2005年07月04日
09:43
2:遊帝(あそびてぇ)
ドンキー。ドンキー。
強いドンキー。ぼくらのドンキー。
くそっ、ドンキーってのは、確か「間抜け」って意味だったよな。
夢があった。
世界中の子供達の人気者になる夢が。
レディとかいう安っぽい売女をさらったのは、ただそこにいたから。別に女なら誰でも良かった。
キングコングがやって許される事だ。俺がやっても許されるはずだ。
許されるはずだった。
あいつが、あのクソ野朗が現れたせいで。
そうだ。あいつだ。あの赤い服を着た変態野郎が私から全てを奪ったのだ。
だが、今度こそ大丈夫だ。
あいつを消す最高の方法だ。そもそも、あんなクズがこの世に生きてて良いわけない。
今度こそ、大丈夫だ…。
ドンキー。ドンキー。
強いドンキー。ぼくらのドンキー。
くそっ、ドンキーってのは、確か「のろま」って意味だったよな。
くそっ、くそっ、くそっ。
俺をドンキーって呼ぶな。
2005年07月04日
10:01
3:遊帝(あそびてぇ)
いいか、よく聞け。俺はこの街が好きなんだ。
カービーの憔悴は頂点に達していた。
使い込みがバレたわけでも、間抜けな市長の愛人とケツの穴で浮気している事がバレたわけでもない。そもそも俺はホモだ。うるさい妻は2、3発蹴りを入れてシャブでもやっておけば1日中おとなしくなる。
犯罪検挙率が上がったわけでもない。警察署長であるカービーにとって街以上に愛すべき犯罪が多いのはむしろ喜ばしいことだ。
あの男達が生きている…!
それはカービーにとって恐怖と苛立ちをつのらせるのには十分な言葉だった。
十年前、奴は確かに強制収容所"キノコ王国"送りにしたはずだ。ちょっと書類を操作するだけでよかった。
だが、奴は、生きていた。
なんてこった。
くそ、こいつは厄介なことになったぞ。
ああ、イライラする。コークはまだあったか?そろそろ残り少ない。
「署長、来週の大統領のパレードについてですが…ひぃ!」
ああ、ちきしょう。こんな時に入ってくるな。…なんだ、その顔は?おいお前、署長様になんか文句あるのか?てめぇと、てめぇのチンケな女房は誰のおかげで飯が食えると思ってんだ?給料払ってやってるのは俺様なんだぞ。
ちきしょう、ちきしょう、くそったれ。
「しょ、署長、や、やめてくだ…あぎゅっ」
この口か?この口が俺に逆らうのか?…ああ、避けちまったか。くそ、なんでこんなにモロイんだ。うるせぇ、ギャーギャー喚くな。口がでかくなって余計にうるせぇんだよ。空気を返せ。この部屋の空気は俺のもんだ。
ああ、勃ってきやがった。痛ぇくれぇだ。さわぐな。嫌だと?黙れ。お前は俺の部下だ。さっさとケツを出せ。………くそ、お前、ちゃんと洗えよ。
………だいぶ落ち着いてきたな。コークが効いてきた。
おい、こいつを運び出しとけ。それから、今度からクソはちゃんと拭くよう言っとけ。まぁ、筋肉が伸び切っちまったからしばらく病院生活だろうがな。よかったじゃねぇか。国から手当て出て。これでカミさんも大喜びだな。息子も晴れてキノコが買えるってもんだ。感謝しろ。
…そうだ。良い事を思いついた。あの野郎を消す方法だ。
あの野郎がいなくなれば、俺の過去を知る者はいなくなる。この街は、今まで通り俺の愛したニンテンドーのままだ。
いいか、よく聞け。俺はこの街が好きなんだ。
2005年07月07日
02:09
4:遊帝(あそびてぇ)
あの野郎、いつだって俺がケツを拭いてやっているのに。
マリオが家を出て行ってからも、ルイージの怒りはおさまらなかった。
ちきしょう。絶好のチャンスだったのに。あの赤い異常者の息の根を止めるのに。そうすれば、俺はあのクソ野朗から解放されたのに。
引き出しの中に入れていた厨国製の密造拳銃には弾が入ってなかった。絶望的な気分だった。何度引き金を引いても、カチッ、カチッと癇に障る小さな音がするだけ。殺される。そう思った。この忌々しい赤い変質者に、俺はとうとう殺されるのだ。今まで、散々こいつの後始末をやらされてきた。俺の人生は、全てこいつの尻拭いだった。自分一人ではクソの始末もつけられない、あんな男に人生を食い潰されて、そして死ぬのだ。神様、こんな結末でいいのか?俺にこんな哀れな最後を与えて満足か?
