暑い夏の日だった。
当時中隊を率いていた俺は、レディとか言う現地の淫売を買った。
民間ゲリラが闊歩する紛争地帯ではよくあるように、その女もやはり敵のスパイだった。それは知っていた。現地の売春婦の大半が共産ゲリラと通じていた。
奴らは金よりも弾薬や燃料、武器を欲しがる。そして、その武器を使う。俺達が持ち込んで来た武器が俺達に向かって火を噴くのだ。アカどもにとって、それはたまらなく愉快な冗談なのだろう。
だから俺は部下に回春を推奨した。そして、信管を早めた手榴弾や、銃口に鉛を詰めた小銃をバラまいてやった。
錬度の低いゲリラどもは、まんまとこの手にひっかかった。手榴弾は投げる前に手元で爆発し、小銃は暴発し、対戦車地雷は不発を繰り返した。
俺達の持ち込んだ武器は、ゲリラ達を正しく掃討したのだ。
だが、全ては例の二人組のせいで全てが台無しになった。
あの赤い奴ら…。
『…おい、お前サルとか言われてるんだってなぁ。…でもカメだ。次はカメなんだ。後数年すりゃ、ゴリラよりカメが敵になる。そうだろう、サル』
あいつだ。まずあのデブがワケの分からない事をほざき出したんだ。
その間に、もう一人の赤い奴、いや、奴は茶色だったか。とにかく、もう一人のあいつが基地の要所を壊してやがった。デブは囮だったんだ。
そして、俺がデブに気を取られているうちに、奴は俺の背後に忍び寄っていた。兵士の中の誰一人として気づかれる事なく。
『チェックメイトだ。サル』
奴はそう言ったんだ。デブとは違って、鍛え上げれら他精悍な印象。
ちくしょう。なんてザマだ。この俺が。国でも随一の特殊部隊として高度な訓練を積んできた、この俺が。
最強の、兵士とまで、呼ばれた、こ・の・オ・レ・ガ。
このトンマ。ノロマ。マヌケ。ちくしょう。俺はなんてドジだ。ロバ野郎め。今まで順調に歩いて来た出世コースも、この失態で全部パァだ。
いあ、待て。冷静になれ。なんとかしてこの窮地を…駄目だ。デブはともかく、茶色は隙が全く無い。
ドンキー。ドンキー。
強いドンキー。ぼくらのドンキー。
ちくしょう、黙れよ。誰だ。誰が歌ってやがるんだ?
…デブだ。あのデブが、ユサユサと醜く体を揺らしながらブツブツ歌ってやがる。ちくしょう、誰がドンキーだ。殺してやる。ああ、でも茶色が邪魔だ。どうもできねぇ。やっぱり俺はドンキー(マヌケ)なのか。いや違う。いやドンキー(トンマ)だ。ちくしょう。黙れよ。デブだけじゃない。そこら中が俺をあざ笑ってやがる。床も、壁も、空気も。なにもかもが俺を指差している。笑ってやがる。黙れ。黙れ。みんな黙れ。俺をドンキーって呼ぶな。
『ここは俺達の国だ。外国人に支配させはしない。帰れ。…お前にも家族はいるんだろう』
その時デブが何かのスイッチを押す音が聞こえた。
『…!おい、マリオ!何をしている!俺達の仕事は…』
『ああ…そうだともブラッキー。敵は全部殺すべきだ…。次の敵はカメだからなぁ…ふぅへへっへ』
じょびじょびじょび。デブが小便を漏らしながらそう言った。
臭い匂いが広がると同時に、壁や天井が崩れだした。ああ、爆音まで俺をドンキー呼ばわりするのか。床が抜けた。体が落ちる。ちくしょう。重力め。重力まで俺をドンキーって言うのか。くそ、なんて硬い床だ。頭が痛ぇ。体が動かねぇ。床め、クソ、お前もドンキーか。歌うな。見るな。殺してやる。体が動かねぇ。呪われちまえ。クソッタレ。イエス様、てめぇもドンキーか。死んじまえ。みんな殺してやる。
ドンキー。ドンキー。
強いドンキー。ぼくらのドンキー。
俺を、ドンキーって呼ぶな。
「………………ぶな」
食後のコーヒーカップを持つ手が震えている。
ウェイターは、ドウキが何を言ったのかよく聞き取れなかった。
「………俺を…………………ドンキーって呼ぶなぁあああああ!」
凄まじいい怒声。目は血走り、顔面は蒼白。どう考えても尋常な状態ではない。
「お、お客様!ど、どうなされました!?」
「…コーヒーがぁ!黒い泥水の分際でぇ!俺をドンキーと呼びやがった!俺はドウキ中将さまだぞ!?クソ!クソ!苦いだけじゃなくて俺をバカにしやがるのか!?何様のつもりだ!」
ドウキはコーヒーカップを床に叩きつけた。
「お、お客様!ど、どうか落ち着いて…」
「…お前もかぁ!?給仕の分際で!俺を!この俺を!ドンキーだと!?マヌケだと!?茶色め!デブの赤!共産圏のケツの穴!俺を、ドンキーって呼ぶな!!」
ウェイターは重いストレートの直撃を喰らい、その場で昏倒した。
ディディーは離れたところからその光景を冷めた目で見ていた。片腕で、ヤクにラリったウェイトレスの尻をもみながら。
「ひゃっひゃっひゃっ!また始まったな、発作が。悪いクセだ。全く。あのウェイター、可愛そうに新人だな。あ、近くの客が捕まった。助からねぇな。へへ、こりゃあ傑作だ」
「ねぇねぇ、あのサルみたいなぁ、ゴリラみたいな人ってぇ何?クスリキレたのぉ?」
ドウキは上半身裸になり、目につく物を手当たり次第に壊している。その怪力は人間のものではなかった。強化手術による鋼化筋肉だ。何人もの敵兵の首をへし追って来た腕だ。今、その腕は哀れな客に向けて振るわれようとしている。
「ああ、ありゃこの街のおエライ中将さまさ。全身メタルの埋まった、歩く殺人鉄屑集団の頂点に立つ、最高の鉄クズ様だ。数年前からあのザマだ。なんでも奴の頭ん中にゃ、奴を讃えるステキな賛美歌が聞こえるんだと。任務で失敗した時首の骨を折って全身がサイバーになってかららしい。まぁ、元々まともな御仁じゃなかったらしいがな」
「ふーん。ねぇねぇ、それよりどっか行こうよぉ。あんたイイクスリくれたから、サービスするよぉ」
ドンキー。ドンキー。
強いドンキー。ぼくらのドンキー。
ブラッキー。マリオ。
俺の頭に忌々しい歌を刻みつけたあの二人。忘れねぇ。
2005年07月14日
03:53
12:遊帝(あそびてぇ)
ぽたり。
頬にあたる水滴。雨か?
