からケツ振ってヤクを要求して来やがった。今はこの世の全ての苦痛から開放されてシヤワセってやつ?なぁナバール」
「そうよオグマ。俺らの下半身の処理もこなしてくれて、まさにシーダ"様"って感じだぜ。神に感っ謝!」
 二人は再びゲラゲラと下卑た笑いを漏らした。
「…あ、あんたら、そうやってただの通行人も…。なるほど、ここの病院がイカレてるって噂は本当だったわけね…」
 サムスは精一杯の時間稼ぎを試みた。
「そうそう。俺らはマトモじゃねーよ?なんたって、中央が認める国際的宗教、聖なる炎教団の信者だからなぁ、オグマ?」
「そうともナバール。ここには毎日のように教団に逆らう邪教徒や、枢機卿様に逆らうクソッタレが運ばれてくるのさ。俺らはそいつらに毎日神の教えを説くってわけさ。たまーに激しく教えすぎて死んじまう奴とかいるけどな。患者が足りないときはネーちゃんが言うように時々俺らが出張して患者を調達する事もあるぜぇ」
「…ふぅん、それで、私にもその、ありがたい教えってのを教えてくれるわけ?」
 出来るだけ挑戦的な目で相手を見る。本当は震えが止まらない。泣き出してしまいそうだ。しかしここで涙を見せれば連中はもっとたくさんの涙と悲鳴を求めて行為をエスカレートさせる。
「ふひゃひゃひゃ!イイ!イイねぇ!その目!ワンワン泣き喚くシーダ様も良かったが、そーゆー目もイイ!スゲー興奮するぜぇ!な、ナバール?」
「おうよオグマ。実は俺、ネーちゃんの気の強ぇ表情見てて一回出ちまったぜ。うひゃひゃひゃ」
 助けは来ない。でも泣きたくない。こんな奴らの前で。
「いつまでそんな顔してられるかなー、俺、楽しみだよオグマ。なぁ、このままネーちゃんに一発撃っちまうか?」
「それいいねぇ、ナバール。反抗的な患者…あれ、信者だっけ?どっちでもいいか。とにかく逆らう奴にはオクスリ撃つもんだよな」
 …!
 サムスの友人の中には誘拐されて強姦、麻薬漬けにされた者もいた。今までの取材でも、麻薬に苦しむ人たちを見てきた。誰もが例外なく薬物という悪夢に苦しみ、耐え切れず自殺した者も少なくない。なんとか立ち直ったとしても、時折襲い来るトラウマと、フラッシュバックが彼女達を休む間もなく苦しめ続ける。
 薬物の恐怖を身近な人間の例で見て来たサムスにとって、それはレイプよりも遥かに恐ろしく、現実的だった。生々しく、足音を立てて迫るようなその恐怖は、サムスの痩せこけた意地をヘシ折ってしまうには十分すぎた。
「…い………」
 涙が溢れた。嗚咽が漏れる。泣いちゃダメ。でももう我慢できない。狂ってしまいそうだ。クスリが。恐怖。イヤ。針の中ニ。粉。いヤダ。白い。ヤメて。狂気の。タすケテ。怖い。ダレカ。涙。アア。男のモノ。ドウシテ。そういえばビッグタイトルは。ドウカ。何しに来たんだっけ。ユルシテ。会えないのかな。カミサマ。

 −−−−−

 あれ。
 オグマが寝ている。ナバールも。自分の上に覆いかぶさり、そのまま眠っている。いや、気絶しているのか。
 涙でぼやけた視界の中に、自分を見下ろす男。オグマでも、ナバールでもない。三人目の男。
 髭、禿げ上がった頭。逞しい体。茶色のツナギ。
「………何をしている。若い娘さんが、こんな所に来るもんじゃない」
 オリジナル・マリオが最も信頼したという相棒。
 "鉄槌"と呼ばれた男が、伝説の一人が、ブラッキーがそこに立っていた。


2005年08月09日
06:54
30:JKとF5
 ニンテンドー・ライブラリー バックナンバー52899LX
[オーキド博士の独白]

「新しい法則の発見・技術の発達は、常に我々の宗教的基盤を脅かし続けて来た。しかし恐れる事はないのです。我々人類は地球が丸いと知ってもなお、聖書に手を置く事が許された種族なのです」

「宗教絵画は、人類に唯一許されたバベルの塔の切れ端です。システィーナ大聖堂の『天地創造』『最後の審判』以来、我々は宗教絵画として崇高なものを目にしないまま、幾世紀もが経過しました。そしてポケモンこそが現代に蘇った人間界と神界とを繋ぐ、空間の架け橋であり、より上位の表現の出発点なのです」

「これは霊的な真理です。我々が既に“神と霊の表現”を許されている事は、先ほど述べた事実から自明です。では、それらの偶像が許される根拠は如何なるものなのか?我々は一度、ローマへ立ち返る必要があります。そこは地の国であり、先人達が残した英知の世界であり、それ自体が1つの預言と理論なのです。これらはかつて“海の民”と呼ばれる民族が通過しようと試み、挫折した階段でもあります」

「さて、私の研究するこれらの技術は、人の脳もまた少々複雑なコンピューターにすぎない事を立証しました。多くの研究者が目を背けている事ですが、本来的にサイバーウェアは火星と冥王星、或いは、火星と水星に属すると解釈されます。これらはけして二律背反する理論ではなく、それぞれが土星の加護を媒体とすると仮定すれば、自ずと両立し、共生するのです」

「一方の人体は、部位によって所属する天体が違います。一般的に脳は天王星に属すると言われています。明示されていませんが、コンピューターも、また血液も、其々が互いに独立して天王星に属するものです。これらは偶然の一致でしょうか?いいえ、違います。黄道と組み合わせる事で、私は新しい発見をしました。それらは乙女座によって結ばれるのです」

「人間の脳へのポケモンプログラムによる影響は、無機物へのそれと比べると、当然、違いが現れます。それはヒエラルキーに大きく依存してると考えるのが自然です。つまり人類よりも上位の霊や天使に同様の処置を施したと仮定すると、元人格とポケモンのより有機的な融合が見られるはずなのです。そしてそれは実際、5千年以上前にナイル川上流で行われていたのです」

「このようにポケモン技術の実践的な研究、言わば“ポケモンマスター”への道は、何ら霊的道徳性に背く行為でなく、法的な保護と、個人の自由の保障の下にイノセントなのです。良識ある陪審員の皆さん、検察側に少しでも合理的疑問を感じるならば、私の無罪を認めて下さる様にお願いします」

[初公判にて]


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