幸いな事にマリオには引き金を引く小さな音は聞き取れなかったようだ。そのままルイージの顔を離すと、また外へ行ってしまった。今度はメットがどうとかブツブツ言っていた。
考えてみればあいつがチンケな9mm弾で果たして死ぬものだろうか?あの地獄の収容所に送られ、生きて帰って来た男だ。ぶ厚いレンガを下から突き上げるだけで粉砕し、砲弾を足で叩き落し、時には布一枚で空まで飛んでみせる。奴一人のせいで、キノコ王国をはじめとした多くの国が崩壊してきた。
マリオの恐ろしさは、ルイージ自身が誰よりもよく知っていた。
それに、金がいるんだ。
あの電話の声からして、今度の依頼も相当にヤバイ。奴の、マリオの力が必要だ。奴だったら国一つだって滅ぼせる。
だから生かしておいてやったんだ。感謝しろよクソったれ。
どうせ、今もメットだなんだと言いながら、夜な夜な歩く哀れな酔っ払いや浮浪者を撲殺しているに違いない。『お前はメットだ。燃えねぇんだよな?大丈夫だ。ギャアギャア喚くなよ。大丈夫だって。なんせお前はメットなんだからなぁ』とでも言いながらガソリンで誰かを焼き殺しているんだ。きっとそうだ。そうに決まっている。くそ。それで俺は、いつものようにお前が漏らしたクソやションベンを始末しなきゃならないんだ。あのブタめ、いつか、いつか、いつか…。
ガチャリ、とドアが開いた。
「…おい、いるんじゃねぇか。なんで電話に出ねぇんだよ」
背の低い、茶色の肌をした男が戸口に現れた。
「ああ、クリ坊さん。ちょっとね」
ルイージはいつも表面上の愛想笑いを浮かべた。ちきしょう。あのクソ兄貴のせいで、誰にでもヘラヘラ笑う癖がついちまった。
「…またマリオと揉めてたのか。おめぇが首輪を握ってねぇとあいつはすぐ何かしやがるからな。しっかりしてくれよ?」
クリ坊はスキンヘッドについたでかい歯型の傷跡を触りながら言った。マリオに食い殺されそうになった時の傷だ。奴の好物のキノコと間違えられたらしい。
うるせぇ。好きで兄弟やってんじゃねぇ。てめぇが収容所からアイツを出したりするから俺が苦労してるんだ。おとなしく金の横領だけやっときゃ良いのに。死んじまえ。クソ、こんな気持ちも顔に出せたら少しは楽なのに。
「で、だ。仕事の内容なんだがな…」
ああ、そうだ。そうだとも。
マリオ。兄さんが必要なんだ。そうだとも。
2005年07月07日
19:26
5:悪いJKには悪いF5を
扉が開かれたのは、私の“王国”での生活が始まって、ちょうど9年と328日が経過した時だった。
インディアン居住区跡に建てたれらこの収容所は“王国”と呼ばれている。そこが難攻不落である理由は、厳重な警戒のみではない…ここは強力な戦闘能力をもった人間だけが収容されている。市警で訓練を受けた程度の警備員では、ことが起きた時に、対処できないだろう。元SAS隊員や、収容されるまで現役で戦場にいた海兵隊員、ボスがヘマをしたという以外に何らの落ち度のない殺し屋や傭兵達…市の警察官は、彼らと渡り合うだけの戦闘訓練を受けていない。
だが、彼らを力で縛り付けるのは、最初の3時間だけで良い(その3時間以内に看守・警備員が殺害されるケースでは、犯人が射殺されるまでに27人殺したのが、輝かしい歴史上最高の記録らしい)…ここには“キノコ”がある。
正式名称はスタッフ達も知らないらしいが、囚人達はあるキノコの胞子を注射される。それは3時間で脳を蝕み、大脳新皮質の一部と運動中枢をマヒさせる。その状態が3時間続けば、大抵は再起不能だ。看守はドラッグでもセックスでもバクチでも、とにかく好きに時間を潰せる。
だが特別収容室は違う。ここはロイヤルルームだ。ここへは特別な者しか来れない。
特別かどうかは、キノコを注射された3時間後にわかる…大脳新皮質の一部と運動中枢の両方、もしくは、片方に異常をきたさずに済んだ者…そんな常人では考えられない生命力や、稀少な耐性を持ったものにだけ、個室が許される。
もっとも、ここでは代わりに、五官を機能させる自由だけは束縛されるが。
私は「あの男」以上に特別だった。彼は白人だが、私は違う…私の体に流れる、大地から受け継いだ太古からの血が…精霊達の加護が…ネイティブアメリカンである私を守ったのだ。
だが精霊たちよ、願わくば私にこの街の存在など、教えて欲しくはなかった…
「収容室DS1036号…悪いインディアンだ。まだ生きてやがる。出ろ」
看守の声だ。ここにいて、人の声を聞くとは…