いや違う。雨はこんなにも臭くない。放射能に汚染され、酸性雨というよりは酸そのものとなった雨でさえ、ここまでヒドイ匂いはしない。
一人の男が夜空を見上げ、指差して言う。あれはなんだ、と。
月に浮かぶ影。
マントのようにたっぷりとした布地をはためかせた、男の影。その影を追うようにして落ちてくる水滴。
広がるざわめき。
ストリートに広がる不安。
悪夢の予感。
「マ、マリオだー!」
誰かが叫んだ。
ざわめきは悲鳴に変わる。
ある者は顔おおい、ある者は恐怖に身をすくめ、ある者は悪態をつき、またある者は嘆き哀しみながら神に祈る。いもしない神に。
マリオ。その言葉が、ストリートの恐怖を現実にする。
来ないでくれ。
ここに降りて来ないでくれ。
もっと、もっと遠くへ。
ストリートの心は一つになった。恐怖というキーワードで。皆が同じ事を願った。身の安全を。悪夢の退去を。明日の朝日を。
そして、その願いは踏み躙られる。
降下してくる影。
月影をバックに、影が大きく迫る。更に激しく落ちる水滴。
ジーザス。
神に祈る。誰もが。今まで一度も信じた事のない者までも。
いもしない神に。
マリオは真っ赤に染まったストリートに一人立ち尽くす。
「あー……………」
夜風が濡れた股間に気持ち良い。飛んでいる時から吹いていた夜風が。
「カメが…みんな死んでる…。うひひひ」
数多くの死体は、様々な方法で殺されていた。「あー…1UPどころじゃねぇな…。気をつけねぇと…一回でGAMEOVERだな…悪ぃバグだ。…なぁ、あんたもそう思うだろう」
マリオは足元の若い女に話しかけた。女は腰から下が無かった。
「…そうなんだよなぁ。数字が管理できてねぇんだ…。俺のハードは昔のまんまだからなぁ。256までしか管理できねぇ…。ああ、いや、そうじゃない。255までだ。0も数字として数えるんだよ。困った事になぁ…」
マリオは女の死体に向かってうんうんとうなづいた。
にわかにストリートが騒がしくなる。
警官隊が到着したのだ。
「一体何が…っつ!あ、あいつは…!」
「マ、マリオじゃないか…!」
「レッドマッシュルーム…!赤い服のイタリア人…!あ、あいつが…」
警官隊に戦慄が走った。
この地域は彼らのように金で一時的に雇われるレンタ・コップが巡回する地域と、そうでない地域の二つに分かれる。前者は善良な、少なくとも税金を納めている市民が暮らす治安の良い管理区域。後者は犯罪者や後ろ暗い過去を持つ者達が俳諧する指定外区域だ。
指定外区域、通称外区は政府がどの区域にも指定していない、する事が出来ない場所の総称だ。居住区、生産区、工業区、統治区、そのどれにも該当しない。主に放射線などによって汚染された、人間が住む事が出来ないとされている地域を指す事が多い。
"中央"から放逐認定を受けた"放逐者"達はこの区域での居住、つまり人間として認められない生活のみ許可される。しかし、実際には都市の中に点在する無法地帯が放逐区域指定を受ける事も多い。
指定外区域ではレンタ・コップなどいるわけもないし、そもそも治安などという概念が無い。そこには"人間"がいない事になっているのだから。
そして、今この場所にレンタ・コップがいる。
「ほ、"放逐者"がなぜここまで…!」
「なんてこった。おそらく、外区じゃ満足できなくなってここまで…なんてこった」
「お、おい、逃げようぜ!どうせあいつは国の指定で逮捕できねぇんだ。早く逃げねぇと、奴は警官とそれ以外の区別なんか…」
ぐじゃり。
警官達はその言葉を最後まで聞く事はできなかった。
マリオが、女の死体の腕を掴み、そのまま警官隊に向かって投げつけたのだ。
粉々に砕けた女の死体と入り混じり、二つの死体は一つの塊となった。
「…ああ、でも、次のやつにアップグレードすれば、カメを投げられるんだぜぇ…。こんな風に」
マリオがニヤリと笑った。
警官隊の士気は完全に崩壊していた。悲鳴をあげ、発砲し、後ろを向いて走り出した。
「ああ………このステージは強ぇカメもいるのか………。よーし。クリアしちゃおうかなぁー………むへへへ」
マリオの口からボタボタとよだれが滴り落ちる。月の影に照らされた路面に、水滴が落ちる。
警官達は神に祈った。主よ。お助けください、と。
いもしない神に。
2005年07月15日
22:51
13:遊帝(あそびてぇ)
「おい、そいつぁマジな話なのか!?」
ピットは少年の胸倉を掴み、物凄い剣幕でまくしたてた。
「ほ、本当だって!昨日、リンクの家で、あいつの母親と親父が惨殺死体で発見されたんだ。で、現場から逃げるリンクの姿を見たって奴はいっぱいいるんだ」
少年は必死に声を絞り上げた。「俺達だって…信じられねぇよ…。まさか、リンクが…そんな…」
「…」
ピットはかぶりを振った。
街の不良少年達はいくつかのグループに分かれている。盗みを行って子供達だけで生活するグループ、ただ集まりあって互いに慰めあうグループ、そして、ピットが所属している"ウィング"のように絶えず喧嘩を繰り返してささやかな権力と支配欲を満たすグループ…。
そのいくつかは互いに対立しあい、小競り合いを繰り返していた。
リンクが所属していたグループは浮浪児の寄り集まりで、時折盗みを働く事もある。つまりこの街にはよくいるタイプの集団だった。
しかし、その中でリンクは色々な意味で他の子供達とは違っていた。
まず、両親がいる。どんなに歪んだ形であれ、家族が存在する事は子供達の中では圧倒的に少数だ。
第二に、ちゃんと学校に通っていたので読み書きが出来る。自分の名前が書けるというのは、それだけで子供達にとっては憧れの対象になる。
最後に、ナイフの扱いがやたらと上手い。当人いわくナイフなんて簡単に扱えるものだと言うが、明らかにリンクの刃物の扱いは他の子供達のそれとは違っていた。天性の才能というやつだろう。
リンクのグループは喧嘩や揉め事は極力避ける、いわゆる武闘派とは程遠いグループだ。年齢層が低い事も原因の一つだが、この街の不平等極まる警官隊に睨まれるのは非常に厄介な事だ。そうした荒事には強くないグループの中でリンクの能力は重宝されていた。他のグループとのイザコザに巻き込まれた時、自分達の背後にはリンクがいる、いざとなったらリンクがいる、こう思えるのは何より心強かった。
少なくとも、ピットからはリンクはそういう存在に見えた。
事実、リンクのナイフ技にはピット自身かなり手こずらされた。そう、ピットの所属する"ウイング"と、リンクのグループは良好とは言えない関係だ。面と向かって喧嘩をするわけではないが、つまらない事が原因で小競り合いを起こす程度には緊張する仲だ。その際、ピットはリンクのナイフ技を目のあたりにした。
ピットはボウガンを好んで使う。最初は銃が高くて手に入らなかったからやむなく使っただけだが、矢は銃弾以上に重く、大きなダメージを相手に与える。体から突き出た矢というのは相手に与える真理的な効果も大きい。なにより、音がしないのがいい。これで何人もマヌケなサツをケツから撃って、仲間を逃がして来た。
そのボウガンの矢を、リンクは目で追い、ナイフで叩き落としたのだ。ピットは自分の目を疑った。それは偶然かもしれない。だが、二発目を撃って確かめる事はできなかった。その前に警官達が来たからだ。どんなグループも、こういう状況ではお互い逃げる事が優先だ。
それから、ピットとリンクは時折グループ間の対立に巻き込まれ、時には対決し、時には共に協力して自分達より小さい子供達を逃がした。二人の関係は敵対するものではなく、かと言って友人と呼べる程気安いものではない、不思議な関係だった。だが、お互いを認めていたのは確かだ。少なくともピットはリンクを高く評価している。
いつしか、ピットはリンクのグループを尋ねては、リンクと話をするようになった。
「…おい、両親の死因は?遺体はどんな様子だったって?」
ピットはしばらく考え込むような素振りを見せていたが、唐突に切り出した。
「どんなって…。とにかくひでぇって話だよ。母親はでっかい獣に喰い殺されたみたいに腹わたが丸々なくなってたって…。親父のほうは、ナイフで一突きにされて即死、その後体中滅多刺しにされて、その後背中が一面グチャグチャに噛み千切られてたって…」
少年は思い出したくもない、という様子で目を背けながら言った。その光景を思い浮かべてしまったのだろう。「サツは…どっかの金持ちの家から大型の獣が逃げたんじゃねぇかって…」
「………」
その時、別の少年が転がり込むように二人の間に入ってきた。
「サ、サツだよ兄貴!"教会"の連中と一緒に…囲まれてる!」
2005年07月15日
23:02
14:遊帝(あそびてぇ)
「なぁ、本当にいいのか?だって、あんたは俺達とは…」
「うるせぇ!ガタガタ言わずにさっさと逃げろ!」
ピットはマンホールから顔だけ出している少年の言葉を遮った。何を言おうとしているのかは分かっている。『俺達とは違うグループだろう』そう言いたいのだ。
確かにその通りだ。違うグループの人間を逃がすために、わざわざ自分が囮になる事はない。ましてこんな絶望的な状況で。
浮浪児達には一つの不文律がある。
それは、大人の手によって子供が困っているなら、自然と力を合わせるというものだ。例えグループ同士で対立していたとしても関係ない。大人と権力という言葉は、最下層に追いやられた子供達にとって共通の敵なのだ。誰が言い出したわけでもなく、ただ自然とそうなっていた。そうしなければ生きていけなかったからだ。
だが今回のような状況は別だ。
自然回帰と慈善事業を謳う"教会"の行う保護政策、通称子供狩り。名目上は人間愛による児童の保護だ。しかし、それが嘘である事は誰もが知っている。
児童買春、チャイルドポルノ、強制労働、人体実験など、まさに人類愛に満ちたステキな待遇が待っている。そして大抵は薬物漬けになって不要になれば捨てられる。紙屑でも捨てるようにアッサリと、簡単に。
関わりのない子供がどんな境遇にいるとしても、心を痛める人間はこの街にはいない。いや、いたとしてもそいつはベッドの中で幼女の柔肌を味わいながら子供達の不幸を嘆くのだ。
そういえば、どこぞの高級料理店で食材になるなんて噂もある。多分本当だろう。
ともかく、教会が相手の場合は別なのだ。子供達にとって最も忌むべき存在であり、恐怖そのもの。教会は莫大な財力(ほとんど政治献金だ)によって私兵を雇い、最新鋭の装備で武装し、周到な作戦で子供達を追い詰める。
教会が相手の場合、子供達は冷静な判断力を失い、ただ逃げ惑う。不文律も吹き飛ぶ。教会に捕まったら終わりだ。誰もがその事をよく知っていた。そして、教会に狙われて逃げ延びる事ができた子供は100人に1人いるかどうかだ。
だから、ピットがその1人になる為に他の99人を見捨てたとしても誰も彼を責めはしないだろう。まして別のグループだ。ピットが命まで賭ける必要はない。彼一人が何かをして、皆が助かる保障もない。
それでも、ピットは他の者を逃がす道を選択した。怖くないと言えば嘘になる。本当は一刻もはやくこの場から逃げ出したい。
しかし、それをするとリンクに負けるような気がしたのだ。
理由はそれだけだった。そして、それだけで十分だった。
「…そうだ、おい!これ持ってけ!」
ピットは懐からカードを取り出すと、年長の少年に投げ渡した。「キャッシュカードだ。今朝のカモが持ってやがった。残高は確認してねぇが、無いよりマシだろう。銭で見逃してくれそうな傭兵ならくれてやんな」
年長の少年はそれを受け取ると、マンホールの闇の中に消えた。マンホールは子供達しか知らない迷路だ。下水の管理人でさえ、子供達以上に詳しい者は少ない。下水からなら、逃げられる可能性もある。
「さて…どこまで時間稼げるかな、相棒」
ピットは愛用のボウガンを構えながら呟いた。
ピットはどちらかというと冷酷な性格だ。自分が助かる為なら、相手が敵と判断できれば殺人も辞さない面がある。実際に何人か手にかけた経験もあり、17歳という年齢にしてはかなり手馴れた殺人者だ。
殺人という禁忌に対して他人よりも抵抗が薄い事から、ピット自身、自分は異常者なのかもしれないと思ってはいた。しかし、だからなんだというのだ。異常者だろうとなんだろうと、自分が死ぬのは御免だ。正常ぶって殺されるより、異常者として生き永らえる道を選んだだけだ。それだけに味方、特に友人は大事にした。自分が生きる為だ。別に温情などではない。異常者が温情など持ってるわけないだろう?罪深き異常者?おおいに結構だ。
だからリンク。俺はお前を責める気はねぇ。
考えながらも、ピットの体は自然に動いていた。
まず隠れながらゴミ箱越しに見える傭兵の一人の首筋にボウガンを撃ち込む。成功だ。相手は声もたてず崩れた。倒れる音もほとんどしてない。これなら気づかれてないだろう。
続いて、水の流れていないドブに転がり、ライフルを持った男をやり過ごす。これもうまくいった。体格的にも火力的にも正面から撃ち合うのは得策じゃない。
…しまった。奴が行く先にはさっき仕留めた死体がある。さっさとズラかるか。男が見えなくなってから、よく周囲を確認してドブから這い出す。
…ん?
ピットは、路地の片隅にバイクが一台捨て置かれていた。
あんまり良いバイクじゃねぇな。ま、どうせ動きゃしねぇか。
「…おい!どうした!」
やべぇ。さっきの死体が見つかったか。
一瞬の躊躇の後、ピットはバイクにまたがった。
「いけるか…!?」
ぶぅおぉぉぉぉぉぉおおおおぉぉぉぉ。
エンジンが唸りを上げた。動く!
「この音…ご禁制のガソリン式じゃねぇか!処分に困って放置したのか」
水素エンジンと電気自動車が全盛の今の時代で、ガソリン式の所持は重大な法律違反にあたる。
問題はガス欠か。ここを突破するまで持ってくれよ…!