第3特殊監視面会室のモニターに映っていたのは、私の最も憎む男の一人だった。
「なんのつもりだね、カービィ警部補」
「カービィ署長様だよ、クッパ元警視」
2005年07月07日
23:54
6:悪いJKには悪いF5を
日系ビジネスマンは一目でわかる。東アジア系は他の黄色人種と顔立ちや肌の色が、少し違う。慣れれば中国系と日系の違いもわかる。彼らは振る舞いや笑い方や歩き方が違う。
だが普通の日系ビジネスマンは、一人で夜道を歩いて、こんな事を言っては来ない。
「僕は爬虫類なんだ」
女は戸惑った。
金曜日の夜に自宅へ帰る途中だった。
この男はなんなのだ…?日系人のようだが…薬物中毒者だろうか?その割には、ちゃんとした背広を着ている。
いや、そんな事では判断できない…男の笑顔は、気味の悪いほどの愛想で満ちていた。
(もう1ブロック先でタクシーを降りるんだった)
そう言えばこのブロックは貧民街に比較的近い。こういう輩が彷徨い出てきても、おかしくはないのだ。
しかし、会社から地下鉄で帰って来たと夫に思わせるには、タクシーから降りる所を目撃される訳にいかない。課長の自宅へ行っていない事をアピールしなくてはいけない。まだこの時間では、タクシーと不倫が結びついてしまうだろう…夫は言葉にはしなかったが、すでに疑っている。
だが、それでも彼女は冒険を続けた。
車もベッドも銀行口座も、2つあるに越したことは無い。3つでは、維持と管理に労力がかかる。ただ年に一度、課長の誕生日に寝に行ってやる手間を割くだけで、それらの恩恵を得られるのだ。そうやって生きてきたし、そうやって楽しんできた。
だが今日は運が悪かった。
「僕は爬虫類なんだ。爬虫類は平和的な生き物なんだよ。けど、爬虫類には何でも食べてしまう危険な種類もいる」
少し冷静さを取り戻した女は、バッグの中の拳銃に手をやった。
「そ、そう…爬虫人類…ワイルドでステキね」
男は微笑んだまま答えた。
「そう。ワイルドで…とてもステキなんだ。けど、爬虫類には何でも食べてしまう危険な種類もいる」
この町では簡単な手続きを経て、市警の承認を受ければ、誰でも銃器を携帯できる…女は神と警察署長に感謝した。
この距離なら、素人でもはずさない。
(大丈夫。うまくやれる)
女も微笑んだ。
「そう…寝たら、どんなかしら?」
「そう。そうなんだ。寝る事だって出来る。けど、爬虫類には何でも食べてしまう危険な種類もいる」
1、2の3でバッグから銃を抜き出す。それを両手で構え、男に突き出して…
「こんな風かしらね…・・ファック!!!!」
女は叫んで、引き金を…しかし、それよりも早く、銃の反動が、女の両手の感覚を奪った…撃つよりも早く、反動…?
「あ…あああ…あぁぁーーーー!!!!」
銃を握った両手は、噛み砕かれ、男の口の中にあった。男が満足気に顔を歪め、血をすすり、ゆっくりと租借を始めた。
「嫌ぁぁぁぁーーーー!!!!」
走ろうにも、両手は男の顎が食い込んで離れない。必死で腕を振り回すと、程なく両腕が開放された。両手首が引きちぎれたのだ。
「あああ…ああ…」
出血のためか、恐怖のためか、女は喘ぎながら、男を見上げていた。それとも死に何かしらの性的快楽を感じたのかのかも知れない…女はそう思った。
不意にマザーグースが流れた。
男の携帯電話だった。
男は女にウィンクをして「失礼」と、ポケットから電話を取り出した。
「はい、吉井です。僕のことは『ヨッシー』って呼んで下さい、なーんちゃって。うふふ…あ、ルイージ君?」
女はその場に座りこみ、もう逃げようとしなかった。
(電話…ああ、そうだ…)
男が話している間、携帯電話というものを思い出し、バッグを探った。
(警察…警察と救急車…)
程なくそれは見つかった。しかし、
(ああ…)
ボタンを押すべき指は、もうジャムに混ざった繊維のように…
「はい。はい。ええ…少し遅れて行きますね。いえいえ、おかまいなく。こちらは食事を済ませてから、伺いますんで」
2005年07月08日
01:16
7:遊帝(あそびてぇ)
ボダ。ボダ。ボダボダボダボダボダボダボダ。
赤い。こんなゴミみたいな親父でも人並に血は流れていたんだ。
リンクは、たった今刺し貫いた父親の腹部をぼんやりと見ていた。
父親といっても血はつながっていない。