ピットはアクセルをふかした。すごい馬力だ。ガソリン式は流石に違う。
「…いたぞ!こっちだ!」
「野郎!アモスを殺りやがったのも奴か!」
ピットはハンドルを握り締めた。捕まるわけにはいかない。
リンク、お前にもう一度会うまでは。
2005年07月16日
03:15
15:悪いJKには悪いF5を
セックスをしてる間は、俺は一人でいられた。
工業区の外れ…境界線を非合法裡に越えて、時々訪れる小さなホテルの窓から街を見ながら、俺は煙草に火を付けた。
久しぶりだ…区外にいる間は何とも思わないが、こちら側へ出てみると、全てが懐かしく思える。この工業区へ訪れるのは、仕入れや、他の特別な仕事がある時だけだ。「遊びたい」だの「女に会いたい」だの、そんな下らない理由でいちいち命を掛けてなど、とてもいられない。
それに俺は、こちら側の人間を腹の底から軽蔑していた。
お前らは俺達と違う…だが、なぜお前らが「上」なのだ…?権力者どもの小道具として生きるお前らが、一体なぜ俺達より…?
「ルイージ…煙草、また吸うようになったの?」
ジンのカクテルを作っていた女が、声を発した。
デイジー…それがその女の名だ。美人だが、伏目がちで、いつも戸惑ったような顔で笑っている。俺は、俺と同じ種類の笑顔の女と、目を合わせずにいた。
昔、依頼人が成功報酬の一部として俺を招待した、工業区の外れにあるストリップ・バー『サラサランド』で知り合った。デイジーはそこで歌手をしていた。ああいうところの歌手は、一般的に、もう1つの役割を持っている。客は気に入った歌手に声を掛け、適当な金額を支払えば、店の2階に用意された個室で2人っきりになれる。後はそれなりにやれば良い。
俺が声を掛けたのが、デイジーだった。
その時にベッドルームでどんなやりとりをしたか、俺は全く覚えてない。だが、デイジーと寝なかったのは確かだ…俺は依頼人の裏切りを警戒していた。結局その依頼人とは良好のままにあるのだが…なぜかデイジーは俺を覚えていたらしく、後日、たまたま仕入れに出てきていた俺を見つけて、声を掛けた。その日、デイジーの金でホテルに入り、今のような関係が続いている。
後で人に聞いた話では、デイジーは顔も体も声も、充分に売れっ子と呼べる水準なのだが、常連の間では敬遠される事が多いらしい。話が下手なのと、どこか売春を割り切れていない態度が良くないのだと…それに何より、彼女は常識的なプレイだけを、どことなく機械的にする事しか出来ない。
そして事実、彼女は今、俺をイラつかせている。
うるさい。話しかけるな。…確かに綺麗な声だ。だがそれは、セックスの合間に使う小道具としてだけ有効なんだ…どうせ面白くも無い話しか出来ないのに、会話を始めるな。
「ねぇ、今度は前よりも長く、こっちにいるの…?」
俺は微笑んだまま、彼女の言葉を無視して、グラスを取った。
この女は一体、会話なんてものに何を期待しているんだ?そんなものが男と女の間に、何の意味を持つ?
「危ないお仕事なんでしょ?なんだか心配で…」
「わかってるよ」
彼女は俺の横に座って、一緒に窓の外を眺めた…いい加減、黙れよ。もうお前への用事は済んだんだ。
「やっぱり、ルイージも早く、こっちに出てきて欲しいわ」
「ああ」
黙れ。だから金がいるんだろ。そりゃ兄貴なんかより、お前と暮らしたいさ。でも、お前も兄貴と同じで、押し付けがましいんだよ。黙れよ。
「それで、一緒に住んだら楽しいでしょうね…そしたら私、今のお仕事なんか辞めて…」
辞めて?何だ?俺が危ない仕事をして、お前はその金で何だと?仕事を辞めて、何だと?さっき危ない仕事はやめて欲しいと言おうとしただろう?俺はやめるつもりはないさ。それで、何だと?俺が危ない仕事をして、俺が金を稼いで、俺とお前が一緒に住んで、それで?
ゴン。
「ぎッ…!」
手元の灰皿が、デイジーの側頭部を直撃した。
ガッ。ガッ。ゴ。ゴン。
「い、痛いよ…!い、ぎ…ッ!」
彼女が頭を庇うために上げた手ごと、気の済むまで殴ってやった。5発目からは、灰皿を捨てて、拳で殴った。この方が、実感がある。全部で13発…ここで俺の手は止まった。もう数えるのが面倒だったからだ。
「…黙れよ。さっきから黙れって言ってるだろ?聞こえなかったのか?」
デイジーは頭を抑えて、ベッドで震えていた。一瞬、目を固く閉じ、すぐに地面を泳がせ、やがて涙が滲んで、下を向く。指の間から、赤い筋が流れた。
その姿は、俺の憤りを満たした…そう、そんな風にしてる時が、一番綺麗だ。何も喋らない方がいい。目も、潤んで戸惑って、そんな風がいい。それに…どことなく滑稽で、笑える。
デイジーは下を向いて震えたまま、何か戸惑ったように、目を動かした。
「ル、ルイージ、ごめんなさい…私、そんなつもりじゃ…」
「いいんだ」
まだ何か話せるのか。その前に俺が話してやる。お前に一言だって話させるか。イラつくんだ。
「いいんだ。君は聡明な女性だから、きっとわかるだろう。俺も危ない仕事で、ちょっと気が立ってたんだ」
デイジーは言葉を発さずに、小さく頷いた。
「これから、吉井と会う。忙しいんだ。けど、まだ少し時間がある」
そう言って俺は、涙ぐんでいるデイジーの胸に触れた。
仕方のない女だ…もう少しだけ抱いてやる。
俺は彼女の頬に、キスをした。
大粒の涙を流したままのデイジーの顔に、微笑が湧き上がり、彼女はそのまま満足げに目を閉じて、俺の肩を抱いた。
そして彼女の背中に、キーワードを唱えた。
「愛してるよ、デイジー」
俺はその背中を嘲笑った。
2005年07月17日
01:56
16:悪いJKには悪いF5を
ホテルを出るとデイジーは、いつもと同じく、店の主人・タタンガに命じられていた買い物を済ませた。
夜明け前の工業区は、一時的に、この腐敗した街の一部である事を忘れ、仮眠を摂っている。デイジーは、この時間が一番好きだった。この時間だけ、この辺りは平和になるのだ。この区域は閉鎖的で、下層労働者達は、必ずしも互いに仲間意識を持ってはいなかったが、皆が顔見知りであった。問題なんていつだって起こるが、殺人等は(よそ者が決闘や殺し合いの場に、ここを選んだ場合を除いて)少ない…ある種の“村”が形成されていると言える。
馴染みの酔っ払い3人が陽気に声を掛けてくるのに会釈し、店へと急いだ。デイジーは今日は休みだったが、店は先ほど閉まったばかりの時間で、まだタタンガがいるはずだ。
ふと、文字通り“潰れた”パン屋の脇を通るとき、割れたガラスに自分の顔が映った。
(あ…)
目に隈があるのは、いつもの事だが、殴られた顔がだんだん腫れてきたようだった。
(ひどい顔…)
少しだけ哀しくなって、また涙が滲んだ…
デイジーの父は、この区の労働者だった。仲間達からの信頼が厚い人物で、下層労働者の兄貴分のような男だった。母は彼の幼馴染で、ともにこのスクラップ処理場と無機質な港湾に囲まれた場所で生まれ、育ち、貧しいが心の通う仲間達と助け合い、戯れ、歌い、働き…そして死んだ。
鉄屑を近場に放り出せば処理が安く済むという企業達の築いたスクラップの山。雨が降れば、風が吹けば、いつ倒壊してもおかしくはなかった山。なぜ二人がその日、そこにいたのかわからないが、とにかく住人達の生活の糧でもあったスクラップが、彼とその妻を殺した。
デイジーは一人になった。13歳の事だった。
住人達の反応は、当時のデイジーにとっては辛いものだった。両親が死んだ途端、自分をただの厄介者と見なし始めたのが、嫌でもわかった。今ならば、少しは理解できる…もし今の自分なら、孤児を助けようにも、そんな余裕や力が無い事を知っている。きっと同じように、目を背け、歩く足を速めるのだ。デイジーは自分を、父と違って卑怯で、母と違って泣き虫だと知っていた。
それから先は、あまり憶えていない。
いつしかタタンガの店『サラサランド』で歌い、客を取っていた。少しだけ憶えているのは、女達と自分の間の温度差だった…店の女達だけでなく、皆が売春への抵抗をほとんど持っていなかった。すぐに周囲と壁が出来た。そして壁を残したまま、デイジーも“この街の女達”に侵食されていった。タタンガは面倒見が良く、貧しい女達に同情的な人物だった。なかなか仕事に馴染めず、すぐに泣き出してしまうデイジーを慰め、かと言って特別扱いをしないように配慮してくれた。デイジーは他の女達や常連と、話すこともほとんどなかったが、タタンガのお陰で、疎まれる事もなかった。
デイジーは小さい頃、母に読んで貰った絵本に出てきた“お姫様”になりたかった。「お姫様はみんな、母ちゃんみたいに料理と選択が出来るんだぞ」という父の冗談を真に受けた事もあって、デイジーは家事が、特に料理が得意であった。食材などロクに手に入らないこの街で、料理は確かに「お姫様の仕事」と呼べたかもしれない。しかしそれは長い間、現実逃避的な空想の役にしか立たなかった。稼げなかった日や、客の言葉に傷ついた日は、いつもイタリア料理のフルコースを作る空想をしながら眠るのだ。
だからルイージと出会った日に、2時間も料理の話をした事は、自分でも驚いた。
自分の話を頷きながら聞いてくれる客なんて、初めてだった。人と話しながら、夢想の世界へ旅立つのも。そしてとうとうルイージは、デイジーを抱かずに部屋を出た。優しい男だった。
その日から、ルイージが心から離れなかった…余計にドジが増えて、タタンガに迷惑を掛けたが、彼は何も言わなかった。
会いたい…
ただ、そう思いながら日々を送った。デイジーの、あまりにも遅い初恋だった。
そんなある日、偶然にルイージと再会した。彼は、あの時と変わらない微笑を浮かべていた。
そしてデイジーは、勇気を振り絞った。
ルイージは少し、変わったかも知れない。
だんだんと暴力を振るうように…いや、きっと自分が悪いのだ。
(私が甘えすぎてるのかも…そうよ、彼がいつだって私のつまらない話を聞いてくれると、甘えてたのよ…)
自分でも自分の話がつまらないと思っていたし、もしそうでないなら、いつももっと稼げてるはずだ。デイジーは自身の持つ空気に妨げられてしまっている美しさも、美声も、気づかないままでいた。
だけど夜明け前だけは…どんな街にでも、どんな人間にでも柔らかな涼しさを運んでくる、この時間だけは…前向きでいられる。空だって、見上げれる。
デイジーは、ガラスの中の自分に微笑んだ。
時間をくってしまった…タタンガを待たせたくはなかったし、出来れば夜が明ける前には、眠りたい。
(間に合わないな…・この時間だし、近道しよう)
デイジーは足を速め、いつもとは違う路地を曲がった。
地元の人間もあまり通らない路地だった…物騒と言うよりも、どこか生気のない道なのだ。噂では廃棄物から生まれたゾンビが出るとか、この路地のマンホールだけは外区に繋がっているとか…しかしデイジーは今まで一度も、そんな怪しい者に出会ったことは無かった。
そんな怪しい者…
デイジーは足を止めた。
何か見慣れないものが、前方に…
体が硬直した。
デイジーは己の愚かさも、粗忽さも、わかっていながらよく忘れるのだ。よくタタンガにも言われる…「死んでから思い出しても遅いぞ。この通りにはどうせ見知った顔しかいないと、タカをくくるな。そう言って帰らなかった奴なんて、いくらでもいる」と。
見知らぬ顔があった。
だが、動かない。
今のうちに、逃げようか…?大声を出そうか…?ここで死んだら、ルイージが悲しむかな…?
(え…?)
血の付いた手が見えた…何か持っている。シルエットがおかしい…死んでる?いや、違う。マンホールから腰の辺りまで這い出たところで、気を失ったようだ。
(怪我してるの…?)
一歩だけ近づいてみた…それはクレジットカードを握った少年だった。
2005年07月19日
01:41
17:悪いJKには悪いF5を
「何だテメェ!?何してくれてんだ、コラァ!?」
え、オレサマに言ってんの?ああ、オレサマしかいねぇか。ザコどもはオネンネさせちまったし。
もうちょっとどうにかすりゃオレサマの1歩手前くらいハンサムかも知れねぇ小隊長サンが、壊れたギターみたいな声で叫んでやがる…発声練習くらいしろっつーの。まあ、その装備のセンスは、トんでて好きだけどな。どれどれ…ありゃぁ、どっかの戦場で死体から引っぺがしてきた“ライト・アーマー”だな。ふむ。防弾・防刃の両方を警戒してるワケね。手に持ってんのは、サイバーサイコ鎮圧用の高電流長剣・シルバーソードって奴だ…お生憎様、オレサマはサイバーでもサイコでもないぜ。しかしまぁ傭兵ってのは、小遣い持ってんのか?それともコイツが装備に無駄金かけんのが趣味なだけなワケ?