元々父親は大企業のサラリーマンだったらしい。しかし、生存競争の厳しいこの街ではいつか誰かが被害者になる。産業スパイ、談合、官僚との癒着などは穏やかな部類で、暗殺、私兵による襲撃、家族を人質に取られ、帰った時には全員がヤク中になっているなど珍しい事ではない。
そして、父親がそういった「負け側」になった。それだけのことだ。珍しい話ではない。
リンクは物心ついた時から親父に殴られながら育った。父親は捨て子のリンクを拾うなど、慈愛に満ちた人物だったらしい。だがリンクにはそんな記憶は無い。記憶の中にいる父は妻を殴り、自分を足蹴にし、働きもせず日々酒に溺れていた姿しかない。
リンクは次第に家には帰らなくなり、地元の不良少年達と付き合うようになっていった。皆似たような境遇で、家にいるより遥かに居心地が良かった。少なくとも、そこには仲間がいた。
仲間達と盗みを繰り返し、ゴミ箱を漁り、時には靴磨きなどで日々の糧を得た。しかし、家に帰ればその僅かな金も食料も父親が酒に変えてしまう。リンクはますます家に帰らなくなった。
そして今夜、母親が死んだ。家で自分をかばってくれるただ一人の人が死んだ。父親が殴り殺したのだ。自分が家に寄り付かなくなったから、その捌け口が全て母親に向かったのだ。リンクは怒りに我を失い、そして父親を刺した。
最初は腹を刺した。大量の血。生暖かい感触が手にあたる。
父親は何かを言おうとして口を開いたが、声にはならなかった。
リンクは今度は喉を刺した。どんな恨み言が口から出るのかと思ったのだ。怖かった。人を殺すという罪悪感より、父親が生き返ってくるのが怖かった。
次は首を切り裂いた。まだ生きている。今度は胸。死んだのか?念の為に背中も。もう大丈夫なはず。また動いた。もう一度背中。まだ血が流れてくる。まだ死んでない。また背中。起き上がるな。また背中。生き返るな。立ち上がってナイフを捨てて側にある灰皿で頭を殴る。死んでくれ。死んでくれ。手が、手が痙攣した。もう一撃。もう動かない。いや、騙されないぞ。また一撃。くそ、騙されるもんか。もう一撃。うあ、手に何かついた。水っぽい。くそ。くそ。くそ。何度も、何度も、何度も、何度も。
全身17箇所を滅多刺しにして、頭部が原型を留めなくなるまで灰皿で殴りつけてようやくリンクは動きを止めた。
怖かったし、もっと刺して殴っておきたかった。まだまだ生き返ってくるような気がした。父親の死体が、もう起き上がるはずのない状態になればなるほど恐怖は増した。あれで起き上がれるはずがない。死んでいるに決まってる。でも、もしも。もしも生き返ったら?三流の恐怖映画みたいに、父親がモンスターのように生き返り、その変わり果てた姿のまま自分の名前を呼んだら?ありえない。ありえるはずがない。でも、もしも。もしかしたら。
そう思っても、もう手が動かなかった。一休みし、腕が動くようになったらまた殴るつもりだった。人のかたちを留めない程殴れば、きっと起き上がってこない…。
しかし、父親が二度と動き出す事は無かった。
安心すると、今度は人を殺したという現実がリンクに重くのしかかってきた。目の前には死体。それも血の海の中で、正視に堪えない姿の死体が。
むせ返りそうな血の匂い。死体から漏れ出した排泄物。酒の匂い。母親が作っていたらしい夕食。汗のにおい。
そして、全身に浴びた血。赤い。手は特に赤い。ナイフ。この手で。
吐いた。犬のように床に這いつくばり、ひたすら吐いた。
普段からほとんど喰っていないので胃は空に近かったがそれでも吐いた。胃液だけを吐き続けた。涙がにじみ、鼻汁が漏れた。失禁もしてしまったらしい。ヒドイ匂い。また吐いた。
初めて人を殺した。今までも会社帰りのサラリーマンを襲って財布をまき上げた事は何度もあった。喧嘩もした。ナイフで相手を脅し、実際に切りつけて相手に怪我を負わせた事も数多くあった。だが人を殺したのは初めてだ。
まるで数時間が経過したように感じたが、おそらく数分だったのだろう。
寒い。体が震えて来た。恐怖のため?いや、実際に寒い。嘔吐したので体力も消耗している。
「…逃げなきゃ」
リンクはゆっくりと立ち上がった。自分でもびっくりする程体が重い。
その日は、リンクが16歳になった誕生日だった。
2005年07月11日
01:13
8:悪いJKには悪いF5を
どこをどう走ったのか、どのくらい時間が経ったのか、憶えていない。
突然、目の前が開け、それまでになかった種の建造物が現れたので、リンクの拡散していた意識が定まった。
(……教会?)
小さな教会だった。その周囲だけは、空気が違った…静寂と、一抹の神聖さが流れていた。
(こんなところに教会なんて…ああ、そうか)
この貧しく汚れたハイラル地区の、リンクの住む側の反対側…より貧しい者達の住む側に、確か教会があった。幼い頃に一度、どこか遠くからこの教会を見た記憶がある。どこからだったろう。
(あれは…ああ、そうだ、親父が落ちぶれる前に住んでいた、あの…)
今、気がついたが、もう体のどこにも力が入らないほど疲れている…リンクは教会に引き寄せられ、その扉を開いた。
驚いた。
そのちっぽけで薄汚れた礼拝堂は、美しかった。少なくとも、その時のリンクは、そう感じた。荘厳さや価値のありそうな装飾など皆無であったが、明らかに人の温かさと優しい霊気が匂った。並んでいる座席など、半ば朽ちていたが、掃除がされている。もともとイエスキリストが眠っていたであろう正面の台座は破壊されたらしく、十字架の根元だけがあったが、代わりにその手前に、リンクと同じくらいの背の、聖母マリアが微笑んでいた。
(母さん…)
こんな気持ちなのに、何故、自分は泣けないのだろう?聖母マリアが罰として、涙を奪ったのか?殺人者は、母のために泣くを許されないのか?
リンクは知らなかった。今まで自分がずっと泣いていた事に。涙が枯れるまで、泣いていた事に。
「誰か、いないのか?」
しばらく聖母と見詰め合っていたが、少し落ち着くと、リンクは周囲に呼びかけた。掃除がされているのだから、誰かいるはずだが…
その時、何かが動いた。
懺悔室のカーテンから現れたのは、少女だった。
「…シスター?…じゃねぇよな」
同じ年頃の少女なのだが…少し様子がおかしい。こちらを不思議そうに眺める目は、あまりにも無垢で、まるで赤子だった。
静かな時間が流れた。やがて少女が口を開いた。
「あう、あう、あー、うー」
「な……お前、喋れないのか…?」
「うー」
「…お前、名前は?」
「うー?うー…」
喋れないだけではないのだろう。歩き方も仕草も、どこかおかしい。本当に赤子なのだ。
「ぜるだ」
不意に少女が口を聞いた。
「は?え?何?」
「あー、うー?ぜるだ。なまえ、ぜるだ」
「…ゼルダ」
「うー、うー」
聖母には幼すぎる少女は、微笑んだまま、柔らかな声を出し続けた。
だが、その少女のまとう空気と裏腹に、リンクの理性は再び途切れていった。
「お前、初めてじゃなかったのか」
懺悔室のカーテンの影で、白く濁った体液を浴びたゼルダは、ぼんやりとリンクを見て、何かブツブツと言っていた。
「なんだよ…こっち見るなよ…お前が悪いんだぞ…」
自分でも何を言ってるのか、何をしているのか、わからなかった。
何も考えず、ただ目の前の少女を気のすむまで、無茶苦茶に、好きなようにしてやった。手も、足も、胸も、背中も、唇も、潤った下腹部も……何でだ?自分は、こんな人間だったか?狂ってる。頭がこんなになるなんて、無かったのに……あの男を殺すまでは。
もう一度、少女を見つめた。
今、自分が汚してやった太股がある。自分が汚してやった小さな胸がある。自分が汚してやった柔らかな手がある。自分が汚してやった顔が、不思議そうに自分を見ている。
(ああ、駄目だ…オレは…)
リンクはもう一度、少女を貪った。
2005年07月11日
04:07
9:悪いJKには悪いF5を
ゼルダを懺悔室に残したまま、自分の入ってきた扉から出ようとしたその時、外から声がした。
(あ……くそ!やばい!)
今、人が入って来ては、まずいことになる。まずい。いけない。そうだ、隠れないと…リンクは咄嗟に、聖母マリアの影に隠れた。
つま先に何かが触れた。
(何?)
何か堅いもの…それは埃を被った、小振りの剣だった。その革の鞘に収まっている剣は、場違いと言うか…この教会に似つかわしくはあったが、時代錯誤なものだ。
(剣?…剣?なんなんだ?)
リンクの戸惑いをよそに、扉が開いた。
おおよそ神父ではないであろう、二人の男が現れた。浮浪者。ハイラルで最も「マジョリティー」と呼ぶに相応しい者達だった。
「よし、あの神父がいねぇぞ…ファックだぜ。話の通りだ」
「ガキどもと、畑仕事ねぇ。俺達ゃ約束通り、お留守番だ。俺達はお利口さんだからな」
「バカな野郎だ。ファックだぜ。なんで俺達を信じたんだろうな?」
「そりゃ、バカだからだろ。さて、まず金目のもんだ」
「へへへ…ファックだぜ…聖母マリアをファックしてるみてぇだ…」
リンクはたじろいだ。鼓動が早まり、汗が急に噴出す。まさか本当に、こっちに来てるのか?聖母マリアをファックしに。だが、男の呟き(ファックだぜ!ファック!)は遠かった。
「ファックか…“ハイラル”ってのは、原住民どもの言葉で“神々の住む土地”なんだとよ。聖母のアレを、おっ開けて見せてやれ」
「はっはっは!!文明人様の、ありがてぇ性教育だ!!ホーリーファック!!」
ナイフを持った浮浪者が礼拝堂を侵すのを、リンクは見ていた。
(神父じゃない。賊か?)