「おい、聞いてんのか、テメェ!?」
「あー、それよかオタク、鏡持ってねぇ?ちょいと髪を直したいんだが」
聞いてねぇよ。そんな事より、ちょっと肩慣らしに大暴れしたら、自慢のヘアスタイルが乱れちまったんだ。オレサマのスタイルは、青紫だ。昔、中国人のヘンな占い師に言われて、もう皮膚以外全部、そうしてる(皮膚はちょっとカンベンだ…白と青紫って、意外と合うからな)。髪はもちろん半永久的に落ちないケミカルなやつで染めてるし、イタリア製のジャケットもズボンも、そして眼ン玉も青紫だ…可愛いお目めだろ?眼球そのまんま、スッポリ代えちまったのは、ちょいとヤリ過ぎたなと思った事もあるが、今じゃもう体の一部よ。てか、オレサマって何やっても様になるんだね。うん。
服はいいのかって?大丈夫。下水でやろうが、どこでやろうが、服を汚すようなヘマやりませんて。代えも62着あるしな。
ところで下水てのは、外区が一番だね…いや、別に下水が好きってワケじゃねーよ。仕事柄、よく行くってゆーか…とにかく外区の下水は、クソの臭いがしないから楽チンだぜ。なにせ下水の役割を果たしてねーからな。もっとも、時と場所によっては、毒ガスだの汚染物質だのがプンプン匂うけどな。でもクソよかマシだろ?ヘンな化学ナントカなんて、どうせアンタの朝飯にも入ってるって。
ピピピ…
ん?ああ、野郎は右目に「アナライザー」ってのを付けてる。外付けだな。金属反応やら磁器コードやらを遠くから読めるとか。何やってんの?オレサマの服のメーカー、調べてんのか?だとしたら、いい心がけだね。ま、お前にゃ似合わんけど。
「あん?『ラリーSBH』…特別巡査長?レンタコップか?」
「そだよ。ラリーは聖人ラウレンティウスから来てて、SBHは“スーパー・ビルドアップ・ハンサム”の略ね。てゆーかさ」
オレサマの右胸のIDカード解析してたわけね。そんなつまんねーもんよか、服チェックしろよな。
「ねぇ鏡持ってねぇの?オレサマ、ずっと待ってんだけど?」
「レンタコップが外区で何してんだ?あ?」
「それ教えたら、鏡、貸してくれる?」
どーせ、持ってねぇか?ないならないで「無い」って言えよな…さっさとブッとばして、お家に帰った方が早いか?
野郎はニヤリと笑った。
「アンタ、そのID凍結中だぜ」
だから何?なんで笑ってんの?アホか?…あ、コイツまさか、オレサマがヘマやって外区に放り出されたと思ってんの?
案の定、野郎は剣を構えて、余裕の笑みのまま言った。
「ははん、ガキの横取りで小遣い稼ぎか?だが、相手が悪かったな…俺は“教会”から最高の」
「おいおいおいおい」
冗談じゃねぇ!
「ちょっと勘違いされちゃ困るんだが、オレサマのカードが凍結中なのは、アレだ、けッッッしてオタクの考えてるような、そういう理由じゃない。話せば長くなるんだが、実は」
「聞けよッッッ!!!!」
え?いや、聞けよ。
「俺は“教会”から最強の称号である“勇者”の名を賜った男…」
「実はボスがヤバイ事やらかして、優秀にして清廉潔白なケイサツカンである部下のオレサマ達は、とばっちりで全員ID凍結ってワケで、もう10年も各自で食ってるワケよ。もうこれが、ホントつまんねー仕事ばかりで」
「そして、その剣は海を斬り、地を斬り、空をも斬るッ!まさに最強!!」
はいはい。
「そう、俺こそが勇者サムソン!さぁテメェをぶった斬…あへ」
あ!
っと言う間に7mほど間合いを詰めて、バカの鼻のあたりを蹴り上げれるのが、オレサマのケイサツカンたる所以。
ついでにバカをドブに落ちるように引っくり返らせてやれるのも、オレサマのケイサツカンたる所以。
サヨウナラ、勇者様。
そのまま、どっかわからんとこに流されていく、ありがたーいマヌケ姿、しかと見送らせていただきます。
「さっき訊いたな?なぜレンタコップが、外区の小便タレどもなんぞを助けるのか」
訊いたよな?忘れた。まあ、いいだろ。
「ま、郷土愛ってヤツよ」
キャッシュカードから報酬も頂戴したしな。うん。
2005年07月19日
04:37
18:悪いJKには悪いF5を
指定外区に背広姿の男が現れた。
それだけで、男の周囲はざわめきが絶えなくなる。
たった一人で路傍の浮浪者やチンピラ達に怯まず歩くその男の目は、黒縁眼鏡の向うで彼らを挑発していた。
(口実をくれ)
男は彼らに気を使って…胸の弁護士バッジを、もっと見えやすい位置に止め直した。
(ほら、僕は金を持ってるかも知れないぞ?僕と同じで、ウズウズしてるんだろ?時間はあるんだ…さあ、口実をくれよ)
「おい、あんた」
“奴はイカれてる”と判断した若者の一団が、男に声を掛け、そのまま取り囲もうとした。
彼らはナイフ、鉄パイプ、バス亭の標識、死体から拾った拳銃…思い思いの武器をちらつかせた。
彼は笑った。
イグナチウス・ロヨラ弁護士がそのカフェを訪れたのは、約10年振りだった。
「懐かしいな…」
その外区のカフェは、名前も内装もマスターも変わっていたが、彼はそこに若き日の自分の香りを感じた。
彼はそこで、昔の仲間と会う約束をしていた。
ある日、突然、警察署からの出頭命令と、もう10年も会っていなかった仲間からの呼び出しが、同時にポストに届いた。
出頭命令の内容も、仲間の用事も、大事な所が明記されていなかったが、それらは彼に“自分の正体”を思い出させる、刺激的な暗示をかけたのだ。
(昔の仲間…ウェンディー…あの美しいウェンディーから手紙なんて…)
手紙の主・ウェンディーは強く、美しく、仲間に篤い女だった。そして彼にとっては、もっと特別な、尊敬と友情と恋愛とが混ざり合った、至高の感情の対象だった。
手紙が来たと言う事は、彼女は生きている…いつ死んでもおかしくない仕事をしていた。きっと今だって皆そうしている。そういう種の人間にとって、手紙には“生”を司る、どこか神聖な意味合いもあった。
弁護士はノイズ雑じりのジャズが流れるカフェを一望した。
だが、そこにウェンディーの姿は無く、代わりに見知ったボサボサ頭を発見した。カウンターで何やら道具を広げて、作業に没頭している。イヤホンで聴いてる曲は、どうせクラシックだ。
弁護士は顔をしかめ、そいつの隣に座り、ソルティードッグを注文した。
「ルドウィッグ…どうして君がいるの?」
「ああ」
センター分けのボサボサ頭・ルドウィッグは、分解したリボルバーの脇に弾丸をバラ撒いていて、それらを選別していた。集中しているのか、馬鹿にしているのか、そいつは振り向きもせず、イヤホンを外しもせず答えた。
「ウェンディーは来ねぇよ。そんな顔するな…アイツは生きてるよ。ただ、俺が呼んでもアンタは来ないかなと思ってな」
弁護士は苦々しい顔をして、マスターからカクテルを受け取った。その表情と裏腹に、弁護士の心は笑っていた。
(こういう奴だったな)
イヤホンから漏れ聞こえる曲は、ベルリオーズの幻想交響曲だった。
しばらく言葉も無く、ルドウィッグの作業を見ていた。昔から弾丸の選別には入念な男だった。何でも「傷のない弾だけが、弾と呼べる」のだとか。いつか誰かが「弾には傷を入れておくもんだ。そうすると、敵の体内で散らばる」と教えてやったら「共産主義者のする事だ。アーティストやガンマンの仕事じゃない。クリント・イーストウッドがそんなケチなマネするか?」と、やはり振り向きもせず答えた。どうしてもその時「君は『ダーティーハリー』を知ってるかい?」と訊いてやりたかったが、時間の無駄なので、放っておいた。ルドウィッグの拳銃に文句を付ける者はいなかった。サイバネティック・オーガナイゼイション…所謂“全身サイボーグ”を6発で仕留められる者を、誰もルドウィッグの他に知らなかった。
「イギー、こんな作業見てて楽しいか?」
「いや、全然。僕は君の作業を見てるんじゃない。酒を飲んでるんだ」
少しやり返してやった気分で、イギー弁護士は楽しくなった。杯を傾けて、お代わりを注文した。
「…みんな、どうしてる?」
「知らん。ただ1つ言えるのは、居住区なんて馬鹿みたいなとこに住んでるのは、アンタ1人だろうな。つまり“道を踏み外した”のは、アンタ1人だ」
イギーは苦笑した。
州の司法資格を取得できたのは、隊が凍結したからだ。「明日から貴様らは警官ではない。IDと口座を凍結する。適当に稼いで、食え」と言われて、真っ先に取り掛かったのが、法律の勉強だった。たとえ警察官でなくなっても、法の番人としての誇りを忘れたくなかったし、金だって稼げると思ったのだ。幸いイギーはレンタコップには珍しく、出身は外国でも外区でもない。更には大学まで卒業していた。ルドウィッグはいつも「アンタ、なんでレンタコップなんかやってんだ?」と冷めた風に茶化していた。答えは簡単なもので…正規の警察官になろうにも、試験に落ちたからだった。
レンタコップになったのも、弁護士になったのも、“法”への執着だった。イギーにとって自分の全てを正当化し、誇示し、実力と正義を結合させるものが、法だった。だが…
「つまらないもんさ。弁護士なんて」
所詮、法廷は現場ではなかった。血も汗も硝煙も生も死も、そこにはなかった。自身の力と街の正義、自身の生と人の死…それから離れた瞬間、イギーは自分の正体を悟った。
(僕は…“イギー”というちょっとした狂人は、警察官でもレンタコップでも弁護士でもないさ…たぶん、イグナチウス・ロヨラですらないのかも知れないね)
「そうか?アンタの事だから、ぬるま湯で充分のぼせてると思ったんだがな…ところでラリーも呼んだんだが、こりゃ来ないな」
「こんな3人で、何をする気だったんだい?」
「アンタの説得だよ」
「…よくわからないな」
「アンタが渋ると思ってね…ラリーが言い出した。俺は別にいいんだが」
「話が見えない。何があったんだ?」
「2つある…いや、面倒だ。1つにまとめるぞ」
ルドウィッグはイヤホンを外して、振り返った。
「あの時、収容所にいった奴ら、両方とも出てきてる」
イギーは何も答えず、3杯目を頼んだ。
「有り得ないね。もう少し楽しい話にしてくれ」
「いいや、2人とも出てきてる。“赤いの”は、外区にいたらしいが、とうとう姿を現した」
「…ボスは?」
「ん?あぁ、“首輪付き”で出て来た。出頭命令は来たか?俺達の隊の凍結が解かれる」
ルドウィッグは弾丸をしまいながら、アイスコーヒーを注文した。
「はっきり言って俺は、ボスもアンタも歓迎してない。俺はボスを駒だと思ってるし、向うだってそうだ。アンタは何もかも、ぬるいヤツだったしな。だが凍結解除は大歓迎だ。他の連中とも組みたいし、あの“赤いの”のを仕留めたい」
イギーは何も言わなかった。
それから沈黙が長く続いた。
「今も…」
イギーが言った。
「今も、僕を“ぬるい”と思うかい?」
「そう思ってたんだが」
ルドウィッグは、イギーが現れた時から、微かな異臭に気が付いていた。血と硝煙…イギーのまとうそれに、故意を感じ、そしてそれを「似合う」と感じていた。正規の警官や弁護士の臭いではない。それは指定外区の臭いであり、レンタコップの臭いだった。
イギーは初めてルドウィッグの笑顔を見た。
2005年07月20日
22:45
19:天にJK地にF5
「ここでの仕事は、実につまらんものでありましたSir」
辞表を出しに来た部下に悪態をつかれるのは良い気分では無い…ディディー・ハヤシバラ中佐はナイフとフォークを止めた。
彼のデスクには3時のおやつ・バナナのドラッグクリーム和えが置かれていた。
(辞めたきゃ黙って辞めりゃいいだろ、クソが)
どうせここよりペイのいい所へ行く奴なんて、何人でもいる。その“いい所”と言うのは企業であり、ギャングであり、あの“教会”である。そこでいい仕事をすれば中佐の知り合いは喜ぶし、いろいろと良い事がある。
だが、わざわざ「手ぶら」で上官に挨拶に来る奴に“いい所”を紹介してやる気はないし、今のような文句を日付が変わる前に言うような奴は、すぐにでもドンキーに撲殺してもらいたい。
(ま、殺せと言っても、ちゃんと動いちゃくれねぇか、あのオッサンは)
中佐の前に立っているのは、胸から上が脳以外全て機械で出来た兵士だ。それ以外の部位にも、いくらか便利な機器が埋め込まれている。
全身を機械にしていない理由の1つは、平たく言えば「コンゴウ中将がいつでも好きなときに殺せるように」という事だ。ここにコンゴウ中将より強い兵士は、いてはならない。
もう1つの理由は「皮膚の色が判別できるように」である。その兵士は黒人だった。多くの兵士は、誰が黒人で誰が白人なのか判らない状況では、疑心暗鬼になるという。それを解消するのに、この基地では黒人が肌を隠すことを禁じている。それで黒人の装備が危ういものになったとしても、それは気味の良い事なのだ。東洋人である中佐にとっては、彼らはよいスケープゴートだった。
「で…だから何?このニガー、イカレてんの?クスリ分けて欲しいなら、そう言えよな」
ドラッグクリームを舐めながら、中佐は憎らしげな目で兵士をみた。
「Sir,YesSir.私はニガーです。ニガーは過酷で危険な仕事をするものです。クスリは結構です」
兵士の顔も機械だ。頭部はヘルメットのようになってるし、顔面はホッケーマスクのようになっている。だから彼が冗談を言っているのか、よくわからない。だが、額と背中にわざわざ「Fire-Ball-NIGGER!!」と印を押しているのだから、きっとジョーク好きなのだろう。
「じゃ、自殺でもしたら?」
「失礼ですが、そういう問題ではないのです、Sir…少し、お話を続けさせていただきます」
お話とやらを続けている間に、コンゴウ中将が(どこをウロウロしてるのか知らないが)やって来てこいつを殺す事を期待しつつ、ディディーは鼻を鳴らしながら「どうぞ」と吐き捨てた。