浮浪者達は嫌らしい笑いを浮かべ、周囲を物色していたが、やがて顔が曇り始めた。それはそうだ。ここに金目のものなど、無い。
愚かな奴らだ…リンクには彼らの考えが読めた。ここの神父がどういう男なのか知らないが、人助けをしているヤツは生活に余裕があると思ったのだろう。こんなハイラルの片隅に、そんなヤツがいるもんか。
(ホーリーファックね…てめぇがホーリーファックだよ)
マリアの後ろから、笑ってやった。
だが、その笑いは数秒で消えた。浮浪者達の後ろで、懺悔室のカーテンが揺らいだのだ。
カーテンの影から不思議そうに周りを見ながら、のそのそと少女が這い出してきた。
(馬鹿!出てくるな!)
ゼルダは男たちを見つけると、リンクにそうしたように、幼児の足取りで近付いて行った。
「あー」
礼拝堂に、少女の声がした。
浮浪者達が振り返る。
「………ファック」
「ハイラルの神々は慈悲深いな、ええ?」
リンクは目を背けた。
(やめろ)
何を言ってる?お前だって、好きにやったじゃないか。
「はっはー!何だこいつ?もうヤラレちまったみたいだぜ?神父の野郎か?傑作だぜ!イエスのジョークは、ファックだな!!」
「聖書ってのは、まぁ誤植だったわけだ。汝、姦淫せよ。探せば、まだ訂正すべき箇所があるだろうな」
恥辱。自分が辱めを受けている気分だった。いや、きっと自分が辱めた少女を人に見られるのが、耐えられなかったのだ。なんなんだ、オレは?何か教会にあってはならないものが…とりわけ、この教会には相応しくないものが、リンクの心で蠢いた。
(知るか。知るもんか。あんなワケのわからない女がどうなろうが…オレは逃げなきゃいけないんだ…そんなの放って逃げなきゃ…)
少女の反応は、リンクの時と違った。なぜなのか、神の意志だったのだろうか…或いは悪魔の?…少女は脅えた子供のような泣き声を上げた。
聞きたくない。
リンクは耳を塞ぎ、目を閉じた。
そこに圧力が生まれた。
やめろ、親父。
オレの前でそんな風にするな。
そんな風に母さんを殴るな。そんな風に母さんを犯すな。そんな風にオレを笑いながら…やめろ…オレが黙って見てると思ってるのか?思ってるんだな?そんな風に母さんを…オレを……原型を留めていない頭で…痙攣する手足が…口から黒い液体を…そのナイフは…灰皿は……そんな風に…また…そんな風に母さんを…オレを……ゼルダを……
剣が、手に触れた。
「うわああああァァァぁぁぁーーーーーーーー!!!!」
聖母マリアの怒りの声か…そう思って呆然と立っていた男は、リンクの振り下ろした剣で、右肩を砕かれた。
「ひぎ、ぃ、ぎゃぁあぁぁがぁーーーーー!!」
赤黒い、汚らわしい液体が噴出して、右腕が床に落ちた。
もう一人の男は逃げようとしたが、下ろしたズボンに足をとられ、倒れた。腕を落とされた男は…もっとも彼は、自分の腕が落ちたのに気づく余裕などなかったが…羽のつぶれたセミのように、のたうった。
「ぇぁ、あめ、や、は、やめてくれぇぇ……!!」
喉・舌・呼吸、それらが激痛で乱れた声は、聞く者の本能にいびつに突き刺さる。唾液…胃液?何かが喉と舌を絡めて…息、息をしないと…
剣が男の左脇腹をえぐった。
「ぐんんぃい…!」
視覚と聴覚が焼ききれそうな…息が出来ない…腹の中から熱と冷気が…
第3の斬撃は、こめかみだった。
男は何も言わなくなったが、殺人者は荒れ狂い、男を切りつけ続けた。顔、首、頭。剣の長さ上、頭部よりも床を砕く割合が多いことが、殺人者を苛立たせ、だんだん「きひぃぃ!!」と吠え始め、やがて知恵をつけたのか、剣を逆手に持ち、突き下ろし、頭部を砕いた。
「やめろ」
声にリンクは振り向いた。
もう一人の男がナイフを持って立っていた。今にも振り下ろそうとした右手は動かない。手首を大男につかまれていた。
制止の声を放ったのは、大男の方だった。胸のあたりで十字架が光る。そのみすぼらしい服は、神父のものだった。
「あ、ああ…神父様、お許し下さい…もうファックしません…だから、だから」
「やめろ」
神父はもう一度、制止を命じたが、リンクには聞こえなかった。
剣が浮浪者の喉を突き通した。
炎だ。
この暗黒の中には、2つの炎しかない。