「自分の隊は、1度も交戦らしい交戦をしておりません…機会はあったのに、なぜ出撃命令を下さらなかったのですか?」
「そりゃお前よぉ、この街が平和だからだよ」
そうか、そういう前振りか…ようやくジョークらしくなってきたな。中佐がそう思った瞬間、兵士は言った。
「基地内でサイバーサイコが殺人を犯してもですか」
中佐はクリームのたっぷりのったフォークを落とした。
「な、何?お前、中将さんとヤリたかったの?お、おい、やめとけよ…」
コンゴウ中将を殺そうと思って殺せるとは思っていなかったが、鉄屑野郎に2匹も暴れられては、非常に面倒だ。
「Sir,YesSir.命令がありましたので、やめます。しかし自分は12分27秒後に契約が切れて、民間人になります」
「その12分ちょいとの間に出て行かねぇと、不法侵入でズドンだぜ…失せろよ、カメ野郎」
「黙れ、サル野郎」
「な…!?」
「失礼致しました、Sir.自分の尊敬出来る上官は、ただ1人なもので、つい」
中佐はデスクに備え付けられた非常スイッチに手を伸ばした…しかし少し考えて、それを押すのを止めた。自身にとって最も安全な選択は、この鉄屑とヤリ合う事では無い。
「では尊敬に値しないクソ上官からの、最後の指令だ。第2種機械化兵モートン伍長、ケツを振りながら基地から出ろ」
「Sir,YesSir!!お世話になりました!!」
モートン伍長は本当に腰を振りながら退室した。
中佐はドアから顔を覗かせて、廊下を伺った。遠いところから「クレイジー」だの「ワンダフル」だの、感嘆や笑い声が聞こえる。
(やれやれ、この基地はバッド・コメディアンばかりだね)
その時、すぐ近くのトイレのドアが開いて、制服姿のコンゴウ中将が現れた。
「君もそう思うかね、中佐」
2005年07月20日
23:00
20:遊帝(あそびてぇ)
嫌な任務だ。いや、任務が楽しかった事はほとんど無いのだが。
「…こちらクッパ。ターゲットの部屋の前に到着した。聞こえるか?」
「良好だよクッパ君。ブランクがあるとは思えん。さすがだなぁ」
「…フン」
クッパは無線機から流れるカービーの声に顔をしかめた。この男の声を聞くと虫唾が走る。特に己の優位を確信し、嫌味たらしく余裕を見せ付けるこの声色は本当に神経に障る。
「もう一度確認しておこう。君の任務は二つ。市庁舎の奥…ああ、今目の前にいるんだったな。その部屋の中にいるイトイ氏の身柄の確保。もう一つは、彼がMOTHERコーポレーションから受け取ったはずのデータの破棄。いいかね、破棄だ。持ち帰る必要はない」
カービーはクッパの心情に気づいているのかいないのか、口調を全く変えずに話し続ける。「彼は教会のマリク大司教と個人的に付き合いがあるそうだ。手荒な真似は控えてくれたまえ。私も敬虔なクリスチャンである以上、同じクリスチャンを傷つけたくはない」
クッパは無線をほとんど聞いていなかった。任務の内容など全て頭に入っている。今更確認の必要はない。
クッパは市庁舎の階段の裏から顔を出し、後方の様子を伺った。
白い制服に身を包んだ職員達が忙しそうに行き来している。
市の庁舎は殺風景だが、うすら寒いほどの秩序がある。クッパが育った居住区とは全く違う。ここには生きる者の気配がない。役所の職員は皆亡霊のような顔をしているのが当たり前だという事を差し引いても。
ここの空気は"生きる"という言葉が生々しい迫力で迫ってこない。日々を生きる事が、それだけで大きな試練となりうる居住区とは違う。
あまりに安易に生き過ぎている。
ともかく、クッパが潜んでいる階段の陰に注意を寄せている職員はいない。目標の部屋への潜入は容易なようだ。最新鋭の装備のおかげだ。ナイフも、消音機付の拳銃も持ってはいる。だが、こんな気の進まない任務で人殺しは避けたい。例えその相手が腐れ切った役所のフヌケ職員どもであってもだ。
「………………おい、聞いているのかね!?クッパ君!?」
「…ああ。聞こえてる。あまり大きな声を出さないでくれ」
クッパは苛立ちを隠さずに答える。潜入任務だというのに、冷静さを欠いてはいけない。それは分かっている。だが、無能なカービーには理解できないらしい。もうすぐゴールなのだ。ここで失敗するわけにはいかない。クッパが失敗するという事は、職員に発見されて騒ぎになる事だ。そうなれば、脱出の為に数人の犠牲者を出す事になる。
「随分冷たいな、元警視。友人として君に情報を…」
「…いつ友人になったつもりだ。任務は遂行する。心配はいらない。傍受の危険がある。交信は以上だ」
「おい、待て!田舎頭の水牛ヤロ…」
カービーの発作が始まった直後に通信を切る。ロックしたので向こうからはかかって来ない。コンソールを叩いて目を血走らせ、喚き散らすカービーの姿を思い浮かべると少しだけ気が晴れた。
クッパは扉に手をかけた。念のために拳銃を抜いておく。
…開いた。
大きな執務机でグラビア雑誌を読みふけっている男。こちらに気づいた様子はない。他に人影も見えない。
「うーん、いいケツだ…。この女も埋蔵金が出た暁には…はっ!?」
「二級裁判官シゲサト・イトイ…だな?」
クッパは銃を突きつけ、人差し指を唇にあてて『黙れ』のジェスチャーをしながら言った。
「お…お前は…!その顔、見覚えがあるぞ…?確か、数年前警視だった…」
プシュッ。
イトイの耳のすぐ横を何かの塊が物凄い勢いで通り過ぎた。銃弾だ。
「ひ…ひぃぃ……」
「静かにしてもらおう…。自分で歩いてもらわないと手間がかかって仕方ない」
クッパは低い、ドスの効いた声で呟いた。「あんたがMOTHERから預かったデータがあるだろう。どこにある?」
イトイは震える指で机の端を指した。小さな、爪の大きさ大のデータチップが見える。クッパはそのチップを撃ち抜いた。
「な…!?き、貴様!あの中になにが入っていたか、分かっているのか!?先の"大戦"で疲弊した"氷河地"や外区を正常に戻す為の緑化計画だぞ!?そ、それを…」
イトイは銃を目の前にしている事もすっかり忘れてクッパを非難した。
「あれで、多くの人が救われるかも知れんのだぞ!?」
「…そして、中央以外のもっと多くの人間は見捨てられるわけか」
「き、貴様ぁ!人権をなんだと思っているんだ!?人権とは、税金を納める者にだけ与えられる善良な市民の証だ!税金を払っていない者など…」
「…そういうセリフは、税金と私腹の区別をつけてから言うんだな」
「うっ…ぐぅ…」
イトイは言葉に詰まった。別にクッパの言葉に同意したわけではない。銃口が額に向けられたから黙っただけだ。
「…あんたと議論している時間はない。一緒に来てもらうぞ」
クッパは銃を向けながらイトイを立たせた。
目標は確保した。任務は成功だ。
だが、それを報告する為にまたカービーに通信しないといけない。全く、嫌な任務だ。
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