1つは真っ赤な、しかし濁った炎。1つは青く絡みつく、そして湿った炎。
1つが激しく燃え盛れば、もう1つが小さく揺らめき、やがて逆転して燃え盛り、もう1つが小さく…何度も何度も繰り返し、とうとう2つの炎が荒れ狂う。
向こうに父がいる。ああ、またか。また母さんを殺しているのか。リンクは歩み寄る。
ええと、何だったか、ほら、あの時は、そうだ、ナイフだ。そして灰皿だ。だが親父。見ろよ、これを。剣だ。聖母マリアの剣だ。どうした、ビビったか?オレはもうビビらないぞ。生き返ってみろよ。何度でも殺してやるよ。お前なんかに、お前みたいな邪悪なヤツに。お前みたいな。
逃がさない。リンクは笑いながら、脅えた父を切り刻んだ。濁った炎が盛る。
やがて湿った炎が盛り、リンクは母を犯していた。
ほら、母さん、オレの好きなように、オレのしたいように、無茶苦茶に、全部、足も、手も、胸も、背中も、唇も、その湿った下腹部も…親父みたいに、ゼルダみたいに、口の利けなくなるまで、何もわからなくなるまで、オレのしたいように、無茶苦茶に…
気がつくと毛布にくるまって、ココアを飲んでいた。
(…どこだ?)
向こうに女がいる。ああ、ゼルダ。その横にいるのは、誰だろう。神父か。そこのビニールシートはなんだ?何を包んでる?2つあるが。まさか死体か?誰か死んだのか?まさか、うちの…はは、まさか。その隙間から見えてるのは…
「ひぁ…!!」
カップを落とした。急に回復してきた現実感が、恐怖となってのしかかった。震えが始まった。止まらない。またオレは…今日はなんなんだ?何でオレが…
ゼルダと目があった。神父も、リンクを見ていた。ゼルダ…見るだけで、息が出来なくなる。罪悪感なのか。
「そ…その女は、あ、あいつらが、う、やっ、やったんだ」
何を言ってるんだ、俺は。
「そうか」
神父が答えた。そして立ち上がり、こちらへ歩いて来る。大きな男だ…そして…父に似ていた。だが父がブタなら、この神父は猪だ。その猪が、リンクの目の前へ到達した。
「ひ…!」
殺される…しかし、神父はリンクの肩に優しく、たくましい手を置いた。
「今日は、もう寝なさい」
急に教会の空気が、羊水のように肺を満たした。
沈黙。その間、神父は手を離さなかった。
リンクは頷いて、そのまま自分の膝に顔を埋めた。ゼルダの声が聞こえる。神父の手…なんて暖かい…ずっとここで座っていたい…
「名前は?」
暖かいよ…
聖母マリア、まだオレに微笑んでいるのか…
「リンク」
少し離れたところで「うー、ぜるだー」と聞こえる…ごめんよ、ゼルダ…
「俺はガノン。ガノン=ドロフ神父」
オレはいつか、懺悔できるでしょうか、ファーザー。
2005年07月11日
14:41
10:遊帝(あそびてぇ)
おお、精霊たちよ。願わくば、私をあの部屋から出してほしくはなかった。
「まず最初に伝えておこう。私は君を高く評価している」
「………」
クッパが無言でいるので、まずカービーが口火を切った。
クッパはカービーによって面会室へと連れ出されていた。特別収容室を出るのも、自分以外の生身の人間に会うのは久しぶりだ。その久しぶりの相手が、この醜く太ったピンク色の肉塊だというのは実に面白くない話だが。
「色々と誤解があるようだ…。私も、君が前大統領暗殺の犯人であるとは思っていない。…そうとも。君のように善良で誇り高いネイティブが、そんな蛮行をするはずがない。まして警視にまで登り詰めた男だ。元上司として、君を誇りに思っている。…だが、陪審員はそれを認めなかった。とんでもない話だ。正義と、それを守るための法律が、一握りの人間の浅はかな判断で決められてしまうとは。…この国は病んでいる」
「………」
クッパには分かっている。
この男は自分を恐れているのだ。
確かに、カービーが言う通り収容所に容れられるような事をした覚えはない。全てこの元上司の仕掛けた罠なのだ。そんな事は陪審員達も知っている。
「…話が逸れたようだ、"誇り高い亀"。君の一族のトーテムは亀。一歩一歩を踏みしめ、伝承によると1万年は生きると言われている。…高潔な生き物だ。君と同じく。なにより…」
「…能書きは結構だ、署長。何をしに来た?」
クッパの低く響く声がカービーの大仰な動きを制止させた。
「ああ、失敬。そうだ。そうだったな。なんの話だったかな…。そうそう、亀の話だったな。そう、まさに亀の件なんだよ。君に会いに来たのは」
心拍数が上がっている。発汗も多い。カービーは明らかに自分を恐れている。クッパの全身の五感がそれを感じ取っていた。例のキノコによる力だ。
「…亀?」
「そう、亀だ。覚えていないか?あの男を。君同様、この収容所のキノコに屈さなかった"適合者"だ。最も…君と違って"彼"は正常な判断力を失ってしまったようだがね。まぁ、もともと"彼"が常識的だったかと聞かれると、大いに疑問だと言わざるを得ないが………」
…なぜ"文明人"はこうも冗長な話し方をするのか。
「つまり、あの男を消して欲しい。そう言う事だな」
クッパは一刻も早くこの男から離れたかった。その為にはさっさと結論を出してしまうに限る。
「…君の聡明さは本当に賞賛に値する。…だが"消す"というのは少々言葉が悪い。これはチャンスだよ。君が、自由を取り戻す為のね。既に"彼"は精神面も肉体面も、そして倫理面でも人間とは言い難い。そんな危険な存在を速やかに排除する。これは立派な平和維持活動だ。…そうは思わんかね?」
「化け物の相手は化け物に、か。あんたの考えそうなセコイ手だ」
カービーの顔色がピンク色から真っ赤に変わった。怒りで痙攣している。しかし爆発には至らなかった。
「…やはり誤解があるようだな。私は君を化け物だとは思っていない。むしろ、君は部族のトーテムに導かれた、現代の戦士で…」
「悪いが、お断りだ。他をあたってくれ」
沈黙。
カービーはますます赤くなっていく。
「…クッパ君。私は君の無実を信じているからこそ…」
「帰ってくれ。あんたの都合で動くくらいなら特別室のベッドで寝ているほうがマシだ」
再び沈黙。
カービーの顔はもう赤いどころか白くなって来ていた。
「…薄汚い土人が何様のつもりだ!俺の親切心が分からんのかぁ!ケツの穴から生まれて来たカメ頭め!ババァとガキの腐れマ○コでも舐めて脳に梅毒が回ったか!?聖母も知らない田舎者が!犬のゲロを食う野蛮人め!しみったれたお前の先祖はユダヤの豚の小便を飲んで喜んでるスカトロ野郎だ!代々カメとファックして来た知恵遅れめ!」
カービーは考えつく限りの罵詈雑言を並べ立ててクッパを激しく罵倒した。これがこの男の本性なのだ。
「…俺の事をどう言おうが構わん。が、先祖を愚弄する事だけはやめてもらおうか」
クッパはゆっくりと立ち上がった。巨大な岩がのっそりと立ち上がったような威圧感は、部屋がいきなり狭くなったかのような圧倒的な迫力があった。
「くぇ!?お、俺に手を出すなよ下痢気味のケツの穴野郎!俺に何かあったらどんな目に会うか…」
カービーは後じさった。この男がその気になれば自分など瞬きする間もなく殺されてしまう。「い、いいか!てめぇは俺には逆らえねぇぞ!Bullshit(ふざけるな)!てめぇが俺の言う事をきかねぇってんなら…」
カービーは壁にある警報装置を押した。収容所全体にけたたましいベルが鳴り響き、すぐに武装した警備員が面会室に飛び込んで来た。警備員はいずれも貫通力の高いアサルトライフルで武装している。囚人の鎮圧ではなく、明らかに殺害を目的とした装備だ。
「俺にライフル弾など効かん。知らないわけではないだろう」
クッパはゆっくりと警備員達を見渡した。皆、囚人がクッパである事を知っておよび腰だ。一般人ならともかく、キノコに"適合"した人間の前では銃などなんの役にも立たない。
「ヒ、ヒヒヒ!お前はそうでも、あの親子はどうかな!?死ぬぞ!?死んじまうぞぉ!?ボロキレみてぇに、道端の犬コロみてぇにアッサリとなぁ!」
「…なんだと?」
「あの親子のところに武装警官隊が向かってるんだよ!親父の方はどうにかなっても、娘はどうかな!?いひひひひ!知恵遅れの薄汚い淫売のメスガキのほうは!?げひ、ぎぃひひひ!」
「きさま…俺の友まで………!」
「分かったか!?てめぇは逆らえやしねぇんだ!」
「くっ…!」
おお、精霊たちよ。願わくば、私をあの部屋から出してほしくはなかった。
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